魔力訓練と幻の調味料
異世界生活4日目、冒険者見習い生活は3日目
そろそろ訓練生活にも慣れてきた
朝飯は謎肉と謎野菜の炒め物、不思議な味だったが、食べられなくはなかった
そして、宿の宿泊日数を延長、居心地が良かったので、更に10日泊まることが決定
長期滞在で若干値引きされて、残金は金貨1枚、銀貨35枚、銅貨50枚となった、臨時収入のおかげでまだまだ余裕がある
ギルドに向かって、前日と同じく魔術訓練
昨日の武術訓練中に練習した魔力循環の影響か、魔力操作もかなり安定している
それでも、まだ魔力の回転を安定させるには集中力が必要なため、戦闘時に発動させるなどはまだできないと思う
とにかく、今は魔力精製を成功させ、魔力痕を発動させる事が最大の目標だ
魔力の塊から、真っ黒な魔力だけをつかむように取り出そうとする、失敗
次に、コーヒーのようにフィルターを通して不純物を取り除くイメージで動かす、失敗
遠心分離機のように、魔力を高速で循環させ全ての靄を分離する、成功、かと思ったが、その後一瞬で体内の魔力が霧散し、俺は意識を失った
誰かに体を揺すられる感覚がする…
目を開けると、午前の訓練は終わり、昼になっていた
「…あれ?俺何してたっけ」
魔力操作の派生、魔力精製を試していたはずなんだが…寝る直前の記憶がない
「汝、生ける屍の如く魔の力を行使し、意識を闇に沈めた」
…ごめん何言ってるかわかんない
「…誰か、翻訳」
「あんたは魔力の使いすぎでぶっ倒れた、以上」
シルヴィが呆れたように簡潔に説明する
「ああ、理解した」
魔力精製を楽にできないか試してたら、完全に失敗して全魔力放出したんだったな
「それで、なんでみんな俺のとこに集まってんだ?」
その質問には、当たり前のようにみんなが声を揃えた
『飯、食べに行くぞ』
どうやら、みんな俺の事を待っていたらしい
俺の冒険者の同期は、良いやつばっかりだった
本日の昼食
肉とゼリーの炒め物と、野菜にゼリー状のものがかかったものの2品だった
どちらの料理にもかかっているゼリー状の物質がかなり怪しいが、食べないと言う選択肢はない
まず肉を一切れ食べる、ニンニクの風味が効いていてとても美味しい
もしかして、と思い、肉にかけられているゼリー状のもののみを口にする、濃厚なニンニクの味
すり潰したニンニクを濃縮したような味だ、それを肉とともに炒める事で肉にニンニクの風味を移したのだろう
なんの食材かはわからないのが不安だが、かなり美味しい美味しい
次にサラダだ、野菜にゼリー状のものがかかっている
見た感じはゼラチンで固めたポン酢に見える
見た目は問題ない…わけでもないが、とにかく実食あるのみ
野菜と共に口に入れる
味は玉ねぎを使ったドレッシングのようだ
もしかしたら、転移者が製法を伝えたのかもしれない
みたいな事を考えながら、懐かしい味に完全に油断していた
そんな時、タルクが懐かしそうな声を上げる
「おお、スライムソースとは、普通に食べようと思ったら銅貨50枚じゃ買えませんよ、さすがギルド直営の食堂なだけありますね、モンスター食材が豊富だ」
…すらいむそーす?
「こっちの肉にかかってるのは…ガーリックスライムのものですね、野菜の方は…オニオンスライムのものに色々な調味料が混ぜてあります
まさか冒険者になってからもこんな贅沢なものが食べられるとは…」
流石三男とはいえ貴族、食材に関する知識は豊富らしい
これは後に聞いた話だが、これはいわゆる、一般にはスライムゼリーとか呼ばれているものの一種らしい
数多くいるらしいスライムの中でも、湧き水などの綺麗な水の周辺で、極稀に見かけられるピュアスライムと呼ばれる、透明なスライムを捕獲
その後、そのスライムにある一定の食材を与え続けることで、濃厚な味のスライムゼリーを持つ、新たな種を作り上げた人がいるらしい
どうしてスライムゼリーに味をつけようと思ったのかは解明されていないが、スライムソースの生産者の家に伝わるスライムソースの原点には、ある一人の男が登場する
その人物は、ニホンと言う故郷を探す、珍しい格好をした旅人で、一部の者には、その旅人こそが、スライムソースを作ったものなのではないか、と言われている
ちなみに、今回食堂でスライムソースが出された理由には、一昨日まで遡らなければならない
一昨日の朝、突然スライム牧場で飼育されていたスライムが爆発的増殖を起こし、スライム牧場から溢れ出そうになると言う事件が起こった
スライム牧場の人員で処理できる数を大幅に超えた大発生で、牧場を物理的に潰されそうになった経営者は、ギルドに緊急依頼として、大量発生したスライムの間引きを依頼する
あまりの大量発生で、収穫されたスライムソースは牧場の倉庫に収まりきらず、報酬として、2瓶ずつ冒険者に配る
それでもなお余った分を、お礼として、ギルドに押し付けた
ギルド側としては、既に2瓶ずつ配られた冒険者にさらに配るわけにもいかず、かと言って、売り捌くと、市場が混乱しかねない量だった
そこで、悩みに悩んだギルドは、そのソースを各地のギルドに分配し、ギルド直営食堂にて冒険者に還元するという方法を取った
それが、高級食材であるスライムソースが銅貨50枚と言う安価でギルドにて配布された理由だった
俺たち訓練生にとっては完全な漁夫の利だが、これを食べたからには、冒険者として名を残そう
そう、グレンは一人で心の中で決めたのであった
その時、他のメンバーは、スライムソースを堪能していた
タルクが言うには、この料理を普通に食べようと思ったら銀貨2〜3枚は覚悟したほうが良いらしく、権力者がこぞって欲しがるせいで市場にもあまり出回らないので、幻の調味料と呼ばれているらしい
異世界人をも虜にする、日本人の食への探究心…恐るべし…




