13杯目 僕と厄日
暫く言っている意味が分からなかった。
ヴォルフとエーデルガルドが親戚?
こちらが混乱している間ヴォルフは何も言わずコーヒーを飲んでいた。
何も言わずにしばらく時間がたち、やっと僕は問いかける。
「嘘だろう。いいや、そうじゃないか。関係ない、そう、関係ない。あんたが親戚ってのはわからない。いくら説明されても僕には納得するだけの判断材料がない。疑っているから何言われたって無駄だ。でも、いい。どちらにせよ関係ない。僕は彼女の味方だ。」
「そう、その通りだ。単純に聞かれたから答えただけだよ、少年。信じろとも言っていない。」
「・・・なら、結局何がしたいんだ?さらって来たり話したり・・・」
「別になんということはない。筋を通しているだけだ。私は理由があって彼女を更生させねばならないが、そのとき君が近くにいると巻き込んでしまう可能性があるのだよ。それはフェアじゃない。シュンヤが彼女という化け物を理解して仲間をする、というなら構わない。それが少年の意思だというならば通常通りの処理をさせてもらうだけだ。しかし君が騙されているならば、巻き込んでしまうのは本意でではない。」
「結局なんだ?離れろとそういうことか?」
「次までに少しは察する能力をあげておくんだな。全くの間違いだ。私は離れろなんて言わんよ。ちゃんと話をしてこいそう言っているんだ。わかっているだろう。彼女は不自然すぎるだろう?怪しいと、感じたことぐらいあるだろう?」
ヴォルフは金色の目でこちらを見る。そこに宿る強い意志に負けて目をそらす。
ふと、こいつの話を信じる部分なんて何もないが、親戚という部分だけは本当かもしれないと感じた。
「わかった。わかったよ彼女と話してくる。ただし!これは彼女の考えを教えてもらいたいだけであってあんたが言うような彼女を疑っての行動じゃない。それだけははっきり言わせてもらう。」
色も違うのに不思議と既視感を感じる強い瞳に僕はそう返した。
ヴォルフはにやり、と再び笑うとそれでいい、と言って僕を開放した。
もう移動するから、という理由で目隠しも何もせず普通に歩いて出ていってよい、という扱いだった。
その際に玄関でこいつを彼女にもっていってくれ、と紙袋を渡された。
そんなに重くはないが微かに香りがする。これは・・・
「コーヒー?」
「彼女の好物だよ。親戚からのプレゼントさ。捨てるならば捨てて構わないが余計なものは入っていない。まぁ、彼女に渡してくれさえすればいい。今日のコーヒー代だと思って働くんだな。」
軽く背を押され、返事も聞かずに扉を閉められる。
外は夕日に代わりつつある時間帯。
どうやら予想は当たっていたらしくマンションの一室にいたらしい。表札はなく部屋番号が1304であることからして13階か。通路から下を見るとなかなか高い。
夕日が左手に沈むところなので正面が北。少し離れてはいるがそこに駅が見える。
「うちから15分ってとこか?近いな・・・」
左に少し歩くとエレベーターホールがあったためそのまま1階に降りる。そうしてから家に向かい歩きはじめたところでようやく体が震え始める。マヒしていた感覚が返ってきたのかいまさらになって先ほどまでの状況がいかに危険だったか、と。
めまいと軽い吐き気。
「ッ」
だめだ。少し休んでから帰ろう。
二分ほど歩いて人があまりいない路地に入り、壁によっかかり深く息を吐く。
大通りから数本入っただけの細い路地だが、歩きやすく明るい横道がすぐ近くにあるためこの道には誰も来ない。今時珍しい細い薄汚れたとおりだが人目につかないため今はありがたい。
うっすらと目を開けると薄暗いコンクリート打ちっぱなしの床とコンビニのビニール袋。空き缶が複数。
どこにでもあるそんな状況が今までいた自分の状況と結びつかず、どこか現実感がない。
ダメだ暫く、じっとしていよう。だんだん心拍数などは落ち着いてきた。
「すぅー・・・・はぁ・・・・・」
目をつぶり深呼吸を繰り返す。
暫く深呼吸をして目を開くと薄汚れた路地裏、目の前に一人の人間がたっていた。
「うわっ!!」
驚きの声をあげるが相手は微動だにしない。
「深呼吸はもういいか?落ち着いたか?」
どこか作り物めいた低い声だった。そいつは顔の鼻近くまでジッパーで覆う黒のコートにやや機械的な印象を受けるゴーグルをつけていた。フードもかぶっているため髪型も体形も性別もわからないが声からして男か?
「あ、あんたはだれだ?」
「名乗る名はない。確認することがある。答えてもらうぞ。」
どうやら今日は男に人気がある日なようだ・・・。
驚きでまた跳ね上がった心拍数とともに僕は思う。
もう、勘弁してくれ・・・。
読んでいただきありがとうございます。
体調不良により更新できず日曜日が終わってしまいました。
申し訳あません。明後日に再びまとめて投稿する予定です。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。