会津パープルオレンジ 3 完
大山朋は玄関近くに停められていたライトバンに向かっていたが、キーを取り出したところで私達、いや、三瀬に気が付いた。
三瀬はすぐにペコリと、新人アルバイトのように頭を下げた。大山朋はぐっと、顎を引いて三瀬を見詰め、それから私を見ると、小さく頷いた。挨拶するでもなく、作り笑いするでもなく、ただ落ち着いて頷いてきた。
私はたじろぎ、頷き返すのが精一杯だった。
「三瀬っ、私、カフェで待ってるから」
「あっ、千石っ!」
私が逃げるように、たぶんぶたれた犬みたいな顔で言ったからかな? 三瀬は自分で待ってろって言ったクセに呼び止める素振りを見せたけど、私は踵を返して、絹工房の先へと殆んど小走りにその場を立ち去った。
リュックの中でドクンッドクンッと、物呼玉が激しく脈打っていた。こんな気持ちになるくらいなら付き合わない方がよかった。香織のお節介を恨めしくすら思う。
「ただ、悪い『気』を込めて玉を打つと、悪い『モノ』を呼んでしまう事もある。御守りでもあるが、己の心のありようを試す霊器でもあるんだ」
虎三朗さんはそう言っていた。いっそ、恐ろしい醜い化け物でも呼んで全部滅茶苦茶にしてしまおうか?
私は物呼玉の鼓動に煽られながら、鬱々として、カフェに続くという田舎道を歩き続けた。
とっくにカフェを通り過ぎ、よくわからない林の中の細道を歩いていた。
「ここ、どこ?」
立ち止まって、自分で呆れて呟く。私は短気で、本当は気が小さい方だと思うけど、バカではないと思っている。少し時間がかかったけど、頭は冷やせた。
物呼玉の鼓動もトクっ、トクっ、トクっ、とさっきより穏やかなものになっていた。
私は大きく息を吐いた。
「今、かな?」
私は小型のリュックを肩から外し、中から物呼玉を取り出し、代わりにお握りが二つ入ったビニール袋をしまい、リュックを背負い直した。
左手で温かい獣の毛の飾り紐を摘まんで物呼玉を持ち、右手の指を構える。
「どんな『モノ』が来るの? 私の心のありようで決まるっていうなら、受けて立つよっ!」
虚勢かもしれないが、私は勢いよく言った。うだうだ悩むより、私を『試すモノ』に会いたい。おいで、お前っ!
私は物呼玉を指で弾いた。
キーンッ!!
澄んだ音色が響いた。
異変は即座に起きた。悪寒を感じて、身震いすると、周囲の林から幾筋もの煙のようなモノが私の私の前に集まり出した。
それは渦巻き、膨らみ、実体を現した。
「ええ~っ?」
私は見上げていた。背は3メートルはあったが人間に見える姿で、昔話に出てくる村人のような服装だが、肌は黒ずんだ小豆色で、足は膝から下は煙に巻かれてはっきりせず、手の指を3本、顔も煙に覆われていたけど、そのその奥のたぶん目のある場所には妖しい光が二つ灯っていた。髪は灰色でぼさぼさだった。木と土が発酵したような湿っぽい臭いもした。
「お前、何?」
何とか聞いた。
「・・・・オン、ボノ、ヤス」
頭の中に直接響くような奇妙な声でそれは答えた。
「オンボノヤス? それがお前の名前?」 それは頷いた。
「私は千石結衣。オンボノヤス、お前を呼び出したのは私。わかる?」
「・・・・何、がよ?」
「がよ? ああ、何の用かって? そうねぇ」
何の用かと聞かれても少し困ってしまった。見た目はどう見ても『オバケ』だが、案外大人しいみたいだし、これが私に対する『試し』だっていうんなら、もう虎三朗さんの手を煩わせなくても私は上手くやっていけそうだ。
このまま、この子や他のオバケを操って悪人退治でも始めようかな? 人材派遣会社もいいな。オバケだから何でも出来そう。
私が社長で、三瀬には秘書をやってもらおう。貴代はオフィスの雑用、野間は営業、香織は広報、椿は運転手、山元は・・・・あれ? 何か山元には怒られそうだな。怒るキャラじゃないのに何でだろう? 理由が思い出せない。思い出す? 私、何か忘れてたっけ?
「何、がよ?」
オンボノヤスは繰り返してきた。少し苛立っているようにも感じた。ヤバいヤバい、意味も無く呼んだと思われるのはマズいのかもしれない。
「と、取り敢えず、この近くで景色のいいとこに案内して。気分をさっぱりさせたいから」
言ってみると、オンボノヤスは煙の奥の光る瞳でじっと、私を見てきた。あれ? オーダーミスかな? 怒らせた?
「・・・・あいばっせ」
オンボノヤスはそう言って、地面を上をスーっと、滑るように右手側の林の中に入っていった。
「案内してくれるの? ちょっと待って!」
私は慌ててオンボノヤスを追い掛けた。
私は林の中を早足で進んでいた。滑るように進むオンボノヤスは早い。この子は思ったより実体がないらしくて木の幹は避けるが、枝くらいならすり抜けてゆく。
この子が通った後は草が薙ぎ倒されて獣道のようになるから何とかついてゆけたけど、私は息が切れそうになった。大体どこへ連れてゆくというんだろう?
少し不安になった私は無口なオンボノヤスに話し掛けてみた。
「ねぇっ! オンボノヤス、お前はずっと会津とか、福島に住んでいるの?」
「・・・・んだげっちょ」
えーと? 同意、という事でいいんだよね?
「大変だったでしょ? 震災の時」
オンボノヤスは答えず、進み続けた。おそらくずっと昔からいるこの子には最近過ぎてピンとこないのかな?
「じゃあ、バブル時代とか、お前は何してたの? 私達の事、バカだなって思った?」
オンボノヤスは答えない。
「高度成長期は? 学園闘争とかは? じゃあ、アメリカに占領されてた時は? やっぱりアメリカのオバケも日本に来てた? 友達になった? 喧嘩した? どうだったの?」
答えてくれない。
「じゃあさっ、戦争の時はどうだったの? お前も怖かった? 日清戦争は? 日露戦争は? お前達には関係無い?」
やっぱり答えてくれない。オンボノヤスはどんどん進んでゆく。
「明治維新は? 会津、滅茶苦茶にされたでしょう? 怒った? 関係無い? ねぇ、オンボノヤス。お前はどうだったの? お前は何も思わないの?」
私は何だかムキになってきた。そんなに私達ってつまらない事を繰り返しているの?
オンボノヤスは進みながら、少しだけ振り向いてきた。
「・・・・さすけ、なし」
一言呟いた。確か、ドラマで聞いた台詞。大丈夫だ、問題無い、という意味だった。
「お前は、賢いんだね。オンボノヤス」
私は質問攻めを止めた。無関心や蔑みより、私達全体が、哀れまれているらしい事が悲しかった。
さらに進むと、濃厚な香りが森に漂い始めた。芳香剤より濃く、新鮮で、柔らかい。進む先には明かりが差していた。
「ここってっ・・・・」
私は絶句した。森の中にあったの広大な原っぱで、一面に眩しい程のラベンダーの花が咲いていた。
「どうして?」
自生しているとは思えなかった。
ラベンダーの園の縁に立ちながら隣の煙に覆われた、オンボノヤスの顔を振り仰いだ。
オンボノヤスは光る目で、じっと私を見下ろした。すると、目の光の向こうに、いくつもの光景がその場にいるかのように伝わってきた。
ラベンダーの園は震災の後、国有地であるこの原に環境団体の者達が無断で種を植えたものだった。
当の環境団体の者達はより過激な活動に傾倒し、多くは逮捕され、団体は解散し、観光地とは認められず、やがてこのラベンダーの園は誰からも忘れられ、いつかオンボノヤスのお気に入りの場所になっていた。
「そうだったんだ・・・・オンボノヤス、お前のお気に入りの場所を教えてくれて、ありがとう」
私が笑い掛けると、黙っているオンボノヤスも煙の向こうで微笑んだような気がした。
「そうだっ! 私、いい物持ってた。ちょっと待ってね」
私はリュックからコンビニのビニール袋を出し、中からお握りを二つ取った。
「待ってね。お前、包装の剥がし方わかんないでしょ? そのまま食べたらお腹壊すよ?」
私はオンボノヤスの視線を感じながら大急ぎでお握りの包装を剥がして、オンボノヤスの前に掲げた。
「こっちが鮭お握り、こっちはツナマヨお握り。マヨネーズ大丈夫だよね?」
オンボノヤスは戸惑って、恐れているようにも見えた。あれ、お握りダメだった?
「・・・・まんま、食っで、いいだべし?」
「ああっ、いいよ。食べなよ!」
私が言うと、お握り二つは独りでに宙に浮かび上がり、煙に包まれた顔の口の辺りに吸い込まれた。すぐにもちゃもちゃと、噛んでいる様子が煙越しに何となくわかった。
「どう? 美味しい? マヨネーズ大丈夫だった?」
「んんっ、んんんっ!!!」
オンボノヤスは屈んで体を震わせ始めた。どうしたの?
「うんめぇっ、まんまっ、んだべしたぁっ!!!」
叫び、オンボノヤスは体全体を半ば煙に変えて私の回りを物凄い勢いで飛び回り始めた。
「わ、わかったっ。落ち着きなよっ」
私は相当焦った。ディズニーアニメでよく見る感じだけど、目の前で実際にやられると怖過ぎるっ!
少し落ち着いたオンボノヤスは煙の、だいぶ縮んだが何だかお握りを食べる前より実体がはっきりした気がする姿で宙に浮いて私の前に止まった。
「ごの原、好ぎが?」
「んん? そうね。好きよ、綺麗で。『ずっと見てたい』わ」
私は深く考えずにそう答えた。
「結衣、好ぎなだげ、おりなんしょ」
オンボノヤスはそう言うと、目を妖しく輝かせた。それに呼応して周囲に旋風が起こり、ラベンダーの花弁が舞い散り、オンボノヤスは煙と共に風に掻き消えた。
ラベンダーの花吹雪は私を包み込み、その香りはさっきの何倍の濃く、脳が揺さぶられたように感じた。私は香りと花弁に誘われるまま、ラベンダーの園の中へと足を踏み入れて行った。
マズい、という事はわかっていた。うっかり、あの子に好かれ過ぎた。受け答えを間違えた。オバケと話す時は『言葉』を軽く扱っちゃダメ何だ。虎三朗さん、この『試し』全然軽くなかったみたいです。
わかっていても体が言う事を聞かない。私はふらふらとラベンダーの園の中央に歩いてゆき、そこへ座り込んだ。こんな座り心地のよい場所は初めてだ。まるで体に根が張ったようだ。
と思っていると、周囲のラベンダーの生えた地面からその『根』が飛び出し、私の全身に絡み付いてきた。
途端に、意識が遠退く。眠たくて眠たくて、どうしようもない。そうか、私はこのラベンダーの園そのものになるのか・・・・それも悪くない。
ここで、この会津の地で、他の多くの忘れられた者達と同じになる。全ての人々に忘れられ、その忘れた人々さえ先の世の人々には忘れられ、ただ、花の名残としてオンボノヤス達、この世ならぬ者達にのみ眺め愛でられる。
それはきっと、いつまでも続く穏やかな時間だろう。『時間』の意味さえ無い。もう、馬鹿げた、滑稽な、浅ましい恋に苦しまなくていい。
恋?
誰の事だろう? 私の事だろうか? 私とは誰だったか? 何者とも知れない私だったらしい者が、一体、誰に恋をしたというのだろう? 誰に、誰に・・・・
「三、瀬っ」
呟いていた。『三瀬』と、よく知っている名だと思った。『知っている』、忘れる事は、無い。
ドクンッ! 鼓動がした。左手が熱い。『何か』を持っていた。ラベンダーの根に絡まれた左手を、『私』は、僅かに開き、それが出る隙間を作った。根はすぐに隙間を塞ごうとしたが、もう遅かった。
ズバァッ!! それに付けられた飾り紐から獣の爪が飛び出し、根を薙ぎ払い、私の左手も自由にする。
目の前にそれが微かに光って浮かび上がっていた。私は左手を差し伸べ、願う。
来てほしい、三瀬。
指で『物呼玉』を弾くと、澄んだ音色が響き、私は今度こそ意識を失った。
「おいっ! 千石っ、千石っ! 大丈夫か?! 千石っ、起きてくれっ!」
私は誰かに抱えられ、揺さぶられていた。段々頭が冴えてきて、目が覚めた。ちょうど目の前に三瀬の顔があった。
「あっ」
私は小さく声を上げ、
「よかった。起きたか、さっき、んんっ?!」
何か言い出した三瀬の言葉を遮り、気が付くと思い切り三瀬にキスをしていた。
「ふはっ!」
息苦しくなって、押し付けていた唇を離した。舌を入れるワケでもなく、目も閉じていたからプールの授業の『水中息止め』の場面をちょっと思い出してしまった。三瀬に限らず初キッスだった。
「どうしたんだよ、ホントに??」
三瀬は困惑していたが、ちょっと顔を赤らめていて、私は内心でもう一度気絶しそうになった。
周囲を見ると、何の変哲もないラベンダーの原っぱだった。ただ私がオンボノヤスに見せてもらった時の10分の1の広さもなく、その根も全く私に絡み付いてなかった。
辺りはもう夕暮れで、ラベンダーの紫と、夕日の橙が混ざっていた。
「連絡つかないし、カフェにもいないし、どこに行ったのかと思ったら、何かキーンって音がして、林の獣道を辿って音のした方に行ってみたんだよ。そしたら倒れてるから、マジでどうしたのかと思ったんだぜ?」
「ごめんね。ちょっと、何ていうか・・・・昼寝してた」
「昼寝っ?! 勘弁してくれよ、もうっ」
「ふふっ、あ、でも、大山朋さん。どうだった?」
三瀬は座って抱えていた私をしっかり自分に向き直らせた。私は説明し難いから左手に持っていた物呼玉をそっと、三瀬に見えないように両手で包んで隠した。
「ちゃんと話したよ。元気そうだった。もうすぐ結婚するんだってさ」
「結婚っ? 誰と?」
「故郷の静岡の元彼。高校の時付き合ってたっていう人、会津に移住してきて、こっちでパン屋を始めるんだって」
「ええっ?! そこまでするっ?」
「好きなら何でもするんじゃない?」
三瀬はさらりと言うから、
「三瀬はそれでよかったの?」
私も聞かずにはいられなかった。
「いいも何もないよ。俺は何ていうか、確認しに来ただけ何だ。俺は、何もしなくていいんだって」
ほろ苦い感じで笑って言う三瀬。私は三瀬の首を抱え込んで抱き寄せてやった。
「だぁっ、いいって! ダメージ受けてないからっ。よかったって思ってるから、マジでっ」
「三瀬、一つ約束してくれる?」
私は三瀬を抱え込んだまま言った。
「何か、大変な事で悩んだ時、なるべくでいいから、一人で考えないでほしい。私にも考えさせてほしい。それをね」
私は抱えるのを止めて、三瀬と目を合わせた。
「約束してほしい」
「・・・・わかった、約束する」
「ホントに?! やった!」
私は勢いでまたキスをしてやろうと構えたが、その前に三瀬は話しを続けてきた。
「千石、俺も一つ約束してほしい」
「何?」
「名字で呼び合うの止めないか? 下の名前で呼び合おうよ」
真っ直ぐ私の目を見て言ってきた。胸の奥が燃えるようで、物呼玉がまた激しく鼓動し始める。今、鳴らしたら大変な事になると思う。
「いいよ。じゃあ、真澄っ!」
「お、おう。俺、だよ?」
「そっちは?」
私は赤面し過ぎて、顔が燃えそうになる。
「うん、その、結衣、ちゃん」
「『ちゃん』付けなくていいからっ!」
「あれぇーっ?!」
私達は夕暮れのラベンダーの原っぱでしばらく、後になって思い出すと恥ずかしくて思わずふにゃふにゃになるようなアホみたいなやり取りを続け、その内バスの時間が来て、慌てて走ってバスに向かう事になった。
何だかんだあったけど、その夜、芦ノ牧の旅館で私と貴代は二人で温泉に入っていた。何人かいた他の客はいつの間にか上がっていた。
貴代にもオバケ云々は言えないので、ラベンダーの原っぱの件は単純に昼寝していたとして話した。
「いきなり森で昼寝とか相変わらず結衣も豪気だねぇ。今時そんな事するの、結衣か熊のプーさんくらいのもんだよ」
「まあね」
取り敢えずそう返すしかない。それにしてもこうして改めて一緒に風呂に入ると貴代の巨乳ぶりには驚く。この子はどうしてこんなに見た目通りの人間何だろうか? ストレート過ぎて受け止め切れないわ。
「そっちは解決できたみたいだけど、こっちは微妙だわぁ」
「えっ? 野間と喧嘩したの?」
「宏一と喧嘩はしてない。たださぁ」
「何よ?」
行きの電車とかバスで散々イチャついてたクセに。
「やっぱ宏一ってつまいないよね?」
「え? 今更? そこは皆、知ってるよ? それでもヨリを戻したんでしょ?」
「そうなんだよぉ、そうなんだけどさぁ、何ていうか、味のしないガムみたいなヤツでさ」
「酷い言い方っ! ふふっ」
でもちょっと面白くで半笑いになってしまった。
「中学ん時、付き合ってた頃も思ったけど、あの人、何で私みたいなのを好き何だろう?」
一応『私みたいなの』っていう自覚はあるらしい。
「うーん、自分がつまらないから、『面白成分』みたいなのを貴代に求めてるんじゃないの?」
「何それっ?! 複雑だわぁ。あっ、私もう出るわ。逆上せる」
「えっ?」
いきなり会話を切られて、私は少し焦ったが、貴代にはよくある事ではあった。
「帰りのバスとか電車で揉めないでよっ」
「へーいっ」
生返事をしながら、体を全く隠さず海から上陸するゴジラみたいに、貴代は豪快に温泉から上がって行った。
一人になった私は5分くらい、大人しく湯に浸かっていたが、軽く周囲を見回してから温泉から左手を上げてみる。
宿に戻ってから色々試した結果、物呼玉の獣の飾り紐はある程度自在に伸ばせる物だとわかった。私はそれを左手首に括りつけていた。
今では無駄に脈打たず、静かに力を湛えているのがわかった。
「馴染んできたね」
私はニヤリとして言って、また、右手の指で鳴らす構えをするがすぐに止めた。
「何てね。早く霞ヶ丘に戻って虎三朗さんにちゃんと使い方教わろう。さっ、私も上がろ」
私は湯から上がろうとしたが、何の意図も無く、温泉の岩場に物呼玉を軽くぶつけてしまった。
キーンッ!!
音がなり響き、
「やっばっ」
私が身構えた瞬間っ、温泉の女湯は会津に巣食うオバケだらけになった。
「だぁーっ?! 呼んでないっ! 今の無し無しっ! 全員帰れっ! ハウスっ! ハウスっ!」
誰一人言う事を聞かず、呑気に温泉に浸かり出す。
「めんこいのぅ~っ」
等と言って私の体を見てくる
ヤツもいて、私は慌ててタオルで体を隠すっ!
多数のオバケ達の中に、湯に浸かるオンボノヤスを見付けた。
「オンボノヤスっ! 何とかしろっ!」
「・・・・さすけ、なし」
「いやっ、さすけるだろっ?! さすけなさいよっ!!」
オンボノヤスは私のツッコみも意に介さなかった。私は無事霞ヶ丘に帰れたら、絶対虎三朗の元で修行しようと心に誓った。