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26杯目 僕と爆破。

いや、落ち着け!落ち着くんだ僕!わかっていたことだ!!

いかに後ろから至近距離で俺たちの攻撃を直撃させてもヴォルフ(化け物)を一撃で倒せるわけない!!


攻撃力が不足しているのはわかっていた!矢撃の銃撃を片手でこともなさげにたたきつけ・・・いや、叩き潰した(スマッシュアップ)ヴォルフだ。


不意打ちのために全力(フルバースト)で打ち込めないことからも矢撃もほとんどダメージを与えることはできないだろう、と言っていた。


だからいい、ほとんど作戦通りだ!!あるはずのかすり傷がないだけ!!

次は逃げる!罠のポイントまで10メートル!!


小刻みに震えながらも矢撃が撃った瞬間から()退(ずさ)り逃走を開始した僕が奴の無傷を見たのは下がり始めて二歩目。振り返りながらヴォルフの声を聴く。あと八メートル!!


「次はそちらか。」


背後からの声を聴きながらさらに三歩残り四メートル!!

ドン、という音ザガァ!!と土を抉る(えぐ)音。



「ここでいいのかね?」

次の瞬間目の前のヴォルフが話しかけてきた。



「なっ!」

慌てて制動。停まり切れずに二歩進む。手を伸ばせば届く距離。

勢い、下がる頭部にヴォルフが声をかける。



「おぉ、殴りやすい位置だな?」


悪寒。動く影

動く足元。

風を切る音。

ヴォルフの打撃が迫りくる!!

その時。




響く銃声。




「俊也、無事だな?」



吹き出した汗、荒い呼吸。話すことはできないがどうにか首肯して見せる。


細く光が立ち上る銃口とこちらを見る矢撃。

掌から立ち昇る煙を眺めるヴォルフ。


僕の後ろから膝をついた矢撃がヴォルフの右腕を撃ち抜いたのだ。

先ほどとは異なり、わずかとはいえ矢撃の攻撃はヴォルフに傷を負わせた。

その傷を数秒眺めて煙が完全に消えた後手を開閉し調子を確かめヴォルフが口を開く。



「ふむ。なぜ、かね?先ほどより遠くから、ためもなしに放った一撃がどうして私の皮膚を貫通し血をにじませているのだ?」


「そりゃ簡単なことさ。」


矢撃の目くばせに僕は元の位置にまで戻る。

矢撃はそれを見ながら話を続ける。


「エネルギーってのは総量だけじゃない。密度だって重要だ。」


ヴォルフがゆっくりとこちらへと間合いを詰めてくる。

僕は地面を見る。


納得したように頷くヴォルフ。


「なるほどなつまり先ほどは圧縮して・・・」



「いまだ俊也ぁあああ!!!」

突然叫ぶ矢撃!!


僕もお約束なんて無視して(話してても関係なく)!全力で踏み抜く!!


ヴォルフに効果のある(簡単なつくりの)罠!!


「落ちやがれ!!」


落とし穴!!





ぼごぉ、と音を立て崩れ落ちるヴォルフの足元。先ほどの者とは比べ物にならない深さ三メートル、二メートル四方の落とし穴。重機を使って堀ったバカでかい落とし穴だ。



「・・・・つまらん。」


話の途中で遮られたヴォルフ。しかし所詮は落とし穴。

ヴォルフからすればジャンプで飛び越えることのできる高さ。

不意を突いても余裕で着地できる。

そんな罠に心底あきれたような声を出す。



そんなことが分からなかったのか?落とし穴でたおせるとおもった?





そんなわけはない!!!!



「それで終わりなわけないだろ!!我が血を捧げる!!!」

高く飛び銃口を下に向け穴の下のヴォルフを狙う矢撃。




青白く光る銃と落とし穴の中の壁(・・・・・・・・)



「ぬぅっ!!」



初めて明らかな焦りを見せるヴォルフ

その姿を見たか見ないか。矢撃の一撃が放たれる!



どぉ!!!という音!弾ける土埃。周りの巨木もゆさゆさと揺すられ僕の体も一瞬浮遊。

なんとか転ばずに済むも両手両足の四本でどうにか体制を保つ。

閃光に眩む視界、爆音による耳鳴り!!



今度は土ぼこりがすぐさま振り払われることはなかった。



ふらつきながらも僕は走る。


そのとき土埃の中から声が聞こえる。




「・・・いま、のはなかなかだ。今の罠ならば中堅どこ・・・ろの黒の団員ならば、倒せた、だろう。人間が出したとは思えん、威力だな。何か代償がある、はずだな・・・。」



口調とは裏腹に息が途切れ余裕がない声。

コートも裾などボロボロになり、腕も生身の腕も見えている。全身泥まみれでよくわからないが、少なくとも五体満足でまっすぐに立っている。穴が広がり直径二メートルほどの円形にえぐられた地面で奴はこちらを見る。




ヴォルフの言っていることは正しい。

矢撃の技は代償を払っている。

草の中から風呂敷に包まれたたくさんのアクセサリーを取り出す。



詳しい理由は知らないが現代の青は昔の退魔士とは異なり、真言や魔力、といった物質以外のエネルギーだけを媒介に奇跡を起こせるほどの力はないらしい。

しかしその青が現代でも退魔士ができる理由は代償を支払うからだ。


風呂敷の端を緩めヴォルフの頭上に投げ込む。



いくら力が弱くなったとはいえ、退魔士の肉体にはまだまだ神秘の力がある。

その肉体を捧げることで奇跡をおこし、戦っているのだという。



そう、矢撃の叫んでいる言葉がそれにあたる。



「っ・・・ぅ我が!!血を捧げる!!!」



つまり今投げたキーホルダーは。

正確に言えばキーホルダーの中の黒っぽい液体は



矢撃の、退魔士の血液(爆弾のようなもの)!!!




ヴォォゴオオ!!

先ほどの数倍当たる大爆破。

僕はもんどりうって倒れるが、その勢いのまま先ほどとは別の藪に突っ込み風呂敷を取り出す!



手加減の余裕なんてない!!ありったけぶち込んでやる!!!

土埃でよく見えないが、大体の位置はわかる!!何度投擲の練習をしたとも思ってやがる!!

そうして飛んで行った風呂敷。




中身は当然。




「矢ぁぁぁああああ撃ぃいいいい!!!」



「がはっ・・・・・我が血をぉぉぉお!!!捧げる!!!」


発動時にかかる負担による吐血。



それでも発動した奇跡は、ヴォルフをを三度爆炎の海に沈めた。 

お読みいただきありがとうございます。

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