黒歴史で生きるのがつらい
勇者(俺は天才だった)
師範代『さすがは、勇者。すでに剣において、右に出るものはいないか』
魔導師『ただでさえ、使い手の少ない雷の魔法をここまで使いこなすとは……やはりあなたは選ばれし者ですね』
勇者(剣術の師も、魔法の師も、俺のことを褒め称え育てた。幼い俺が泣き言を言わず、またやさぐれないための教育方針だったのだろう。しかしそれは俺の自尊心も大きく育てていた)
大司祭『いいですか、勇者。あなたは特別な存在です。しかし、謙虚さと他者を思いやる気持ちを持たなくてはいけませんよ』
勇者(もちろん王国側もそれを危惧していたのだろう。小さいころから、大司祭の説法を聞かされた。おかげで、その大きく育った自尊心も少なくとも表面上ではおくびにも出さず取り繕い続けた)
国王『それでは勇者よ、出発のときだ!』
勇者(しかし、いよいよ訪れたその日に興奮していたのかもしれない。浮かれていたのかもしれない)
勇者『戦士、魔法使い、……僧侶、行く前に一つ言っておくことがある』
勇者(言い訳はいくらでも言えるが、事実は変わらない)
勇者『俺についていけそうになかったら言ってくれ』
勇者(俺の隠していた自尊心が初めて言葉に出た)
勇者『君たちをみくびっているつもりはない。だが、この旅で君たちは何度も危険なめにあうだろう。そのとき、命が惜しくなって逃げだしたとしても、責めるつもりはない』
勇者(魔法使いだけ『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をしていたが、戦士と僧侶も顔に出さなかっただけでそう思っていたのかもしれない)
勇者『そうなったとしても、命がけの旅に君たちがついてきてくれたことを俺は立派に思うよ。じゃあ、行こうか!』
勇者(そうして俺たちの冒険が始まり半年がたち、この心配は全くの杞憂のこととなっていた。ただ同時に、このときのことがときどきフラッシュバックし、そのたびに羞恥で身をもだえることが今の問題だ)