魔力操作と読書魔法
「さて、自己紹介も済みましたので、訓練へ移りましょうか」
手を叩いて場の空気を変えてから、ギルド職員ことアルムさんが言う
「あなた方には、最低でも「魔力操作」と武術系スキル一種を取得してもらいます
どちらも一朝一夕では手に入るものではありませんが、あなた方なら大丈夫だと信じております」
そう言って、テキストを開く
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魔力操作スキルの取得方法
1.体内に存在する魔力を認識する
2.それを動かす
3.滑らかに動かせるようになったら、1日1時間以上繰り返す
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短っ!?
「はい、こんなテキストでは全く意味がわからないでしょうから、補足説明をさせていただきます」
補足説明か…ありがたい…
「1の行程ですが、これを無しに魔力操作をしようとすることは、灯りのない真っ暗な部屋の中でどこにあるのかわからない小麦粉でパンを作るようなものと考えていただいていいでしょう
この行程で自らの体内魔力の位置を把握してください」
「2の行程は、小麦粉に水を入れて練るような行程でしょうか
体内魔力を動かすための練習というか、柔軟体操のようなものです」
「最後の行程3、これは、毎日パンを作ることで、徐々により美味しいパンが作れるようになる、といった感じでしょうか
毎日続けることでより柔軟に、より素早く、より繊細に動かせるように、訓練する行程です」
パンに例えて説明されたが、パン、好きなんだろうか…
「皆さんにはここまで一週間で到達してもらいます」
最後に、アルムさんはそう締めた
というわけで実践開始
みんな思い思いのポーズをとって魔力を認識しようとしている
魔力を認識、か…精神を鎮めて体の奥にある力を目視すると良いんだろうか…
そんなイメージをしながら、座禅を組んで瞑想する
「『体内に存在する魔力を認識する』ねぇ…」
と、何の気もなしに呟いた一言、体から何かが抜ける感覚がして、意識が沈み込む
目を閉じているはずなのに何かが見える、全てを吸い込むような黒い塊、何の根拠もないが、それが自分の魔力だと言うことを直感した
魔力は心臓と隣り合って、血液と同じように全身に魔力を循環させている
よく見れば、循環している魔力と、固まっている魔力は若干性質が違うことが見受けられる
あとは、これを動かせば良いんだったか
そう思い、その魔力の塊に手を伸ばす
塊に指先が触れた途端、魔力が心臓の鼓動に似た動きをして、腕を飲み込み始める
肩口まで飲み込まれ、それでもなお自分を飲み込もうとする魔力
意識を手放しかけた時、精神を引き上げられる感覚と共に、魔力から右腕が引きずり出され…
「くはぁっっ!!」
目が覚めた
先ほどまでの光景は頭に焼きつき、頭痛と目の痛みに襲われる
慌てて右腕を確認する
何も変わっていない
そのことに安堵しながら、机に突っ伏す
あんなのをこなさないと魔力操作ってできないのかなぁ…
そう思っていると、前の席から声がした
「あらら〜?もしかして、魔力操作の情報を知らないのかしら?」
ここゆるい声はステレラか…
「ああ、お手上げだ…」
机に突っ伏しながら、力の抜けた声で言う
「魔力操作は〜、こう、ふわっと魔力の場所を把握して〜、こんな形になってほしいな〜って思っていたら、最初はちょっと言うことを聞いてくれないかもだけれど、何回も根気よくお願いしていたらできるようになるわよ?」
「へぇ、魔力の存在の確認って書いてあったから、意識を沈めて体内の魔力を見れば良いのかと思った」
そこまで大きな声で言ったわけでもないが、みんなが魔力操作に集中している中放ったその言葉は、妙に教室に響いた
直後、教室内の空気が凍った
と言うか、アルムさんから漏れ出す魔力で物理的に気温が1〜2度下がったように感じた
「決してそのようなことをしてはいけません!」
大きな声で、怒鳴った
「魔力に関する話の中でも有名な話ですが、ある研究者の話をしましょう」
静かに、それでいて怒気を含んだ声で切り出す
「昔々、とある国の王都に、ある一人の酔狂な研究者がおりました
その研究者が探求したもの、それは魔力です
それまで魔力とは、生物の精神的なエネルギーだと言われていました
しかし、その研究者は本来不可視であるその魔力を自分の目で見ようと考えました
長い年月の末、その研究者はある術式を開発します
その術式は、精神を体内に沈め、魔力に近づける術式でした
研究者は、その術式を使用し、それ以降彼は生きているものの動くことの無い、廃人となってしまいました
原因は諸説ありますが、魔力に精神が触れたことで、魔力と精神が融合し、精神が吸収されたからだと言われています」
魔力に精神が取り込まれる、先ほど俺が体験したものが、まさにそうなのでは無いだろうか
あのまま引き戻されなければ、俺もその研究者と同じ運命を辿っていただろう
しん、と静まり返った教室に、どこからともなく鐘の音が聞こえてくる
「さて、鐘も鳴ったことですし、昼食の時間としましょうか、次は武術の訓練となります、次の鐘が鳴るまでに訓練所に集合しておいてください
それでは、解散」
そう宣言され、一拍おいたあと、金髪勇者くん…じゃなくてグレンが大きな声で提案する
「せっかく冒険者になったんだから、みんなでギルドの食堂で食べようぜ!」
その言葉で、周りは一瞬考えたようだが、結局全員が賛同した