23杯目 僕と作戦方針
まず矢撃が現在の状況に関して話し始める。
「まず、今すぐあいつらに追いつくのは無理だ。諦めろ。移動力も違うし、そもそも情報収集能力が不足している。」
。
舌打ちしたい気持ちを必死に抑える。
彼女が遠くに行ってしまう。今の僕は諦めるというのは身を引き裂かれるような苦しみを伴う。
「・・・そんな目で見るな。恨むのなら能力がないことを恨め。」
助けられないのむしろ僕のせい、だな。
「マイナスなことばかりじゃないさ。まずあいつらは国外には出ていない、どころかこの町から出ていないはずだ。」
「町?端から端まで見てもせいぜい十キロ・・・。そんな距離あの速度じゃあすぐ抜けてしまうだろ。」
「そうだな。だがそんな速度で移動する敵からどうやって俺たちがここを守っていると思う?」
言われてみれば。速度で圧倒的に劣っている以上、待ち伏せなどの手段が必要になる。
しかし捜索能力もあるようには見えない。
わからないな・・・
「実は捜索する能力がある、とか?」
「そんな能力があればよあったんだがな。当然ない。あったら追いかけてるよ。」
それもそうか。ダメだ考えが足りない。まだ焦っている。
「答えを言うとな?俺たちは結界を張ってるんだ。」
「また結界か・・・」
正直祓のせいであまりいいイメージじゃないのだが。
「なんかあったのか?」
「こっちの話。いいから続きを教えてくれ。」
「・・・まぁいいか。ここでいう結界というのは内向きのものだ。」
「内向き?」
「そう。内側からの力をはじくものだ。わかりにくいのなら檻みたいなもんだと考えてくれ。」
檻、檻ねぇ・・・
「続けるぞ。俺たち青の結界は外部からの侵入は防げない。しかし内部から脱出はできない。そういう作りをしている。」
「なぜ?矢撃たちは防衛士だと言ってたよね。守るんなら外から入れないようにするべきでは?」
「ふむ。その説明もしておくか。俊也の言うことは正しい。守るためには入れないことが一番だ。しかしそれはなかなかに困難なんだ。もうバレていると思うので言ってしまうが、俺たちは弱い。青が弱い、というより人間すべてが奴らと比較してあまりに非力だ。だから普通に力を放出して結界を作るとより大きな力で破られるんだよ。だから自分たちの力を高める陣を使う」
「ええっと・・・つまり?」
「あー、パワー勝負じゃ勝てない、だから高める工夫するということ。結界というのは力を及ぼす方向に向かって力を放ち続けてるんだ。だから普通に外向きの結果を張ると力を補給し続けなければならないし、自分の力に応じた力しか出せない。いうなればストローで息を吹き付けるようなもんだな。いくら頑張っても自分の吐く勢いを倍にするのは難しいし、息がなくなれば終わる。」
頭の中にストローを咥えた矢撃を思い浮かべる。あ、口元おおってから入らなかった。穴開ければいいか。
「なんかくだらないこと考えてないか?」
「ストローだよね?わかってるよ?それで?」
僕の返しにやや釈然としないような反応をする矢撃。
しかし直感以上の疑いはないらしく話を続ける。
「あー、それで青の結界はなその放出されるエネルギーを内側に向けているわけだ。そうすることで本来放出されて散逸する力が結界内に保たれそれ自体が結界強度を高める働きをする。その結果人間の限界を超えた力を発揮できるわけだ。イメージとしては風船だな。」
「風船?」
「そう、風船。風船にどんどん空気を詰めていくイメージ。ストローと同じように吹き込んでいても大量に詰め込めるし、やりようによっては圧力、威力もただの吐息より強くなるだろう?」
なるほど。
だがまだわからないことがある。
「あのさ・・・」
「あぁ、内側結界の意味かな?」
・・・先読みされた。
「俊也はいかんせん顔に出るな。詐欺師は向いていなさそうだ。青の結界は逃がさないことをモットーにしている。侵入を防ぐのは無理だから、という理由のほかに結界内部は長年かけて力の圧力が高めてあるから、内部にいるだけでややダメージを受けることや、移動速度で劣る我々のもとに化け物を呼び寄せる効果もある。」
「呼び寄せる?」
「そうだ。結界は術者を倒せば消える。だから青の結界にはまった敵はまず術者を倒そうとする。遅くなればエネルギーが落ちるから速攻で倒しにかかるはずだ。つまり囮のような効果もある。」
「そうだったのか。」
情報収集能力や移送速度に心配があるにも関わらず余裕そうなのはそういう理由か。
「つまり今この市には結界が張ってあるってことだよね?それならおかしくないか?その理屈でいうなら今日わざわざ矢撃がヴォルフを探し回らなくても、勝手にやって来るはずだったよな・・・。何で矢撃は今日待ってるのではなく倒しに向かった?」
「ヴォルフが来なかったからだ。数日たっても全くこちらに向かってこなかった。そこで結界内でエネルギーを補給、ようは捕食してるんじゃないかと考えてこちらから探しに向かっていたんだよ。普通は術者をしょせん人間と嘗めてる化け物どもは先に俺たちを倒してゆっくり食事しようとするんだが、あくまで一般論だから例外もいるからな。中の人々を守るため探し回ったんだよ。そうしたら不自然な気配を身にまとった俊也を見つけたから後をつけたってわけだ。」
「なるほど。」
「まとめるとな?ヴォルフたちはここから逃げることはできない。そして脱出するためには間違いなく、俺を倒しに来る。つまり俺たちのやるべきことは追いかけることじゃぁない。」
必ずあいつはここに来る。だから・・・
「迎撃の用意をする、ってことか!」
僕は初めてヒロイン的行動、ではなくヒーロー的行動をする。
矢撃の予想によるとヴォルが来るのは3日から一週間の間。
その間で僕らはヴォルフから彼女を助け出さねばならない。
達成は困難。化け物相手にたった二人。有効な攻撃手段もない。
それでも。
「やってやろうじゃないか。僕だってやるときゃやるぜ?」
多くの不安と小さな勇気。ほんの少しだけの憧れの敵に立ち向かう自分に興奮しながら、僕らは準備を始めた。
お読みいただきありがとうございました。




