蹂躙:魔法職編
「次は魔法職の方をチェックします、ヨウレンさんは特殊職ということで、少々お待ちください」
そう言ったアルムさんの前に立つのは、治癒士である回復魔法使いのステレラだ
双方が構えたことを確認した回復魔法使いの一人は先ほどと同じように「始め!」と掛け声をかける
ステレラが使用する武器は鉄扇、鉄製の骨組みを持つ扇だ
大きさは物にもよるが、大体は一般的な扇と同じくらいか、少し大きい程度、もともと護身用の武器であるため、攻撃性能はあまり高く無い
体術を織り交ぜることで真価を発揮するような打撃武器だ
今回は対ナイフの護身と仮定しているのか、アルムさんは刃引きされたナイフを装備している
スキルを所持していないからか、鞭の時ほどに動きに鮮やかさこそ無いが、それでも十分素早い
ギン、ギンと、鉄同士がぶつかり合う鈍い音が響く中、しばらく打ち合う二人
何分か経った頃、ついにアルムさんの持つ短剣が折れ飛んだ
「十分合格です」
アルムさんはそう一言呟いて、目視すら難しい拳で顎を撃ち抜く
脳を揺らされたステレラは、糸が切れた人形のように崩れ落ちた
「次、ガーネットさんですね、貴女には魔法の使用を許可します」
そう言って、戦士職の五人に使っていた鞭を構え、ガーネットも杖を構える
「始め!」
「火よ、我が意思に応え球形となり、かの者を撃ちぬけ!」
『ファイアーボール』
厨二心をくすぐるいい詠唱だ、その証拠(?)に生み出された炎は赤々と輝き、野球ボールくらいの大きさだ
それが野球のストレート程度のスピードでアルムさんの方へ飛んでいく
『ウォーターボール』
一言、アルムさんが唱える
詠唱破棄か何かなのだろうか、そう思ったが、生み出されたのはレベルの差などでは説明のつかない密度の水球
詠唱破棄スキルが存在したとして、詠唱無しでも減衰はしない仕様なのだろうか、それとも…
まあ、今は俺以外全員意識失ってるせいで確認も取れないけど、魔法を使えるようになる頃には嫌でもわかることか
そう結論し、意識を戦闘に戻す
ガーネットは杖で鞭を往なしながら呪文の詠唱を続ける
「火よ、我が意思に応え、爆発を内に秘め、かの者を撃ち砕け!」
『ボム・ショット』
見た目は先ほどのファイアーボールと変わらないが、詠唱やら名前やらで、爆発系の魔法だということが容易に想像できる
アルムさんは律儀に待ってくれたようで、魔法の発動を確認した後、対抗魔法を構築する
『バブルコート』
ふわりと放たれたそれは、火球に衝突すると、そのまま中に取り込む
酸素と魔力の供給を断たれた火球は、そのままゆっくり鎮火した
そんな感じで、鞭と杖の応酬よりは、魔法攻撃のほうがメインかのように多くの魔法が飛び交う
飛び交うと言うよりは撃ち落とされる、だが
しかし、ここまで一度もアルムさんから魔法を撃っていないという事は、それが隙になるからか、それとも圧勝してしまうからなのか
その答えはすぐに出された
「水よ、我が望むは激流をその内に秘めた球、我が魔力に導かれ、かの者の意識を奪え」
『ストリーム・バレット』
冷静な表情のまま、詠唱をして、魔法を放った
水で形作られた弾丸が、複雑な軌道を描いてガーネットに迫る
よく目をこらすと、弾丸は空中に引かれた魔力のラインを通っているようだ
その弾丸の最終的な到達点は、ガーネットの顎
ガーネットは複雑な軌道を描く弾丸に反応しきれないで、対抗魔法を唱えることも、避けることも叶わず、脳を揺らされて気絶する
結局、魔法使いの二人も、アルムさんにかすり傷1つ負わせることができなかった




