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2杯目 僕と化物

息が整うにつれて色々なことが気になったがまずは身だしなみを整えることになった。彼女の服は血まみれだし埃まみれで戻してもいたので正直かなり匂った。


彼女も自覚していたようでシャワーを使うか聞くと即答で使うといった。


服は手洗いするとのことなので少し大きめな洗面器と、自分の中学の頃のジャージの上下とTシャツを渡しふろ場に案内して鍵のかけ方などを教える。


彼女が浴びている間に僕は二階に行き濡れタオルで服をぬぐう。埃と汗(冷や汗含む)で汚れてはいたが彼女ほどではないかったので簡単に拭うと、下に降りて紅茶を入れる。


飲み物にそこまでこだわりがあるわけでないが、紅茶はティーパックではなく葉で買っている。


沸いたお湯をティーカップに一度入れ戻す。

ティーポットの紅茶に少しお湯をかけ30秒ほど蒸らして残りのお湯を注ぐ。細かく言えばまだまだおいしい紅茶の入れ方はあるらしいが僕にはこの程度で十分。


ティーポットにカバーをかけリビングまで運ぶ。


少し待つと彼女が出てくる音が聞こえたので少し大きめの声でバスタオルのある場所を伝え、さらに少し待つと彼女が出てきた。


「シャワーありがとう。服を干したいのだけれど・・・。」


「二階にあがってすぐの部屋を使うといい。今はだれも使っていない部屋だよ。掃除はしてるから埃はないはず。」


彼女は礼を言うと上に上がり洗濯物を干して降りてきた。


「妹さんがいるの?」


「そう思うでしょ?母親の部屋だよ。」


ぬぐるみであふれたあの部屋。僕だって彼女の立場なら中学生とかの部屋だと想像する。


「そう。かわいらしい人ね。」


言葉少なに頷く彼女。何考えているのかは読めない。


「さて、そろそろ質問してよいかな?」


「はい。マシロ。でもまずこれだけは言わせて。あの時逃げても誰もあなたを責めなかった。逃げなかったあなたは確実に判断を間違えている。けれどそのおかげで私は助かった。」


こちらを見つめて続ける。


「あなたに最大級の感謝と敬意を。」


テーブルに頭をつけるほどの礼をする彼女。

その前でティーカップを表にして紅茶を注ぐ。紅色の綺麗な紅茶だ。彼女の分と僕の分。彼女の頭の横にスライドさせて何でもないように僕は言う。


「まずは名前と出身地から行こうか。僕は真白 俊也。シュンヤ マシロのほうが通じるのかな?出身はこのあたり。」


「どちらでも平気。わたしはパルバム・フォン・エーデルガルト。」


「・・・出身地は?」


「え?あぁ。パルバム、というところらしいのよ。フォンはどこどこの、という意味。家からは出なかったから実際どのあたりの国なのかはわからないけれど。ここは日本よね?」


「そうだよ。僕が思っていたより神秘が隠れていたようだけど。日本語はどこで?」


「普通に家の中では日本語で会話していた。たまにドイツ語もあったけれどほとんどが日本語。話すのも日本語のほうが話しやすい。」


「それは助かる。英語も無理なのにドイツ語なんて話にならない」


そうして僕は紅茶を一口含む。

ゆっくりとソーサーにカップを戻す、がカチカチとカップとソーサーが触れ合う音がする。


彼女は無言でこちらを見る。

心なしか眉がより心配そうな顔をしている。


あぁ、もう。臆病者。


「・・・すまない。見栄を張るのはやめるよ。」


こくり、とあの強い視線を僕に向けたまま彼女は頷いた。


「っなんなんだよあんたたちは!!なぜここに来た!!あいつはだれだ!?裁定者ってのはなんだ!?今安全なのか!?なんであいつは帰ったんだ!?次はいつ来る!?」


恐怖にに震える声、止まらない動機。僕は冷静なふりをしているだけだった。


「まず、ここは安全。」


「なぜ!!」


「招かれなければ入れない。」


「パーティー会場かなんかかウチは!あいつなら壁蹴り破っておしまいだろ!?」


「そういう力の問題じゃないの。これはこういうものなの。」


「どういうことだ!」


「招かれなければ、入れない。名乗らなければ、争えない。他にもにもあるけれどこれはこういうものなの」


「だから理由を・・・」


「信じて。」


強い瞳。強く輝く紫の瞳。菫色(すみれいろ)の透き通った瞳にどうも僕は弱かった。顔をそらしごまかすように紅茶を飲み切る。


「・・・ふぅ・・・わかった。信じるここは安全。でも聞きたいことはほかにもある。君のことだ。」


「当然ね。」


「ああ、当然だ。まずその目。紫色・・・人間の虹彩は紫にはならない。綺麗だとは思うけど」


「ありがとう。」


「・・・どう致しまして」


意識して話をそらしているのか、天然か。わからないな・・・


「ほかにもある。ブロック塀を突き抜けてきて、死んでないどころか数分経てば走れる?どう見ても普通じゃない。僕は物理学者じゃないけれど普通なら死ぬことぐらいはわかる。」


「・・・簡単に言えば私は、私たちは化け物、モンスターそういわれる存在ね」


「悪魔か?ゾンビか?天使や機械化なんてのもあるか。しってる?日本のアニメの空想力は並みじゃないんだ。」


「まあ私たちの種族も有名は・・・有名、かもね。」


「もったいぶらずに言ってくれ。」


「私・・・・たちは・・・・」


「・・・・?どうした?」


ゆらりとしている彼女。


「ひどく眠い・・・。」


先ほどからの反応の悪さは眠気か。無理もないか。ヴォルフに追われて、やっと逃げられたところでシャワーも浴びて。


「あー、もう。わかった。仮眠とってからでいいよ。」


「・・・そういうわけにもいかない・・・申し訳ないけれどコーヒーをいただけるかしら。」


うつらうつらとしている彼女の声に仕方なく立ち上がる。


「うちはあまりコーヒーを飲まないんだ。インスタントならあったはずだから探してくる。ちょっと待っていて。」


台所に行くが見当たらない。上の戸棚や流しの下など探し回る。


「ここになければ・・・っあこんなとこにこの鍋あったのか・・・」


探すこと5分ほど。ようやくインスタントコーヒーを見つけてお湯を注いで持っていく。マグカップになみなみといれたコーヒーを彼女に渡そうとする。


「お待たせエーデルガ・・・・まぁそりゃそうか。」


彼女は自分の腕を枕にソファーに横になっていた。静かな寝息も聞こえてくる。

僕は今日知り合ったばかりの子がウチで寝ているということに居心地の悪さを感じながらソファーにかけてある毛布を広げ、彼女にかける。


「ここは安全、君の言葉を信じるよ・・・」


二階に上がる。本当は不安で仕方がないが、彼女のあの根拠ない言葉を信じることにする。信じなくても信じても一緒なのだ。逃げようがない。それなら平気だと信じておくほうがわずかにましだった。


眠くはないけれど布団に入り毛布にくるまる。


そうでもしないと僕は恐怖に押しつぶされそうだった。

読んでいただきありがとうございます。

今日中にもう一話更新します。

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