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メモリー  作者: 空野流星
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夢か現か

袖すり合うも他生の縁という言葉がある。

道で見知らぬ人と袖がちょっと触れ合うような些細な出来事でも、それは単なる偶然ではなくてすべて前世からの因縁によるもの。

だから、どんなささやかな出会いも大切にせよという教えだ。


……しかし、ふと思うことがある。

本当に前世というものがあるとしたならば、いったいどんな人物だったのだろうかと。

どんなに考えようが、それは自らの妄想の域を出ることはない。

それを観測する他人がいなければ、正否に関係なくただの妄想である。


しかし、もしもそれが現実となったならば……




……夢を見ていた。


目の前に広がるのは闇。

どこまで行っても抜け出る事の叶わぬ深淵。

まるで永遠の牢獄のように……


俺はたまにこんな夢を見る。


あぁ、またか……


そんな気持ちで目覚めるのを待つ。

この後の展開もよく知っている。


コツン……コツン……


闇の中に足音が響く。

白い襦袢を着た、面を付けた女がこちらに向かって歩いてくる。

その姿は、この空間を無視したかのようにはっきりと見える。


まぁ夢の中なのだ、現実の常識の枠を外れることはある。

あとは、いつも通りこのまま目が覚めるだろう……


コツッ


……止まった。


そして女は、そっと付けてある面を取った……


俺は視線が外せなくなった。

まるで蛇にでも睨まれたように身体も動かない。


世界全てを恨む狂気を内包したような怒りの瞳。

見たものは恐怖し、中には発狂する者もいるだろう。


しかし……



彼女は、泣いていたのだ。






「たーまやーい」


……


「おーい、玉ちゃーん」


……ガバッ!


「玉ちゃん言うな!」


身体に染み込んだパターンが俺の思考とは関係なく実行された。


「誰かさんが起こしてくれって頼むから起こしてやっただけだろ?」


少しずつ頭が覚醒して意識がはっきりしてくる。

そういえばこいつに授業終わったら起こしてくれと頼んでたっけか……


俺は軽く背伸びをして椅子へと掛け直す。


「そうだった……悪いな」


「頼むぜ玉ちゃん」


さっきから玉ちゃん玉ちゃんって五月蝿いこいつは佐藤和也。

小学の頃からの腐れ縁の仲だ。

高3になった今でも、クラスも一緒という宿命付けられた俺のストーカである。


そんな俺は玉瀬浩二。 どこにでもいる普通の高校生である。


「寝不足なんだよ。 家戻ってさっさと寝たいとこだ」


わざとらしい欠伸をして、いかにも眠そうなアクションをとる。

別に寝不足というわけでもないが、今日は一人で帰りたい気分だ。


「さすが廃人様、昨日もネトゲですかい?」


いつものように和也が茶化してくるが、今はその明るさが救いだ。

実際、今の俺は全身汗でびっしょりと濡れている。 先ほど見た夢の影響だろう。


「今日は寝るさ。 先に帰るぞ」


机の横にかけてある鞄を手に取り立ち上がる。

俺は、じゃぁな と言い教室を出た。 背後から また明日な という和也の声が聞こえた。






カンカンカン!


踏み切りの遮断機が目の前で下りる。

俺は歩みを止め顔を上げる。


――ドクン!


「ぁ……」


いたのだ、踏み切りの向こうに存在してはいけない者が。

あの、お面の女が……


ガタンガタン! ガタンガタン!

電車が目の前の視界を遮る。


脂汗が額から頬にかけて流れていく……


ガタンガタン! ガタンガタン!


……いない。

電車が走り去った後はいつもの風景であった。


まるで現実が侵食されているかのような、嫌な気分になる。


早く帰ろう……


早く自分の空間に逃げ出したかった。

ただ家に向かって無心に走った。




――ジャリッ!


不意に、足が止まった。


ドクッ、ドクッ……

全力疾走の後の心臓が悲鳴を上げる。


目の前には古ぼけた神社があった。

今にも崩れてしまいそうなくらいボロボロである。


そこに巫女服を纏った女性が立っていた。

お面の女と瓜二つの顔、その瞳を俺に向けながら……


「貴方を、待っていたわ。」


そう俺に告げた……


ドクッ、ドクッ……

動悸が治まらない


ただ立ったままの俺を見つめながら彼女は続ける。


「ここに来てもらったのは他でもない。 貴方に憑いているモノを消すため。」


あのお面の女の事だろうか?

それよりも俺は、この女性とお面の女が瓜二つという事が気になったが、俺の口は動いてくれない。


「一番手っ取り早いのは……」


――!?


刺された……と思った。

それぐらいの鋭い殺気が、俺の身体を突き抜けていった。


「まぁ、私のミスでこうなってしまったのでソレは実行しませんけどね。」


彼女はニッコリと微笑んだ。

今の俺には、その笑顔すら恐怖を覚えてしまう。


「私の説明が終わるまでしばらくそのままでいて下さいね。」


そう言って彼女は横にある石の灯篭に腰を預けた。


「私の名前は東 千春。 貴方に憑いているのは私の半身なのよ。

1ヶ月前、ちょっとしたアクシデントで私の身体から抜け出てしまったの。」


なるほど、それが俺に取り憑いたわけか。

我ながら不運というかなんというか……


そう考えながら彼女の話に耳を傾けた。


「そして今日やっと見つけた。 既に現実に影響を及ぼすほどになってしまっているけどね。」


それならさっさとそいつを消してくれ……

そのために来たんだろ?


「単純に消そうとすると、深く繋がってしまった貴方も一緒に消えるけどね。」


まるで俺と会話しているように東は答えた。

ますます、俺はこの得体の知れない人物が怖くなった。


「だから、その繋がりを薄めるためにも……しばらく私と暮らしてもらうわ。」



突拍子の無い出来事の山に疲れた俺は……



――考えるのを止めた。

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