29杯目 僕と嘘つき共
僕が動けなくても会話は続く。
凡人はひたすらに話に置いて行かれるだけだった。
「まず立場をはっきりさせようかしら。」
先ほどまでと異なり余裕さえ感じられる態度になったエーデルガルド。
「今現在の圧倒的強者は私ね。なんといっても無傷。ダメージがあって外見だけ整えた化け物と反動でボロボロの防衛士。」
「はぁ・・・はぁ・・・」
矢撃は僕の予想以上に消耗しているらしく、何も言い返せず肩で息をしている。。
一応訓練していた間に聞いた話では風呂敷に包める程度ならば反動があるとはいっても多少身体がだるくなる程度だと言っていた。
僕が覚えている限りの防衛士の技の詳細を思い出す。
矢撃の技は『代償』の魔術と呼ばれる。
そう、魔術も世の中にはあるらしい。
少なくとも系統分けされて、何々の魔術と言われる程度には数も。
化け物もいたんだからおかしな話ではないが。
話を戻して代償の魔術に関しては、代償が通常の魔術とは異なることが最大の特徴であるらしい。
大抵の魔術、魔法で代償は必要とされる。しかし基本は術者の魔力、妖力、霊力、念力などのそういった不思議力を消費するらしい。
しかし矢撃たちはもう能力の劣化が激しく、もはや魔術を魔力などで発動することはできなくなっている。
よって魔力が供給できず魔術が使えない、となるそうだ。
しかしだからと言ってあきらめるわけにいはいかない。その結果生み出したものが代償を捧げることだった。
代表例は先ほど行った血を代償に血に含まれる魔力を用いて術の起動を行うことだ。
普段の光の砲撃は中に装填されている血液を火薬から生じる可燃性ガスと空気の混合物と放出。
そのガスに攻撃性を持った魔術を乗せている、そうだ。
その際に大切なのは弾丸に込められた魔力によって威力が決まること。
つまり放つ際に必要なのは起動に必要なエネルギーだけであることだ。
弾丸を放つ際に必要なのはせいぜい数ミリリットルの血液なそうで血中から捧げることで体内から消失しているらしい。
今回使った弾数から計算すると400~500ミリリットルの血液が消失したことになる。
通常ならば消失速度を考えるとそれなりに危険だ。
しかし矢撃は血液で素敵な贈り物を作るために例の効果の異常に高いなぜか傷が治る札の一種、『増血符』を使っていた。
『増血符』は不足した血液を作る能力のある札。
そのため不足しても多少ふらつきや吐き気出ることはあるかもしれないがその程度で済む、と聞いていたのだが。
ちなみにこの札は防衛士の作った物ではなくほかの魔術で作られるものだそうだ。
「防衛士のその消耗具合は過剰に魔力を消費しすぎたのね。自分の限界を見誤ったわね。」
「ハァ・・・ハァ。グッ・・・なぜこんなに消費が・・・」
苦しそうにしながらも疑問を隠せない矢撃。
エーデルガルドがこちらをちらりと見る。
そのまま視線を前に戻すと矢撃に対して声をかける。
「まぁ、あなたが弱っているのは好都合なの。」
返事はなく息使いだけが聞こえる。
「あなたが一番の敵だからよ。」
ちょっと待て。
「エーデルガルド?なんでそいつが?そこにいるヴォルフが敵なんじゃないのか?」
ちらりと今度はヴォルフを見る。
腕を組んでこちらを見ている
「・・・まぁいいわ。ヴォルフはね敵ではあるけれど絶対的な敵ではないのよ。詳細は省くけれど、場合によっては協力もあり得るの。」
例の肉親だ、という話だろうか。詳細が気になるが彼女は今は話す気がない様だ。
「でもあなたはダメね。ヤゲキ、だったかしら?あなたは敵だわ。」
「いや、それはおかしい。矢撃は僕と一緒にヴォルフと戦って君を助けようとした!」
「シュンヤ。あなたの素直さは美徳だけれど。一ついうなれば助ける気があるならば助けたい人間ごと爆破なんてしない!」
「いや違う!!あの封印の札は破壊されると脱出できるだけだ!君に危害がないことを聞いた!!」
そんな僕の言葉に少し黙った後エーデルガルドは声を出す。
「・・・誰から聞いたの?」
「・・・矢撃。」
はぁ、と溜息を吐いてエーデルガルドは諭すように言う。
「嘘じゃないという確証は?本当だとして、破れて脱出した後の爆破は食らうわよ?なぜ祓の能力の詳細を知っていたの??」
え・・・・?確かに・・・
「やはりおかしいわね。怪しすぎる・・・・わ!!!」
バガァ!!と石が砕ける音。
いつの間に拾っていたのか握っていた石を素早く投げるエーデルガルド。
それと同時に矢撃は銃撃。
空中で両者は衝突。
石は砕け光はどこかへ逸れた。
それを見て銃をこちらに向けたまま肩を震わせる矢撃。
「くかかかか!!やっぱり違うなぁ!!化け物ってのは騙されなれてやがる!!」
急に立ち上がる矢撃。
ダメージがなくなったわけではなくやや弱ってはいるようだがだいぶ回復もしている。
「お前たちの流儀にのっとって改めて名乗ろう!!!」
銃をこちらに突き付け
「第二世代防衛士 矢撃!!貴様らの敵だ!!」
昨日の同志は今日の敵。
そんな言葉が頭をかすめ途方に暮れる。
また敵増えたし、嘘つきでだらけで。
僕は誰を信じればいいのさ・・・
嘘つき共の集会はまだ、続く。
遅くなりました。
よんでいただきありがとうございます。




