17杯目 僕と逢魔が討ち
「そうね・・・私が自分の話ばかり話すのはフェアじゃないわ。何でも相談に乗る、とは言ったけれど、あなたの隠していることも話してもらいたいわ。」
「隠していること、とは?」
探りを入れる。そう、僕だって隠していることぐらいある。問題はどれか、だ。
「まずは・・・・!」
そこまで言って彼女は庭の方を向く。
「どうしたんだ?」
庭は平穏そのもので何か敵がいるというわけでもない。猫だって少なくとも見える範囲にはいない。特に金眼でボサボサの猫がいないことを確認する。
「・・・気のせい・・・・じゃないわね。」
「え?でも誰も・・・」
「そうね。私にも誰もいるようには言えない。感じない、けれど一瞬何か感じた。だから今日話すのはやめましょう。」
「そ、それだけで?」
「そう。それだけで。私物語を読むのはそれなりに好きなのだけれど、いつもここはおかしい、と考えながら読んでいるの。必ず事件に巻き込まれる主人公、初対面の男についてく女の子、なぜか持っている不思議な力。」
「・・・」
そりゃまたひねくれた楽しみ方で。
「その中の一つ。怪しんだのに気のせいかとそのまま続ける会話。怪しいなら辞めればいいのよ確実に平気な時と場所で話せばいい。今少しでも怪しいと感じた。だから話すのはやめるわ。私が聞いている途中だったのだから後にする分には構わないでしょなんならひと月でも一年でも環境作れるまで時間を待ってもいいわ。私気は長い方なの。」
それはあまりにも勝手な言い分だ、と思い口に仕様としたが菫色の瞳に射抜かれる。
「そうねぇだから食事にでもしましょうか。結局敵同士ではないのだししばらく時間を置きましょう。今結界を張ったからダメージ与えたりはできないけれど何が結界をまたいだか、はわかるようになったわ。だから何か月かぐらい何も入ってこない、出ていかない、というのを確認してから話しましょう」
そこでガサリ、と音がする。
「そんな手に出られると困りますね。」
草が動き葉が立ち上がる。枝が見えていたのがボロボロと落ちていき、その枝は消え去っていく。
人の形になり足の葉が紅葉していったと思ったら朱色の袴に。上半身の葉が落ちていくとその隙間から白い布地が見えてくる。
いつの間にかそこには神社などで年始に見かける巫女がいた。
歳は二十代半ば。
黒髪の長髪の典型的な巫女。
艶めく黒髪に黒曜の瞳。
話す様子ももどこかピン、と張り詰めていて静けさと強さを感じさせるどこか神聖な声をしていた。
「盗み聞きしていたことをまず謝罪いたします。私は日本の怪異専門家の一人。逢魔が討ち巫女の祓と言います。どうぞ良しなに。」
深く腰を折るお辞儀をする巫女・・・ハラエ、といったか。
「おうまがうち、ねぇ。どういう字を書くのかしら。」
エーデルガルドが尋ねると、頭をあげ艶やかな髪の毛を自然な仕草で避けると説明し始める。
「逢魔とは逢うに魔物の魔、と書きます。討つは討伐するの討という字になりますね。」
「そう、つまりあなたは?」
「逢うた魔を討伐する巫女ですね。つまり、あなたを討たせていただきます。」
「・・・シュンヤ。説明を忘れていたわ。日本全般としてはそこまで強い魔に対する排斥はないけれど、例外があったわ。神道系の奴らはダメ。」
「理由は?」
「私が申しましょう。私たちはけ、と穢れをしっかりと判断し、ております。穢れは滅さねばなりません。」
「でも、無駄なんだろ?エーデルガルドのような存在は決してゼロにはならないと・・・」
「その通りです。だから私たちは滅し続けるのですよ。」
「・・・・え?」
「滅し続けるのです。常に消し続けていれば、それはいないのも同じですから。再生するからというのは諦める理由たり得ませんよ。」
「そういう集まりなのよ。滅ぼし続ける、日本の拒絶、を前面に押し出している集団。」
「・・・ほんきなのか。」
さて、といって足をそろえなおしこちららを見る巫女、祓。
「何度目なのか存じ上げませんが、再び滅びてくださいませ。」
そういうと彼女は再び腰を軽く折る。
今日は男の日かと思ったがレディース部門もあったようだ。先ほどと違う点は性別以外にもある。
「勘弁してくれ。どこに逃げればいいんだよ・・・」
僕の後ろに道はない。気持ちの面より先に逃げ道はなくなった。
読んでいただきありがとうございました。