基本ただ働きで生きるのがつらい
大貴族「……というわけで、この街の民が安心して暮らすためにも勇者、今回の魔物退治を引き受けてくれるな?」
勇者(大きなところに入るとしばしばその街のお偉い方からの声がかかる。招かれていくとたいてい豪華な食事をふるまった後に、こういうことを切り出すのは、どこかに手順が書かれているのだろうか)
僧侶「はい、もちろんでございます、大貴族様。魔王を倒すための私たちですが、こういうところで国の人々のお役にたてることが私たちの喜びなのですから」
勇者(こういうときに僧侶はすっと前に出る。芝居じみた口調は交渉の始まりを意味しており、俺たち三人は余計な口は挟まないことを決める)
大貴族「そうか、そうか。では、勇者たちよ、よろしく頼……」
僧侶「……ですが、大貴族様」
大貴族「ん、ん? どうした?」
僧侶「大貴族様のお話を聞いた限りですが、その魔物はとても手ごわいと思われます。私たちが負ける、とまではいかないにせよ、倒す前に逃げられる可能性もあります」
大貴族「そ、そうなのか?」
僧侶「もちろんそのようなことにならないように最善をつくさせていただくのですが、やはり確実にいくには準備がそれなりに必要になります。ですが恥ずかしい話、私たちは旅から旅へ続ける私たちにはその余裕が……」
大貴族「……つまり、私に支度金を出せというわけだな?」
勇者(ここで大貴族は目の前にいるのが交渉人であると気付いたようだ。顔を一気に渋らせるが、すでに軍配は僧侶に上がっていた)
僧侶「いえいえ、魔物が倒すことが使命の私たちにそんな恐れの多いことはいえません……ただ、もし魔物を取り逃がした場合に、復讐としてこの街を襲うかもしれないことを考えると、私たちはそうそう仕掛けることは難しくなります」
大貴族「ぐっ……」
僧侶「だからといって、このまま手をこまねいていても、魔物はさらに力をつけて手に負えなくなってしまうかもしれません」
大貴族「……わ、わかった。支度金……いや、寄付金を出そう。今回の魔物に対するものではなく、これからの勇者たちにせめてもの応援だ。それならよからう?」
勇者(俺たちに対する報奨金の類は暗黙の了解で禁止されている。これは、金のある街や富豪が金銭で勇者を懐柔させないためであり、一般的に見れば正しい決まりなのだろう。しかし、これを逆手にとって普通はギルドなどを雇い対処するような厄介事を俺たちに押し付けてくるやつらは当然いて、当事者の俺たちはこうやって自衛をすることしか常であった)