22杯目 僕と諦めないこと
僕はしばらく座り込んでいた。
ひどい倦怠感と無力感に苛まれていた。
僕は覚悟を決めて、この塀を乗り越えた。
死ぬのは怖いし、命を懸けられるかとまで聞かれると分からないけれど、少なくとも人生で一番に近い覚悟で塀を乗り越えた。
まるで主人公のように敵から武器まで受け取って。
その結果このざまだ。
数歩歩いただけで近寄ってもいない。
コーヒー缶を投げたけれど、醤油の瓶はまだ手に持っている。
一度投げることで僕のちっぽけな勇気は底ををついてしまった。
服を貸して逆転の手助け、だが僕から言い出したわけではなくしかも結果的に捕らえられる彼女。
死んだという敵のウソをあっさり信じてみっともなく取り乱して。
ほかの男が嘘を見破り、札を奪って逃げる。それを追いかける祓。
祓に至ってはこちらを見すらしなかった。眼中にない、のだろう。
それは、そうだろう。僕はこの塀を乗り越えるのにだって両手でつかみ思いっきり飛び、足をかけて何なら掌をすりむきながらようやく登った。
あいつらにとっては一歩だ。
話にならない。
追撃の心配だってそりゃないだろう。追いつけないんだから。
「なんなんだよ。」
何よりも印象に残ったのはヴォルフのこちらを見る目だ。
あれは何かとても残念なものを見る目だ。
期待を裏切られた、そういう人間が浮かべる目だ。
僕を見る、親の目だ
「僕はいつまでもこのままか・・・・?」
諦めて、諦めて諦めて、それでも認められなくて、見捨てられた僕は次は諦めない、そう誓ってここにいた。ここまで来た。ランニングだって必死に続けている。
ダメなのか諦めてきた人間にはチャンスももうないのか?
いやだ。諦めない。諦めない、けど・・・・
「行先もわからないし・・・追いつく方法もないし・・・力もないし何なら知恵だって人並みだ・・・。」
もう終わりか?僕の非日常はもうここがもう着地点か!?
「冗談じゃない。冗ッッッ談じゃない!!」
いいか、僕は諦めないと誓ったんだ。今まで諦めて来た分見っとも無くても見苦しくても、諦めだけはしない!!
「考えろ考えろ考えろ・・・・・非日常・・・・・そう、そうだよ!まだ、まだあるぞ!!」
立ち上がる!
立ちくらみでふらつく。情けない。
それでも塀のほうを向き座り込んでいた場所から数メートル右の塀の崩れている部分から家の敷地に入る。崩れたコンクリの破片で足を挫きそうになりながらよたよたと進む。
転びそうになりながら歩いていたのを正直見られていただろうが、奴の目の前に立つ。
そうして頭をじっと見つめているとあいつは、矢撃はさぁ言えよ、といった感じに力なく右手を振る。
だからあえて高圧的に僕は言った。
「助けてやる。だから僕を助けろ矢撃!!!」
叫び右手で奴を指さす。
その手をつかまれる。
強く引かれるので踏ん張る。
「頼み方がなっていないな真白俊也。」
起き上がる身体。突きつけられる銃。
そしてそっと銃口を空に向けてそらすと軽くこちらの胸を押し距離を開ける。
銃のスライド部分を動かし装填。
空に向け発砲。
その先には黒い蝙蝠が落ちていくところだった。
そして銃をしまいこちらを見る。
「だが、いいだろう。助けてやる。」
黒尽くめの男との奇妙な共同戦線が始まる。
僕が矢撃に声をかけた最大の要因は僕の関わった非日常の住民はこれしかいなかった、ということである。
ただしそれだけでもない。
おそらく僕のあった非日常の中で、最弱で最小の人外だからだ。
ヴォルフに簡単にあしらわれていたし、服がボロボロで血がにじむようなけがをしている。さらには傷の治りも遅い。おそらく最弱だろう。
こんな状況なのに祓でいうショートカットの巫女ののような救援が来ない点。
ヴォルフとの戦いで救援をよんだりせず無理矢理に勝負を決めようとしていた点。
おそらく仲間がいないのだ。少なくともすぐ動けるような。
この点を考えた結果、矢撃だけが唯一協力関係になれる可能性を感じた。
最後にこいつだけが近くにいたことは偶然だけれど、ついていた。
手段を選ぶつもりはない。たとえ大けがさせようとしてきたやつとだって手を組んでやる。
諦めない。見捨てない。
「・・・・待ってろエーデルガルド。絶対に、助けて・・・守ってやる・・・!」
わかるく肩を震わせて、面白そうに矢撃は言う。
「やはり・・・そうなのかね。いいだろう!手伝うぞ。」
こうして僕は非日常に自らの意思で踏み込んだ。進む。進め。あとはもう無い。
遅くなりました。お読みいただきありがとうございます。
明日は更新できないかもしれません。しかし少なくとも明後日には更新いたします。




