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25杯目 僕らの攻撃


訓練と避難を兼ねて森の中にある洞窟内に作られた青の部屋に僕らはここ数日を過ごしていた。

骨が折れるほどの攻撃をされたのは初日だけで、そのあとは打撲や擦り傷こそ絶えないものの、大きなけがはすることなく過ごせていた。


まず気が付いたのは矢撃だった。


矢撃が外から戻ってきて、


「予想を三日も過ぎた10日目にしてようやくだ。来たぞ。」


「とうとうか・・・!どっちだ?」


「ヴォルフ、だったか?黒のほうだ。」



ヴォルフ。その言葉を聞くだけで一瞬体が震える。



「大丈夫だ。俊也の仕事をしっかりと果たせばいい。適度の緊張は大切だが、恐怖するんじゃない。」


「言われて、収まるなら苦労はない・・・。でも、わかった。」


「よし。・・・奴が来るまで残り5分ってとこだ。ほとんど迷わずに進んでいる。だが走らずゆっくりと、だ。」



外に出て奴を待ち構える。

そわそわと落ち着かない。まだ時間はある。



五分で何ができるか考える。


眼を閉じる。


荒い息使いが聞こえる。


ハッハッと短く速い呼吸。ヴォルフが、ヴォルフが来る・・・!





「俊也。」


「はっはっ・・・・?」


「呼吸が荒い。過呼吸になるぞ。意識して息を整えろ吸ってはいてをゆっくりと、だ。」



少し情けない気持ちになりながら言われたとおりにする。徐々に呼吸が収まる。


荒い呼吸は自分だったらしい。



「いいか俊也。訓練をしたといってもしょせん一週間だ。たいしたことはできないんだ。でも、この一週間で勝つ可能性を高めるためできることはしたはずだ。怯えるんじゃない。疑うんじゃない。信じろ。」


「信じる・・・」


「そうだ。あとお前も言ってたじゃないか。助けると決めたんだろ?それなら逃げ場は?」


そうか。そうだ。



「そんなものはない、だ!」




「それでこそだ。残り1分30秒、だったが速度が上がった。くるぞ。」



ドン!という音。何度か聞いたこの音。


目測で五メートルほどの高度まで跳びあがりながらやってくる黒い影。


ドムッと少し湿った音を立てながら僕らの数メーター前に着弾。

手を振り厚手のコートを払う。ばさ、と強く羽ばたくように一度コートが舞いまっすぐにこちらを見る。



「ふむ。探したぞ矢撃。そして・・・シュンヤ、か・・・。」


落ち着いた態度。


「期待通り、ではあるのか。いやいやまだわからんな。」


「何の話をしてるんだぁヴォルフ?」


「君には関係のない話だよヤゲキ。まぁよい。しばらく様子をうかがっていたがやはり本部からの命令は撤回されないようだ。ここでこのままヤゲキの結界を利用しようかとも考えたんだがな。どうも状況がよくはない。申し訳ないが移動させてもらうことにした。」


「つまり、敵ってことだな?」


僕の声に意外だ、という表情を浮かべるヴォルフ。こちらに体を向ける。一歩分動く


「どうしたシュンヤ。聞きもしないのに声も震えず私に声をかけられるとは!見違えるようじゃぁないか!」




馬鹿にしやがって。




「もう一度聞くよヴォルフ。あんたは僕の敵だな?」



「ふはは!いいな!良いぞ少年!!私は敵だ!!貴様らの敵だ!!さて、ならばなんとす!?」


わざとらしく胸もとから札を取り出してエーデルガルドが今ヴォルフの手の内にあることを見せつける。


いいよ。後悔させてやる。あと半歩。


札をしまうと同時に半歩すす・・・・まない。




「だが、残念だな!挑発はあまりうまくないようだ!」


素早く足を一閃。深さ二メートル近い白木の杭を突き立てた落とし穴が露わとなる。


掌を上に向けからかうような動作。ははっ。半歩分足を開いたな(・・・・・・・・)



「どうするか?こうすんだよ!」

自分の足元に埋めてある簡単な仕掛けを蹴り外す。

ヴォルフの足元から、ボゴォ!と地面から立ち上がるようにトラ鋏が立ち上がる!



「これがどうかしたのかね!」


両手であっさりと閉じかけたトラ鋏を止める。

そう、そうだよな。効かないよな。だからだよ!



「別に?音を隠すだけさ。」


そうして僕の視界には光を放つ銃をヴォルフの頭に密着させる矢撃が写る。


「・・・!」

振り返ろうとするヴォルフ。



「遅い。」

それよりも早くガチン!と引き金を引く音がやけに大きく聞こえドっという発光!!青白い光がヴォルフの頭を飲み込む!




直撃!!!(クリティカル!!)


白い煙が奴を包む。完璧なタイミング!


その結果は。









「ふむ、もう一度言おうか。」






煙の中から声が聞こえる。


ボボッと風を打つ音。おそらくはジャブ二発。吹き飛ばされる煙。





「これが、どうかしたのかね?」




金眼を淡く光らせながらヴォルフ(化け物)は健在。




ジワリ、と嫌な汗が僕の背中を流れた。

引きはしない。逃げもしない。

進むしかない、が。


このままここで終わるかもしれない、という予感がジワジワと僕を包み始めていた。

読みいただきありがとうございました。

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