正論を言われて生きるのがつらい
勇者たちの目の前に魔物が現れた!
戦士「いくぞ、皆!」
魔法使い「うん!」
僧侶「はい!」
勇者「……おう」
勇者たちは魔物を倒した!
勇者(旅立ってから半年、このパーティーのリーダーは実質的に戦士になっていた)
酒場
勇者「オヤジ、いつものやつをくれ」
店主「あいよ」
勇者(戦士が急にしゃしゃり出てきたわけではない。俺の攻撃だけに耐性がある魔物たちの戦いばかりで、不貞腐れて戦闘に支障をきたしていたから、戦士が俺の代わりにやってくれているだけなのだから。もし、今さら俺がリーダーとして指揮を振るいたいといっても、戦士と僧侶はちゃんと従ってくれるだろう)
戦士「オヤジ、俺もこいつと同じものを。それと適当につまみも」
店主「はいよ」
勇者「……! 戦士、どうしてここに?」
戦士「お前が落ち込んだときに来る場所といえば、ここしかねえじゃねえか。どうしてわかったかなんて聞くなよ? お前、感情が乏しいくせにわかりやすすぎるんだよ」
勇者(戦士は大家族の長男であるらしく、その経験からか人の機微を読み取るのがうまい。たぶん姉である僧侶よりも俺のことをよくわかっているように思えた)
戦士「どうせ、今日も活躍できなかったことを悔やんでいるんだろ? 別に誰かの足をひっぱているわけじゃないんだから、気にすることでもないんだがなあ。あ、きたきた」
勇者「……そんなわけにいくかよ。今まであんなに苦労してきたのに、いざ旅に出てみるとこのざまだ。今までの人生を否定された気がするよ」
戦士「人生を否定って、大袈裟だな。お前は一対一なら俺より強いし、雷の魔法も天才と言われた魔法使いよりもすげえじゃねえか」
勇者「それが魔物相手じゃ役に立ってないから悩んでいるんだよ。……なあ、やっぱり俺は……」
戦士「またその話か? 前にも言ったが、お前が今さら他の武器を使おうとしたり、他の魔法を覚えようとしたって、俺や魔法使いの劣化にしかならねえんだよ。お前が剣や雷の魔法の実力や費やしてきた時間に自信があるように、俺たちも同じようなのはある。それぐらいわかるだろ?」
勇者(たしかに俺以外のパーティーのメンバーも、国から選ばれただけのことはあるといえるほど実力と才能は高く、俺が付き焼き刃で何かを覚えてもおそらく無駄になることはわかっていた)
戦士「結局さ、それぞれがそれぞれのできることをするのが一番いい。それ以上を望むのは贅沢ってもんだろ」
勇者「……ああ」
勇者(たしかに戦士が言っていることは紛れもない正論で、それと同時に俺に対する優しいフォローでもあった。しかし、一方で俺の中にはもやもやしたものが溜まる。が、それが口に出すことはなかった)