28杯目 僕と凡人
まず初めに動いたのはヴォルフだった。
「------!!ヴぁぐいごヴぁ!!」
エーデルガルドの足もとに駆け寄り落ちていたもの・・・自身の腕を拾う。
「しっ!!」
エーデルガルドが黙ってみているはずもなく蹴撃を放つも飛びず去るように回避。
左手に持った右手を握りつぶすような動きをするとドブッと音を立てて黒く粘度のある液体が手首から先だけの右手から噴き出す。
ひゅるりと右手の断面に黒色の粘液が付くと右腕が吸い寄せられるように飛び接着。
右腕を握って開いて調子を確かめる。
信じられないことにくっついたのか!? 一瞬で!?
そのままヴォルフは胸元から金属のボトルを取り出す。
スクリュー型の蓋のようだが、歪に変形していてあかないことに気が付くとエーデルガルドのほうを見てにやりと・・・いや顔の造詣が崩れているのであくまでそう感じただけだが笑った。
そして左手で缶を持ち右手を一閃。蓋がひしゃげながらも引きちぎられるように空く。
そのままボトルをひっくり返し文字通り浴びるように中身を飲む。実際に三分の一程度は顔面にかかっているように見える。
「・・・・おヴぁえら・・ヨクモやって、くれダな・・・」
聞き取りにくくはあるが意味が取れる話し方に代わる。
「ガッあ・・・あーあー。うむ。」
のどに手を当て声を整える。
右目がぎょろぎょろと動く。
「って!!右目!!!」
「んん?いいリアクションをしてくれるじゃないか。」
そういってこちらを向くヴォルフの顔はみるみる治っていった。
肌が覆い、産毛が生えたかと思えば栗毛が伸びる。
流石に服までは再生しないのかボロボロなままだが、肌の傷はなくなっている。
「そもそも私が何か忘れたのかね?化け物だ。化け物は簡単に殺せたら恐ろしくなくなってしまうじゃないか!!」
「なるほど。あなたもそっち側、の生き物でしたか。」
祓がヴォルフに対して身構えていたのを解く。
「え?」
『けと穢れ』、の話から考えるに祓の基準からすれば穢れであるはずのヴォルフ。
それに対して構えを解く?
「私たちがはらうものにも条件があるのです。穢れ、と見えますがあなたは今のところ私たちの言う穢れである、というだけですね。」
「ふむ。よくはわからんが。ハラエは私の敵ではない、そういうことかな?」
「誤解を恐れず簡潔に言えばそうなります。」
「それだけわかれば、もういい。」
そういいながらも警戒している態勢は崩さないヴォルフ。
「それでは私は帰らせていただきます。人間と人間と化け物化け物。しかし私の敵は一人もいません。失礼いたします。」
すっと頭を下げるとその姿勢のまま袴の下の方から色が周囲と同化してい気が付けば祓はいなくなっていた。
「融和、の魔術か。初めて見たがなかなか興味深いな。さて、エェェェデルガルド!!どうするのかね!」
「そうね。まずは余裕そうに見えてその実一番弱っている叔父様から、やらせていただこうかしら。」
「・・・ほう。よくぞみやぶっ」
「時間稼ぎにはのらないわ。」
「・・・なかなかやるものだね。」
実際に時間稼ぎのつもりだったのだろう。やや動揺するヴォルフ。
そんな彼女らの声を聴きながらも僕は動けない。
正直状況が全くつかめていなかった。
まずエーデルガルドを捕まえていた祓の封印を解く、という行動。
そのあと立ち去る祓と追いかけないエーデルガルド。
その状況下で消耗もあるだろうが会話に加わらない矢撃。
だれがどういう意図でいるのか全く分からない、そんな状況だった。
しかし僕の胸の内を占めるのはそんなことではなかった。
ただただ悔しさ。そして無力感。僕は何のためにここにいるのだ。
助けに来たつもりが助けられ。
倒すつもりの準備は手伝いに終わり。
今度は会話の内容もわからない。
世界のすべてが僕のことをしょせんは凡人と言っている気がした。
短くて申し訳ありません。
読んでいただきありがとうございました。




