しきたりで生きるのがつらい
勇者(勇者として、選ばれてはや数年、俺は死に物狂いで特訓を続けてきた)
勇者(毎日毎日、朝日が昇る前に鍛錬を始め、夕日がなくなるまで剣と魔法の鍛錬を繰り返す日々)
勇者(もちろん遊ぶ時間などなく、友達どころか親すらですら、鍛錬するために王宮に住むことになった以降に顔を見たことはない)
勇者(そして、満を持して勇者として旅立つことになったその日、俺はパーティーの仲間として、戦士、魔法使い、僧侶に会わせられた)
戦士『何回か手合せをしたことはあるが、こうして話すのは、初めてか。これからよろしくな、勇者』
勇者(戦士とは面識があった。鍛錬のさいに、何度か手合せをした仲でもある。剣術では負けた記憶はないが、いろんな武器を使いこなせる器用さを戦士は持っていた)
魔法使い『あんたが勇者? そう、ふーん……』
勇者(魔法使いとは初対面。人を見定めるようにジロジロ見てくるのは、いらっときたが、実力は折り紙つきの天才らしい)
僧侶『……久しぶり、勇者ちゃん。大きくなったわね』
勇者(そして僧侶はなんと、俺の姉だった……ようなのだが、親の顔も忘れるような俺には、姉がいたことは覚えていても、目の前の人物が本当に姉なのかはわからなかった)
王様『勇者よ、国民の平和はお前にかかっている。しっかりと魔王を倒してくるのだぞ』
勇者(そう言って、ろくな装備も与えず俺たちを国から出発させた俺の育ての親、兼、国王。魔王を倒しにいくというのに人数も準備も方法も、明らかにおかしいのだが国王が言うにはそれがしきたりらしい……まったく、生きづらい世の中だ)