あからさますぎて生きるのがつらい
魔王(そして、ついに訪れた土曜日の夕暮れ。私は指定通りに王国の近くの森、さらにその奥にある、迷いの森の入り口に来ていた)
魔王『……やっぱり、誰もいないかあ』
魔王(だけど、というより当然といえるかもしれないけれど、迷いの森の入り口になんて来ても誰もどころか何もなく、どうやらあれはただのいたずらだったと思えた)
魔王『今時、こんなことをする人がいるなんて、後で学校に連絡しとかなきゃね』
魔王(言葉を吐いて気持ちを無理やり切り替える。騙された怒りより悲しみのほうが大きかったことに自分の未練がましさを感じる)
『全く、どうしてわからずやばっかりなのかしら』
魔王『!?』
魔王(森の中から出てきた声に驚き、とっさに木の影に身を潜める。別に悪いことをしたつもりはないけれど、声の主がいらだっているのはわかったからだった)
魔法使い『何が「滅びゆくのが自然の成り行き」よっ、ただ、生きるのを諦めただけじゃない!』
魔王(森の中から出てきたのは一人の女の子。というか、同じ学校の子であることが着ている制服からわかった)
魔法使い『もういいわ、私は私の好きなようにやらせてもらうからね! ふんっ!』
魔王『あの子は……』
魔王(私はその子に見覚えがあった。といっても、実際にしゃべったことはなくて風の噂で聞いたぐらいではあったけど、曰く、『魔法学校創設以来の天才』らしく、落ちこぼれに近い私とは天と地ほどの差がある人だ)
魔王『……どうしてここに?』
魔王(少しだけ、彼女があの求人を出した可能性も考えたけれど、それならこの名前の通りに何人も行方不明者を出す森の奥から出てくる必要はない。いたずらだけなら、入り口の近くにも隠れる場所はあった)
魔王『……いっちゃった』
魔王(そして、考えを裏付けるように彼女はすぐに姿を消し、私一人だけがぽつんと残された)
魔王『明日はちゃんと就活しなきゃ』
魔王(なんとなく一日を無駄にした気がするけど、とりあえず帰ろうとした私の前に)
魔王『あれ? これって……』
魔王(依代である人形と魂……つまり、死霊使い用の道具が地面に置かれていた。)
魔王『どこから?』
魔王(いくら暗いからとって、人形はともかく魂を死霊使いである私が見逃すわけがない)
魔王『拾えっていうの……?』
魔王(さっきの今で普通だったら疑うところだったんだけど、私は惹かれるように人形と魂に手を伸ばす……そして、)
魔王『さまよえる魂よ。今、我の元にその身を現せ』
魔王(何度も繰り返し、何度も失敗したその呪文を唱える。
直後、魂が人形に吸い込まれ目を覚ます。そこまではいつもと同じだった。しかし……)
??『ふあーよく寝た。……けど、魔王はん、今回はちょち起こすのおそないか? いくらウチが寝ボスケやって……人間っ!? ……誰や、お前?』
魔王(目の前で蘇らせた人形は確かに動き、そしてしゃべった)
??『誰やって聞いてるんやけど? 人間なら名前くらいあるやろ?』
魔王『……わ、わ、わわわ』
??『「わ」さん……? んなわけないわな。自分、テンパりすぎやろ。
まあええ。よく考えたら名前なんて聞いてもしょうもなかったわ。
なあ、近くに魔王見んかったか? こーんな角していると思うんやけど……』
魔王(上に向かって人差し指を突き出すだけの、明らかにわかりようのないジェスチャーだったが、そんんなことに突っ込む余裕は当時の私にはなく、戸惑いと喜びで頭が正常に作動していないときに)
側近『魔王を探す必要はないですよ。お久しぶりです。竜姫』
魔王(彼女はやってきた。今思えば、このときのできごとはおそらく全て彼女が仕組んであったことなのだろう)
??改め竜姫『おー側近、久しぶりやな。けど、魔王を探す必要がないってどういうことや?』
側近『だって魔王様はここにいらっしゃいますから』
竜姫「へ?」
魔王『えっ? ……私?』
側近『はい』
魔王『……』
竜姫『……』
側近『……』
魔王・竜姫『えええええぇぇぇぇぇ!?』
魔王(次々の展開に頭が混乱し、パニックの私へ手のひらを向けて微笑む彼女は、悪魔は天使の皮を被っているといっても納得できるほどほど美しかった。)