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異世界読書ライフ  作者: 白野威 藍玉
初心者訓練編
18/28

蹂躙の裏で:暫定主人公編

「さて、最後になりましたが、ヨウレンさんですね」

私は最後の訓練生、ヨウレンを呼びます


受付の者に聞いた限りでは、彼は読書士という特殊職以外にどの職にも就けなかったそうです

しかし、訓練開始2日目時点で魔力操作を使えたことを見る限り、魔法職としての訓練を受けていたのでしょうか?


「始めっ!」


掛け声がかけられます

ヨウレンの装備は刀、東方の国で使われていると言われる片方だけ刃がついた、薄い剣です

近接戦闘用武器、盾が無いため、私が動くことはできません


しかし…なかなか動こうとしませんね…

まあ、戦闘職の皆さんが全く太刀打ちできなかったこともあって、恐怖で足が竦んでいるのでしょうか

ああ、そう言えば、登録されている情報の中に、「誘われた者」の称号がありましたね

これは英雄や勇者についている事が多いようです

その英雄達の大半は、何故かここよりももっと平和な世界とやらについて語るそうです

彼らは異常なまでに強大なスキルを持っていたはずですが、もし、その平和な世界が実際に存在して、そこから一般の人が、強大なスキル無しに呼び出されてしまったとしたら

今のヨウレンのようになってしまうのでは無いでしょうか


そんな事を考えている間に何か覚悟を決めたのでしょうか、強く刀の柄を握ります


「うおおおおおおらぁぁぁぁ!」

刀を構えてはいるものの、技術も、スピードも皆無と言えるような突進

 そのまま加速も減速もせず、私の鞭の射程に入りました


私は今まで通り、威嚇の一撃を足元に放ちます


 パァン!

鞭の先端が空気を切り裂く乾いた音、それを聞いた途端

「ヒッ!」

華麗さもなにも無い、ただ恐怖による反射的な反応で跳び退きました

 

そして、飛び退いた後、幼子のように震え、青ざめました

悲鳴を上げなかったのは流石男といったところでしょうか


英雄が語る平和な世界には、魔法どころか魔力も存在しないそうです、それに伴い、魔物という脅威も無い

そんな平和な世界だったそうです


それゆえに、その世界では一部の人しか戦わない、一部の人しか戦えない

文化の違いで多少の差はあれど、基本的には戦えないのが普通らしい

そして、その英雄の誰もが、戦えない者だったそうです


ならば、なぜ彼らは英雄となったのでしょう

その理由は、彼らがこの世界に来て手にした特殊なスキルです

固有(ユニーク)スキルと呼ばれるそれは、この世界でも一部の達人や変人がもっているものです

しかし、転移者が持つ固有スキルはそれらと一線を画す強力さでした


例えば魔力の限り鉛玉を撃ち出せる、銃と呼ばれる武器を召喚できるもの

例えばあらゆる魔法を扱い、それどころか新たな魔法をも創り出せるもの

例えば触れた生物からスキルを奪い取るもの


彼らはその力で街や国を救ったらしい

それがこの国で、この街で転移者が歓迎されている理由のようです


思考を巡らせている間に、ヨウレンの表情が変わったのが見えました


闘志に満ちた顔、どうやら、本当の意味で覚悟が決まったようです


彼はどこから取り出したのか、黒い板を手に持ち、小さな声で言い始めました


「『東の国に伝わる(ツルギ)「刀」、その独特の反りを利用した最速の一撃

 必要なのは力では無い、純粋な技術によって生み出される、鞘に収められた状態から放たれる一撃、あまりの速さにその技はこう呼ばれる、一閃、と』」


 これは…テキストに書いてあった刀術の欄に書いてある一文でしたっけ

そんなものを読み上げて、なんの意味があるのでしょうか

そんな疑問は、すぐに解消されました


直後、ヨウレンが駆け始めたのです

キノアイトよりも速く、走り始めたのです

ヨウレンはキノアイトよりも敏捷が低いはずだ、そして、素の素早さも下回るはずですが

なら何故ここまでのスピードが出るのでしょうか

それはつまりただの…技術なのでしょう

キノアイトのような、敏捷に頼った走り方で無く、純粋な技術による速度


先ほどとは比べ物にならない速さの突進で、私の鞭の射程に入ってきました

威嚇の一撃、ヨウレンは動きません

当てるつもりの二撃目、三撃目、半歩ずれるだけで避けられます

明らかにさっきまでの動きと違う!

そう思った時には、もうすでに30cmまで近づかれていました


刀の鞘と柄を持つヨウレン、その後に見たのは、まさに一閃

一瞬の閃きの直後、脇腹に鈍痛が走ります

骨の何本かは折れているのでしょうか、鈍い痛みと鋭い痛みが同時に襲ってきます


そしてそのまま、私の脇腹に刀を当てた状態で不自然なほどに隙ができました

とっさに私が取った行動、それは相手の意識を奪うことでした

痛みをこらえながら顎に蹴りを打ち込みます

さっきまでの回避はなんだったのだろう、そう思うくらいの呆気なさで、ヨウレンは意識を失いました


回復術師に応急処置をさせ医務室へ運ばせます

私も応急処置を受け、考えます、先ほどヨウレンの動きが変わった原因を

思い当たるのは、昨日新規でギルドのデータベースに登録された読書士という職業

本をたくさん読むことが条件のようですが、過去にそのような職業は確認されていません

そこで私はある話を思い出しました

これも、転移者と呼ばれる英雄の話

東の国に現れたというその英雄は、刀を愛用して、ある特殊な職業についていたそうです

それは「サムライ」と呼ばれるもので、開放条件はありふれたものだったようですが、その人以外に誰も開放はできず、同じ条件で開放されたのは、「剣豪」という内容から全く別の物だったようです

それ以降、「サムライ」など、転移者のみしか手に入れられなかったスキル群を、なんのひねりもせずに「異世界の職」と呼ぶようになったのです


もしかしたら、ヨウレンの「読書士」は異世界の職なのかもしれないですね

現に、王立図書館などの本に関わる者にも、誰一人表示されたことがないようだからです

誰も転職しなくても、表示があれば存在くらいはデータベースに残るはずなのですから


とりあえず、明日はヨウレンにスキルの詳細を聞いてみよう

そう思いながら、先ほど負った脇腹の治療のため、ギルドの医務室へ移動します

回復魔法を使ったとしても1日は安静にしないといけないらしいです


丁度良く、訓練生全員が医務室で寝かせられているようなので、明日は医務室で魔術訓練と、武術はするわけにいかないので、ちょっとした座学でもしましょうか

そう思いながら、私は医務室のベッドで眠りに落ちました


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