14杯目 僕と不審者
横に逃げようとするがぬるりとした動きで回り込まれる。
素人が逃げるのは無理そうか。
「西高校の真白 俊也だな?」
「単刀直入に聞く。お前は人か?化け物か?」
もごもごと襟の中で口が動いているのがわかる。少なくともスピーカーで遠隔で話しているわけではなさそうだ。
簡単な質問で満足するなら答えて逃げよう。
「・・・人だよ。」
質問意図が読めない。
「ならばなぜあの部屋から出てきた。」
「あの部屋?」
「とぼけても無駄だ。化け物の潜伏先からでてきたのを俺たちは見ている。」
いや、とぼけたんではなかったんだけどな。
「どうもこうも。連れ去られただけだよ。」
「連れさられた?ならなぜ今ここにいる。」
「そりゃ、解放されたからだけど。」
「解放?連れ去っておきながら?不自然だな。」
わずかに動く男。黒い手袋に包まれた右手をコートのポケットに突っ込む。
「そんなこと言われても話して、帰って良いといわれた。それだけだよ。」
怪しいことは怪しいが目の前の男からはそこまで危険な感じがしない。ヴォルフや、ルーデルガルドのような圧力を感じないのだ。
そのお陰でスラスラと話すことができる。
「何を話した。」
「そりゃぁ、ちょっとしたことさ。話すほどのことじゃない。」
初対面の怪しい男相手にルーデルガルドのことを話す訳にはいかない。
「怪しいな。わざわざ隠す内容か。本当に世間話をする仲か・・・」
考え込んでいる様子の男にとっさに言う。
「どちらかと言えば敵だよ。」
「どちらか?」
なんだかだんだんと雲行きが怪しくなってきた。
「今それを確かめてるところなんだよ。」
「まだどうにか・・・・納得するか?・・・無理だ。リスクが高すぎる・・・か。・・・残念だ。このリスクは見逃せない。」
男はしばらくぶつぶつと考えた後首を振る。
そして右ポケットから右手をだす。
見た目よりもポケットは深いようで長さ25㎝ほどの金属の棒が出てきた。
「見逃せない?」
「ああ。見逃せない。安心しろ暫くホテル暮らしをしてもらうだけだ。」
ブォン、とにぶい音を立てながら棒を振ると同時にガチャカッと折り畳み傘を伸ばすときの音を鈍くしたような音が・・・・って!!
ガン!!という音と同時にコンクリの壁にたたきつけられる金属の棒。
「あ、あぶないじゃないか!!なにするんだ!!」
頭を抱えて避けた僕は腰が引けている自覚がありながらも精一杯強く言う。
「安心してくれこれはただ三段ロッドだ。」
「安心できないだろ!!」
この人どっかおかしい!!確かに肩など狙えば死にはしないかもしれないけどあの速度じゃ大怪我だ!
人間なかなか人に向かってあんな風に金属の棒を叩きつけられないぞ。
できるってことは暴力慣れてる!!
「ああ。名乗らないと効果がないこともあるんだったな。」
「それはどういう?」
「念のためさ。所属は『青』第二世代防衛士 矢撃。 参る。」
男が名乗りを終え、こちらを向きロッドを振り上げる!躱せない!!
そのとき男の背後から声が聞こえる。
「所属は『黒』第八席裁定者 ヴォルフ。じゃまするぜ」
そうして振り上げたロッドは振り上げたままとなる。ロッドの先には白い手袋。
「ッ!!」
不審な男、矢撃はロッドのスイッチらしきものを押し込むと同時に紫電が生じる。薄暗い路地が一瞬照らされる。バチ、とあまり大きな音はしなかったがスタンガンもイメージとは異なり大きな音はしないというのであれもおそらくそれなりの威力があるはずなのだが。
「ふむ。手袋が焦げたな。仕方あるまい」
ヴォルフにダメージはない。矢撃はロッドを手放し振り返る。
ヴォルフは掴んでいたロッドを捨て手袋を外すとロッドを抑えたのとは逆の手に持っていたカバンから新しい手袋を出して嵌め始める。
その姿からは余裕がうかがえた。
「グッ・・・・」
舐められていると感じたのか、悔しそうな声をあげる矢撃。
「どうした。矢撃とやら。矢、なんだろ?飛び道具がメインなはずだ。出すがいい。待ってやろう。」
「・・・・く・・・仕方あるまい。」
一瞬顔を横に向けこちらを横目で見るがヴォルフに目を戻す。
俺のことはそれで意識の外に置いたのか矢撃はコートの隙間から武器を取りだす。
黒いL字の金属。ところどころに濃い透き通った青のパーツがあるので違和感があるがあれは・・・
「ほう。銃の退魔士とは珍しい。」
「防衛士、だ。」
拳銃を構える男と向けられながらも余裕を崩さない男。
「少年。行くがいい。なぁにこいつは今振り向く余裕なんかないさ。」
「貴様ら!!やはり仲間か・・・!!」
「仲間なんかじゃない!!」
言い返したのが聞こえたか聞こえていないのか。矢撃は叫ぶ。
「もはや時間がない!!覚悟しろ!!我が血をささげる!!」
それがキーワードだったのか矢撃の銃が青い光を放つ。
光を浴びて青白く見える男はさらに叫ぶ。
「穿て!」
ドォッという光の奔流。直径一メートルほどのビーム、としか言いようがないものが銃口から出てヴォルフに向かう。
衝突と同時に爆風。
ゴロゴロと二転ほどしてようやく自分の体が止まる。
くらんだ視界で二人のほうを見ると無傷のヴォルフと大きくへこんだ地面。
先に声をあげたのは矢撃。
「た、叩いて軌道を変えた!?」
「二つ名を伝えていなかったな。叩き潰すもの、叩き潰すものヴォルフだ!!」
パンパン、と手袋を払いながら再度名乗るヴォルフ。
一瞬の停滞の後銃の側面を操作して矢撃が再び叫ぶ。
「・・・化け物がぁ!!我が血族の骸を捧げる!!!」
「無駄だな!!」
キィィィと先ほどはしなかった高音を鳴らし明らかに先ほどより強い光を放つ銃。依然として余裕な態度を崩さないヴォルフ。
僕が確認したのはそこまで。
なぜか?
逃げたからに決まってる!!あんな超人戦争に巻き込まれたら死ぬから!!
這って移動、立ち上がったら全力疾走。
数歩走ったところで爆音と強風を感じたが僕は前を向いて走った。
もはや何が何だかわからずただひたすらに僕は逃げた。
逃げた。
読んでいただきありがとうございます。
更新が遅れ申し訳ありません。
今後気を付けます。どうか見放さないでいただけると幸いです