20杯目 彼女と祓。
「弱点・・・?」
「ええ。別にだからと言ってすぐ勝てるわけでもないけれど。」
祓は無表情にこちらを一瞥すると懐から白い布を出し、服を軽くはたき始めた。すぐにこちらをどうこうしよう、という気はない様だ。
「どんな?」
「あの防御に使う結界はすべてを防げるわけじゃないわ。すり抜けるものもある。」
パン!と布をはたく音。
そちらを見ると祓がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「そうですね。隠すほどの話でもありません。空気も通していますし、まず光が通過していないと真っ黒な塊に見えるはずでしょう。」
「いえ、反射と屈折は残るはずだから黒くはならないはずだけどね。まぁいいわ」
突然のエーデルガルドの反論に理解出来なかったのか首をかしげる祓。見た目の年齢とは裏腹に幼さを感じる仕草だ。
「それで、通り抜けるもの、抜けないものの法則がやっとわかったのよ。あなた超常のものだけはじくのね。」
「正確にはけを通し、穢れをはじくんですがね。」
おおむね正解です、という祓。
後から知ったが「け」とは穢れがない状態を示すそうだ。
祓はエーデルガルドを何度か穢れ、と呼んだ。つまりエーデルガルドをはじくことができる、ということだろう。
「なら、すり抜けるのは簡単ね。シュンヤ、上着を貸してちょうだい。」
「・・・?・・・はい。」
なぜなのかはわからないが学校指定のブレザーを脱いで渡す。
エーデルガルドはしわになったらごめんなさいね、と言いながら右拳にブレザーを巻き付ける。
怪訝な顔で見ていた祓が突然慌てた顔をすると右手を突き出し叫ぶ。
「--------!!!!」
再び意味の取れない叫び。同時に白い光がエーデルガルドを襲う。
それに対し左手のジャブが鋭くあたり光が弾ける。
「るぅぁぁ!!」
一瞬閃光に目が眩んだ間にエーデルガルドは距離を詰め渾身の右ストレート。
半透明の『結界』と呼ばれていた膜が張られるが何もないかのようにブレザーを巻き付けた拳はすり抜ける。
「ぶぁがぁぁ!!」
顔面に突き刺さる拳、吐き出される悲鳴。先ほどまでの余裕な態度からは考えられないような叫び声をあげて祓が二メートルほど吹き飛び、ゴロゴロと転がる。
辛うじて膝立ちになってこちらを見る祓は鼻から血をだらだらと流しながらこちらを見る。
それを見たエーデルガルドは。
「あはは。先ほどまでの余裕な態度はどうしたの祓さん。白蛇の次は赤い蛇が鼻から出てるわよ。面白いわ。これからは顔面赤蛇の祓と呼ぶことにするわね?」
叫ばず、静かに相手をおちょくる。
どこかで見たその姿を見てふと思いつく。
「あ、ヴォルフだこれ。」
こんなところで親戚説に妙な説得感が出てくる。
変なあだ名をつけること、声量には差があるがまくしたてるような物言い、様々な類似点。
「やはり私たち化け物じゃないものの所有物が触れると触れた部分だけすり抜けるようね。抜けた後穴はすぐに塞がるようだけど数瞬あれば十分ね。あなたを殴れる。」
エーデルガルドが今すり抜けた理由をおそらく僕に向かって解説しているのを聞きながら、ヴォルフとの類似点を考えていると考えていると祓が袂から先ほどの布を取り出し顔をぬぐう。
そのあとこちらを向く顔は笑顔。
「なるほど、うまいことを言いますね。偶然でしょうが私は白蛇と呼ばれることもありますから、それになぞらえれば面白いかもしれませんね。採用しませんが」
顔をぬぐった布をしまうことなく投げ捨てる。
まだところどころに血が残るその顔は笑顔。
ゆっくり立ち上がり二歩、三歩こちらによって来る。
「さて。」
エーデルガルド肩の向こうに見える祓の笑顔。
「滅します。」
初めて祓が真顔となった。
「!!--------!!!!--------!!!!」
激しく歌うように踊るように例の叫び声、『呪文』とでもいうのか?それを唱える祓。
近づこうとすると例の蛇状の白光が腕から生じ邪魔をする。左手のジャブだけではなかなか払いながら進めないようだ。
一度だけ避けきれず右手で迎撃していたが僕のブレザーがはじけ飛んでた。まじかよ。明日どうすんだ僕。
ともかく右手のブレザーがなくなるとすり抜けられなくなるのだろう。
エーデルガルドは先ほどまでにまして右手を使わず弾こうとする。
しかしいかんせん数が多く弾けはしても進めはしない。
閃光がひどく見るのも困難。
そんな中ひときわ強く祓が叫ぶとエーデルガルドの足元が突然発光
「なに!?」
弾くので精一杯で移動できないエーデルガルドだったがダメージよりも足元の発光が危険と判断。
動けないため地面を殴り破壊を試みる。
土まみれになる僕のブレザー。
変わらない発光、直撃する白光。
「ぐぅぅ!!」
白光直撃の痛みに耐えるエーデルガルド。
次の瞬間光が強くなりパァアン!と大きい、しかし軽い音がして光が弾けると、中心に空に昇るように白い光が立ち上り、やがてそれも明滅し、全てが収まったときにはエーデルガルドの姿はどこにもなかった。
僕の目の前で至極あっさりと、彼女は消えた。
僕は結局何の役にも立たなかった。
立たなかった。
お読みいただきありがとうございました。




