10杯目 僕と三度目の奴
あれからさらに一週間がたった。
その間特に変わったことは何もなかった。
エーデルガルトは相変わらずずっと寝ているし、僕は学校に毎日通ってる。
一応彼女には家のものを好きに使うように言っているが特に大きなことはしていないようだ。せいぜいシーツなど自分の汚したものを洗っている程度か。
数日前に預金からおろして五千円ほど生活費として渡したのだが必要最低限の物を買っただけでそれ以外の買い物はしていないのでこれ以上は不要、といわれてしまった。
僕の早朝ランニングも続いている。ちょっと体力が付いた気がするのだがおそらく気のせいだろう。そんなに簡単に体力が付けば苦労はしない。おそらく負荷に体が慣れてきて前より楽に感じているのだろう。
ちなみに三回に一度程度の割合で泰樹に会う。泰樹の家からだとかなりの距離だと思ったのだが泰樹のコース的には大きな円を描いて終わりの近く、という位置らしい。とんでもないを体力している。
継続は力なり。何年も続けているという泰樹にはまだまだかなわない。
でも、やるだけやるさ。
今日もひたすらに眠い授業が終わり帰宅するといったところで泰樹と亜矢が席にやってくる。
「俊也。用事がないならミリオンサイクルに行かないか?」
「ちょっとノートが買いたいの。」
泰樹はこのあたりで最も大きい雑貨屋に行かないかと誘ってくる。
実は僕はああいったごちゃごちゃとした店が好きなので是非にと言いたいところなのだが。
「ごめん泰樹。今日もいけない。」
「そうか・・・仕方ないな。」
「わかった。」
実はこのようなやり取りは一週間の間に何度もあった。そのたびに僕は断り続けている。
理由は帰ってからの非日常講座を受けているからだ。教師役のパルバル・フォン・エーデルガルトによる自分の体験談を交えた異世界の知識を学んでいるのだ。
これは俺が頼んだことのほかにも、考える頭は多い方がよいと基礎知識を僕に身につけさせ、相談役にしたいということもあるようだ。おかげで僕はかなりの知識を得ていた。
普段ならばこれで二人とも引き下がるのだが今日はもう一つ誘いがあった。
「じゃあせめてラディカルコーヒーは?」
亜矢の誘いのラディカルコーヒーはその名の通りコーヒーショップの名前である。ここ最近の自分の付き合いの悪さを考えると、コーヒーの一杯ぐらい構わない気もしてくる。今現在危機的状況にあるわけではないし、ほんの一時間程度ならば。
「ごめん。もうしばらくはまっすぐ帰る。」
それでも僕は断った。
どうしても僕には少しの時間も無駄にしたくなかったのだ。
本来ならば学校にもきたくないぐらいなのだが、彼女の睡眠時間を邪魔するわけにもいかないし、日常生活から離れすぎてはいけないと忠告もされたため仕方なく通っている状態なのだ。
流石にこれ以上は時間を無駄にしたくない。
「そう・・・・か。」
少しばかり困ったような笑顔の泰樹。
普段通りの亜矢。
二人の視線に申し訳なく思いながらもじゃあ、帰るね。
と告げ僕は足早に立ち去った。
その帰り道。歩いてほんの数分の道のり。それが油断だったのだろうか。
いや、僕の力ではどうしようと避けられなかったと思う。
あれは明らかに僕を待っていた。
時間やルートなどを合わせて。
姿が見えない位置に立って。
それは二つ目の曲がり角を曲がったすぐ正面。
まずは大きな手が目に付く。ごつごつとして分厚い掌。太い腕をたどると屈強な上半身が少し見上げる角度にあって。
その上には太い首。そしてそれなりに整っていながらも岩を切り出したような厳めしい顔。
こちらを見下ろす瞳は金色で、口元は薄く開いている。
「なんで・・・・?まだ動けないはずだ・・・」
「少年。まずは挨拶から始めるものだよ。」
皮肉気にそういうと奴はもったいぶった様子でゆっくりと僕に話してくる。
「久々だなシュンヤ。少しばかり時間をもらおうか。」
金曜の晩の悪夢の大男。三度目のヴォルフがやってきた。
お読みいただきありがとうございました。
本日はここまでになるかと思います。
拙い文章ですが読んでいただける限り明日からも続けていきたいと思います。
ありがとうございました。明日も、もしよろしければお願いいたします。