30杯目 僕と攻撃的な彼女。
暫く矢撃の人が変わったかのような笑い声が続いたが、やがてボリュームが落ちてくる。
「・・・・で?ヤゲキは敵ね?」
自分の右手を見ながらどうでもよさげに聞くエーデルガルド。
「はッ!!そうだといっただろうが!!」
「そう。じゃあこうね」
瞬間、掻き消える彼女。
何度も見た光景。
いや、何度も見れなかった光景。
今回も結果だけは同じ。
「ごぶぁっっ!!!」
もんどりうって縦に二回転しながら地面を転がるように吹き飛ぶ矢撃。もはや何もできる状態ではないのか、無言のまま地面に倒れビクンっと体を痙攣させている。
「手加減しすぎたかしら。」
恐ろしい威力。しかし彼女は手加減しているという。
考えてみれば先のヴォルフや祓が吹き飛んだ時と比べれば明らかに弱い。
いつか自分でも考えたことだがブロック塀を粉砕できるような奴らだ。
ただの人間の強度しか持たない矢撃の体がもつわけがない。
「結界も消えてないし。殺したくはないのだけれど。あぁいいこと思いついたわ。」
結界を消したいが、殺したくはない。
そういう理由で殺さず意識を失わさせようと殴ったようだが失敗。
そこで彼女が思いついたのは。
「爪をはがすわ。次は指を折るその後は足。それでもだめなら頬骨とか肋骨とか命にかかわりにくい部分を順番に折っていく。」
ザリ、ザリ、と地面をこする音を響かせながら倒れている矢撃に向かっていく。
「いィ・・・・・うぐるぶぅぶぐ・・・・・」
うつ伏せのまま矢撃が何か言う
「やはり意識があったのね矢撃。まあどちらでもよかったのだけれど。結界を解いたらやめてあげるわ。」
すっと矢撃の手を取る。
遠いので詳細は見えないが、矢撃の親指親指の爪に自分の爪を当てているようだ。
行くわよ?との声。
そして力を入れようとしたところで奴が動く。
「そこまでだ。」
エーデルガルドの真横に、右足を後ろに大きく引きまるでサッカーのシュートのような態勢のヴォルフ。
「おぉぉぉ!!!」
ドン!!と肉が肉を打つ音。
しかしエーデルガルドはしゃがんだ状態からバク宙するようにして衝撃を逃す。
余裕をもって空中で回転した彼女は、ヴォルフの一撃を受けたとは思えないほどに軽やかに着地した。
そうしてうっすらと笑いながら彼女は言う
「さ、て。」
その笑みを向けられるヴォルフはダメージを与えられなかったが当然、と言わんばかりに動揺していなかった。
ただエーデルガルドのバク宙によってわずかに開いた空間に静かに佇んでいた。
「ヴォルフ、あなたも私の敵ね。わかりやすくなったわ。」
「流石に、今のお前を見過ごすわけには、行かないな。」
へぇと興味なさそうな声を返し、エーデルガルド。ゆったりとした動きで掌を見た次の瞬間高速移動!
振り下ろした拳は轟音とともに地面に大きなへこみを作り出す!
が、その一瞬前に襟をつかみ拳の命中するはずの場から矢撃をヴォルフが躱させる。
その懐に現れるエーデルガルド。
ボディーブローがヴォルフに直撃。
下がる頭。
アッパーが直撃。
頭が弾かれた頭が上に弾けた瞬間上から挟み込むように落ちてくる逆の振り下ろし。
そのあとはヴォルフの体が次々といろいろな方向に吹き飛ばされ続ける一方的な展開だった。
血が、歯が、肉がはじけ飛ぶ。それでもヴォルフは立ちはだかり、回り込もうとするのを妨害。その代償にエーデルガルドのハイキックを食らう。
「いいかっげんに!!!しな!っさい!!」
ダガゴゴッ!!と漫画でしか見ないような超高速のラッシュ。
それでもヴォルフは肉体の限界を超え、倒れない!!蹴りなどを受け止めた指はどう見てもすべて折れているし、何本か千切れとびすらした。
しかし両足を叩き折られて肉もだいぶはじけ飛んだヴォルフはとうとう自立できる限界を突破。
がくりと崩れるヴォルフ。
「ふぅーーー!!ふぅーーー!」
息を荒げながらもヴォルフの上を抜け矢撃に近づくエーデルガルド。
しかしその歩みも数歩で止まる。
足首に巻き付くヴォルフの腕。
「------」
エーデルガルドは怒りが限界を超えたのかとうとう無表情。
ピキピキと音を立てながら右足を振りかぶる。
狙いは頭!?
いくら化け物でもそれは流石にまずいだろ!
「エーデ・・・」
「おっさんの待たせたな!!」
僕が声をかける直前、矢撃の声が聞こえたかと思うとエーデルガルドの目の前に弾丸が一発放られる。
「我が血を捧げる!!」
バン!!と音を立て、閃光をまき散らす。
ダメージはない様だが目のくらんだエーデルガルドがヴォルフから手を放した瞬間矢撃がすかさずヴォルフの腕をつかむ。
その口にくわえているのは。
「あれは転移札?」
「あばよ!!!」
右手でヴォルフを触ったまま左手で札を破る。
その瞬間ヴォルフと矢撃はかなり白っぽい青い光に包まれ消えた。
少し前に聞いた説明が本当ならばどこかの隠れ家に瞬間移動したのだろう。
エーデルガルドはイラつきを隠せない様子で地面を一度蹴ると、こちらを向いた。
笑顔で。
血まみれの笑顔で。
正直に言おう。
今、僕はヴォルフよりもエーデルガルドのほうがよほど怖かった。
そうこわかったのだ。
だってそうだろ?
なんて顔でヒトを傷めつけやがるんだよ・・・・。
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