16杯目 僕と嘘つき
彼女は一度目を閉じ数瞬たってから瞳を開けた。
「ごめんなさい。質問の意味が分からないわ。」
どこまで知っているのかの探りを入れているのか。本当にわからないのか。
「もう少し具体的に言えば君の目的は何なんだい?」
「私の目的?」
虚を突かれた、と言わんばかりの彼女の表情。
「そう。エーデルガルドはなぜ、何しにここにいてどうする気なのさ。」
「どうするか、と言われても。私は逃げてきただけ。しいて言えば生きるのが目的。それでいいかしら?」
訳が分からない、といった表情。
だがそれを見て僕は不信感を募らせる。
「・・・ならば聞くけれど君はどうやってこの街に来たの?」
「あぁそういうこと。」
何度か頷き何か考えている表情。そのまま彼女は答える。
「私が自宅の場所しか知らないのならどうやって逃げてきたのかわからないってこことね?」
「そんなところかな。」
「あまり話したくなかったのだけれどね・・・私は両親がいないの。両親代わり、の人ならばいたけれど、関係は良好とは言い難かったわ。そのためあまり会話もなかったし、私は人間ではないからね。家の外に出るのも基本的に禁止されていたの。箱入りみたいなものだと思ってもらえればいいわ。」
「お嬢様か。うん、わからなくはないかな」
「嘘ね。ただ化け物だから閉じ込められただけで所作、教養などの教育を受けたわけではないから。感じ取れるところはないわ。あぁ、世間知らずには見えるかもしれないけれど」
「そういういみではないんだけどね。」
また不審だ。言い方でそう感じるだけか?
だがいよいよ無条件で信じるのは難しくなってきた。
「じゃあその箱入り娘がなぜこんなところに?」
「詳細はわからないのだけど、突然大きな袋をかぶせられて何かかがされたと思ったら次は目隠しされた状態で移動中だったわ。そのあとすきを見て逃げだしたのよ。」
・・・この時点でヴォルフとはだいぶ話が食い違い始めた。
正直話を聞くまでエーデルガルドの話を信じる気だったが。いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
「うん・・・エーデルガルト?」
「なぁに?」
微笑を浮かべる彼女。
「嘘だろ、それ?」
「あら。随分と今日は察しがいいじゃない。」
「あからさま過ぎるよ。」
僕は少しだけ下がって話をする。
「答え合わせをしましょう?私のどこがどれが嘘だと思ったのかしら?」
時間稼ぎか興味があって遊んでいるだけか?
考えるだけ無駄、か。どうせ逃げることすらできないだろうし。
「色々あるけれど今の話を信じるのは無理がある。箱入りで外も見たことがない?それにしては外の地理感覚に詳しすぎるよね。曲がって三件目って言い方だけで近いって言い返したよ君は?」
「箱入りだって地図ぐらい見ますし、周囲の家を見れば大体の見当はつくもの。」
「そうかい?じゃあ次だ。箱入り娘はどこでさらわれたんだ?家の中か?閉じ込めるような家から連れ出せるのか?」
「手引きした者がいるのでしょう。」
「ふうん。じゃぁエーデルガルドがヴォルフに殺されそうになっていたのは?攫おうとしていたなら、殺すようなまねはしないだろう?」
「さぁ?狂人のいうことはわかりませんから。」
「ああいえば、こういうってのはこういうのをいうのかなぁ。」
今も微笑を浮かべこっちを見ている彼女。自分で先ほど嘘だと認めておきながらはぐらかす。完全にもてあそんで楽しんでいる。
彼女に比べて弱い僕の助けを素直に受けたこと。一撃で倒せるヴォルフに追い詰められていたこと。怪しいことはまだまだあるけれどこの調子じゃごまかす気に違いない。
もういいか。決めよう。
「じゃぁ、これはどう言い訳するんだい?君、なんで防衛士やら裁定者やら知ってたんだい?何より防衛士の武器が銃だったってのは誰から聞いたんだい?僕は飛び道具だった、としか言っていないのに?」
「・・・これは一本取られたわね。狙ってたのかしら?」
微笑を消してこちらを見る彼女。
「さぁね。」
偶然の産物だったよ、と脳内では素直に返す。
僕はあえて彼女の向かいのソファーに座って肘をつき手を組む。
そこに顔を寄せ前傾姿勢になって言う。
「さて、話してもらおうかバルパム・フォン・ルーデルガルド。」
悪役らしく、正体を現せ。
読んでいただきありがとうございました。