ハロー効果
『ハロー効果』
「人間とは、本当に無駄な心配をする生き物だな」
まるで自分が人間ではないかのような口ぶりで、私は言った。
「自分だって人間のくせに」
当たり前の突込みを太郎がした。
「それが嫌で私は毎日憂鬱なのだよ」
「僕はこんなに人間が好きなのに」
人間嫌いの人間と人間好きの喋る犬。
なるほど。はたから見れば確かにおもしろいコンビなのかもしれない。
あれは確か、晴天の日だったと思う。
今回の依頼は、浮気調査だった。
依頼人はドアを勢いよく開けて、なぜか私をやっと見つけた犯人かのように一瞬だけ睨んだ。
10畳ぐらいの事務所だ。男二人と犬が一匹でもういっぱいいっぱいだった。
依頼は電話で、とお願いしている張り紙の効果はなかったようだ。
いい迷惑。彼の勢いのよさのおかげで「一紋字探偵事務所」の看板が音を立てて、落ちた。
「あれ、そろそろ直したほうがいいよ」太郎が私にだけ聞こえるように言った。
「鳳凰堂エンタープライズに勤めている、山本といいます」
聞いてもいないのに、彼はまるで記号を並べるようにそう発音し、私に名刺を手渡した。
「大手企業だ」太郎が言った。
彼は毎回そう自己紹介を始めているんだろう。
依頼人は臆病で、神経質で、それでもちっぽけな自尊心というやつは持っているらしい。
男は続けた。「彼女が浮気してるんです」。まだ聞いてもいないのに、本当にせっかちな奴だ。
太郎が「あの人、モテそうな顔してるのにね」と小さく呟いた。
男はイタリア製のスーツを着こなし、自身の彫りの深い顔と長身を最大限に活かしていた。
確かに、彼は「モテる」のだろう。
名探偵じゃなくてもそれぐらいわかる。
「週に4〜5回。多いですか?私、よく先輩や同僚と飲みに行くんですよ」
カーディガンを羽織った陽子の姿は、山本のやはり頼んでもないのに言っていた「控えめなところが好きなんですよ」という文言に一致する。見るからに、職種=事務、という感じ。
私に対しての警戒心はないようだ。作戦通り。
太郎はいつも私に言う。
黙ってれば、女性に好かれるような顔立ちなのにね。
なのにね、が気になるが、生きていくのにはさほど必要でないと思われるそんな特性も、
こういった調査には役に立つ、らしい。
人間は何よりも「見た目」を重視するからね、と太郎は言った。
「ハロー効果って呼ばれてるんだよ。要するに、顔がいい奴や肩書きがある奴は得するってこと」
実に馬鹿馬鹿しい。それならモデルは全員東大生であっていいはずだ。
今回は街頭のアンケート調査員を装い、彼女に「週に何度飲酒してますか」と尋ねてみた。
陽子はお酒が好きで、毎晩会社の人と夜の宴を楽しんでいるという。
「彼氏に心配されたりしないんですか」そんなアンケート委員という立場を乗り越えた質問にも、
「心配、してますよ〜。メールとか電話とかすごい来ますもん。飲み会や誰かと飲んでるときはもちろん出ないんですけどね」
悪戯な笑顔を浮かべて彼女は言った。
初対面である私への親しげな対応からは、それなりの協調性と気の強さ、そして危うさが感じられた。
なるほど。山本が心配するのも少しはわかる気がする。
「この前なんか探偵とか雇って私のこと調べたりして。心配してくれるのは嬉しいんですけど」
どうやら彼女を調査したのは私が初めてではないらしい。どれだけ心配性なんだ、彼は。そして、彼女は聞いてもないのこう続けた。
「でも、神に誓って、やましいことしてるわけじゃないんですよ」
人間はすぐに弁解をする。神に誓う、なんて言葉を吐くものには嘘つきも多かった。
でも、彼女の言葉に嘘はなかった。
私には人の嘘がわかる。
それがいつからかはわからないが、なぜかわかる。証明のない答え。
神様は理由の要らないものには理由なんて用意しないんだよ、太郎がいつか私にそう言ったのを思い出した。
「問題はない」
私は調査内容を山本に伝えた。彼はすぐに納得して「ああ、よかった」と感情があるのだかないのだかよくわからない声を出した。
これは伝えていなかったが、私はあれから簡単な尾行調査もちゃんとした。
彼女は二人で男の部屋で酒を酌み交わすことはあっても、ちゃんと深夜には帰宅していた。
それぐらいは浮気とは呼ばないだろう。これは私の独断だが。
何より、山本がこれ以上の調査結果を追求してこなかったのだ。
聞かれないことを答える義理は私にはない。
「相変わらず、冷たいなぁ」
太郎が私の心を読んだかのような口ぶりで言った。
「君が喋ることを知った人間のとる態度よりはマシじゃないか?」
太郎が犬の姿をして喋ることを知ると、人間は皆、まず気絶してみせる。そして、その後決まったセリフを吐くのだ。「この化け物め」
太郎はそれをいつもこう例える。弁護士の言葉が信じられて、ホームレスの言葉が信じてもらえないのと一緒だよ。人間が喋ることは許され、犬が喋ることは許されない。見た目や肩書き。人間はいつもそんなものにこだわる。そんなとこも嫌いじゃないけどね。って。
なるほど。それもハロー効果というやつか。
「でも、驚かない人間もいたよ」太郎が思い出したように言う。
確かに。私以外ににもう一人、卒倒も罵倒もしなかった男がいた。黒柳、と名乗る男。
ある冬の、雨の日。私と太郎は彼に出会った。
「傘はささないの?」あの時、太郎は聞いた。
「持ってないんだ。傘が作るその世界は僕には苦手でね」
不気味なほど長身なその男は言った。頬はこけていたように思う。ぴたり、と身体に張り付いた黒いTシャツがまるで戦闘服のようだった。
「雪になるといいな。すべてを覆いつくすような」
独り言なのか私たちに向けての言葉なのかわからないが、彼はそう呟いた。やさしい声だった。まるですべての不安や危惧を包み隠せてしまいそうな。
その一年後、私たちは彼と一緒に探偵という仕事を始めることになる。
「裏と表があるなら、どっちも知りたいと思わないか?」彼が探偵を始めた理由だ。人の嘘がわかる私には、共感し辛いテーマだった。世の中には知らなくてもいいことが山ほどある。
彼は不思議な男だった。私たちといる間、一度も嘘をつかなかった。そんな人間は初めてだった。
そして、探偵を始めてから3ヵ月後。彼は突然いなくなった。
最後に聞いた彼のセリフは「もう少し背が低くてもよかったのにな」だった。確かに、人通りの多いセンター街の交差点でも見つけるのは容易いぐらい、彼の背は高かった。
「見かけなんて、自分じゃ決して選べないんだからさ」
何かを悟ったように太郎が言った。自分に言い聞かすようだった。
「それに…」太郎が続ける。「それに?」私は聞き返す。
「結局見た目で判断するのは他人だよ。自分には関係ない。僕はけっこう僕自身が好きだから」
「それでいいんだと私も思う。私も、案外君のことは好きだよ。見た目も含めてね」
私は中空へ言葉を浮かべた。
太郎は「またまた」というような顔をしていた。笑ったようにも見えた。
翌日は曇天だった。
太郎が「こんな日はきっと寝てるに限るよ。依頼は全部無視しよう」と探偵とは思えぬ発言をしたが、残念なことに、事務所に一本の興味深い電話が入ってきてしまった。
陽子から。浮気調査のお願いだった。
依頼は電話で。その約束を守っただけ、陽子は山本より好感が持てた。
山本は意外にも、規則正しい生活をしていた。
起床、食事、仕事、昼食、ひたすら仕事、帰宅して寝る。
そういうサイクルの生活が3日連続で続いた。
浮気のうの字も見当たらない。
太郎も「だから寝てた方がよかったじゃん」と口を尖らせた。
4日目、私は陽子に報告をした。
今のところ、浮気の兆候は見られない、と。
訝しそうに電話の向こうで悩んでいた陽子だが、喋り始めたかと思うと、こんな予期せぬ質問を私にぶつけた。
「あなたって本当に探偵?事務所の住所に行ってみても看板一つなかったんですけど」
私たちの事務所はつぶれかけの本屋の上、エレベーターもついてないビルの3階にあった。
看板はないのではない。
あなたの恋人に落とされてそのままなんですよ、と思わず言いそうになってしまった。
「疑うのは結構だが、信じてもらえないなら探偵の意味はないな」私は強気の口調で言った。
隣で太郎が鼻で私を小突いた。これで依頼を破棄されたのは今まで一度や二度ではない。
「あっ、すいません。信じますから」今回の依頼人は気弱でよかった。
「よろしくお願いします」でも、その言葉には信頼というものが皆無に思えた。
昨日までと同じように鳳凰堂に簡単な変装をして出向くと、
入り口の無意味にくるくる回るドアで後ろから声をかけられた。
「一紋字さんですよね」聞き覚えのある声だった。
高嶋だ。以前、やはり浮気調査を頼んできた依頼人であった。
人の顔をおぼえるのは得意ではないが、この独特の匂いのコロンには覚えがあった。
男性用というよりはむしろ女性的な、さわやかな印象の香り。
あまりにも似合ってなかったので、かなり鮮明に覚えている。
「やっぱりそうだ。この帽子、前の変装のときと一緒ですもん」お気に入りだが捨てようと決心した。
そうか。この男も鳳凰堂の社員だった。
私が「調査なのでくれぐれも内密に」と人差し指を立てると、
「わかってますよ。他言無用」彼はまるで助手のように小さな声で呟いた。そして、
「僕、この前友人にいい浮気調査専門の探偵が居るって宣伝しときましたから」
彼は本当に私の助手になりたいのだろうか。声だけ聞いて一瞬そう思ったが、顔を見てその仮設が違うことに気付いた。ニッコリ笑うその顔には、これでもか、というほどのお人好しさが溢れていた。
だから、ちゃっかり浮気されるのだ。私はその言葉を胸の奥にしまい、
「ありがとう」とだけ言ってその場を去った。
「浮気をしている人が疑われない方法は探偵を雇うことだ」
山本が会社から出てくるのを待っていたコンビニで、そんな見出しが書かれた雑誌を見つけた。
興味があったわけでもないが、探偵という言葉に反応してしまった。暇潰しだ。ページをめくってみる。
「いや、これマジっすよ。俺、彼女を探偵に調べてもらって、何となく彼女にもそのこと伝えたんすよ。疑われて、最初は嫌な顔をするんすけど、あながち嫌ではないんでしょうね。心配かけないようにするねって、本気で言ってきました。いやいや、浮気してるのこっちなのに、って感じですよね」
不思議な生き物だな、と私は小さく口に出していた。心からそう思う。誰が誰と性行為をしようが付き合おうが、どうでもいいではないか。現にそれが悪いことではないと認められている国も多数存在する。種類は同じでも、場所によってこれほど考え方が違う生物は宇宙を探してもおそらく人間だけだろう。細かいことを気にする割にひどく残酷で、無駄で、愚かだ。
山本もこの記事のこの男のような考えなのだろうか。
陽子は何度か浮気調査をされたことがあると自分で言っていた。
仮説を立てる。山本は自分の浮気を棚に挙げ、陽子を調査する。
しかし、今度は陽子がそのあやしさに気付き、山本の調査を依頼する。
面倒くさいな。仕事とはいえ笑ってしまう。
当人同士が正直に話せば、10分もかからず解決する話だ。金も無駄である。
そして、非常にくだらないことに、私への依頼が最も多いのがこの浮気調査とペット探しだ。
人はいつも何かを疑いながら生きている。探しながら暮らしている。
どこに立っていても満足できないのなら、私たちが道を歩いていく意味はあるのだろうか。
調査は終了した。
電話向こうの陽子はまだ納得していない様子の声だったが、
いくつかの証拠の写真を郵送すると、無事にお金を振り込んだ。
そして、次の日。
山本が死んだ。マンションの屋上からの転落死だった。陽子もどこかへ消えた。
警察は陽子を犯人に仕立て上げ、捜査をすぐに打ち切った。
どこかでその陽子って犯人も死んでるんだろ。そんな言葉を吐きそうな警官がTVの画面に映った。
高嶋が手を上げる。
鳳凰堂近くのカフェで私たちは待ち合わせをした。
彼が私を宣伝したという友達は山本に違いない。
それなら、彼に山本の死のことを聞くのが近道のような気がした。
調査依頼もない調査だったが、「じゃあ僕が依頼人になるから」と、太郎にお願いされたのだからしょうがない。
「妙な巡り合わせの波がきたら、とりあえずは乗っておくものさ」黒柳の言葉を思い出す。
確かに妙な巡り会わせの依頼だ。もしかしたら、彼を見つけるチャンスかもしれない。
まぁ、十中八九、陽子が犯人であることは私にも予想できた。でも、彼女はなぜ彼を殺したのだろうか。
高嶋は熱弁をふるった。
山本がどんなにいい奴だったかを30分以上かけて語ると、
今度は泣きながら言った。
「あの日も一緒に夜遅くまで仕事して。ちょうど大きな仕事のコンペの結果がわかる日でね。僕たち、勝ったんですよ。プロジェクトチームみんなで抱き合って喜んで、でもすぐにみんな企画を詰めるのに必死になって頑張った。帰りには二人で酒をちょっとだけ飲んでね。あいつ、酒グセだけは悪いから、本当ちょっとね。嬉しかったし、楽しかったなぁ。まさかあれが最後の晩餐になるなんてなぁ」
目に溜まっていた涙を彼が自分の腕で拭った。結局、彼の話は彼と山本の友情話がその大半で、死についての具体的なヒントは何も得られなかった。「あの日も帰りは終電逃して二人とも家まで歩いて帰ったんですよ。逆方向ですけどね」まだまだ話は続きそうだったが、
私は礼だけ言ってその場を去る。
事務所へ帰る途中、太郎に頼まれた魚肉ソーセージを買うためにコンビニへ寄った。
雑誌コーナーの前で若い男女が大声で話をしていた。「今時の若い子は…」なんて言われるような服装だ。私も好みではなかった。彼らは先日私が見た雑誌の話をしていた。新号が出ているらしい。
「またやってるよ、ホラ、恋愛特集。もてるには香水に気を使えってさ」
「何で?」
「なんか匂いって一番記憶されやすいんだってよ。脳とか前頭葉がなんとかとか書いてある」
「へー。あ、今度香水付けてみようかな、とか考えてるでしょ〜。浮気とか駄目だからね」
「しねぇよ。してたら、とっくに探偵でも雇ってお前を調査してるだろ」
「あっ、前回の特集?でもさ、普通の人だったら疑われたら逆に怒るよね」
二人はそこで笑ったが、私は「なるほど。だから高嶋のことは覚えていたのか」と妙に納得した。そして、今回の事件にやはり黒柳は関わっていないことを確信して、かなりガックリした。
妙な波ではない。すべては必然だったのだ。
魚肉ソーセージを事務所に届ける前に、私は確認のため、
鳳凰堂エンタープライズのビルから山本の家まで歩いてみた。
日は落ちてきていた。世界が真っ赤に染められていく。
一陣の冷たい風と何度目かの出会いを果たしたとき、私はその場所をようやく見つけた。
あの晩、山本は仕事を終え、友人の高嶋と一緒に酒を飲んだ。
いい気分だったんだろう。彼らは家までの道のりを歩いて帰ることにした。
会社から山本の家まで、徒歩1時間といったところだろうか。
歩き始めてすぐ、彼は電話をしたはずだ。陽子に。少し酔っ払ってるけど心配ないよ、と。
しかし、陽子は彼を信じていなかった。それはつまり、私の報告など信じてはいなかったのだ。
看板もエレベーターもないビルの探偵のことなどこれっぽっちも。
「今、あなたの会社の近くに居るの」彼女はきっとそんなようなことを言った。
大好きな人がすぐそばにいる。山本は嬉しくなって、すぐに自分の場所を陽子に伝えた。
陽子はすぐに来た。そして、あることに気付いたに違いない。
「あることって?」
魚肉ソーセージを加えた太郎が真剣なまなざしでこちらを見ている。
私はわざと太郎をからかうように言ってみる。
「ほとんどの争いや事件は、ほんの些細な勘違いから起こるものなのだよ」
「知ってるよ」太郎がそれよりも続きを、と急かした。
山本に付いた、高嶋のコロンの匂い。
陽子は確信したに違いない。浮気。女。私とは別の。
そして、激しく攻め立てた。山本も最初はなだめていたのだろう。
しかし、山本にだって言い分はある。元々、私に調査を依頼するぐらいだからな。
「君だって、いつも夜どっかの男と遊んでるんだろ。この尻軽女」
売り言葉に買い言葉。「だって」や「でも」は人間の得意技だ。決していい結果を伴わない。
口論の末、山本はついに手を出した。もしかしたら、先に手を出したのは陽子だったのかもしれない。しかし、遅かれ早かれ、彼は陽子を殴った。お酒が入っていたこともあるんだろう。かなりの強さで。
倒れ方や当たり所が相当悪かったんだろうな。太郎がごくり、と唾を飲んだ。彼女は死んだ。
「死体は?」太郎が残りの宿題を片付けるように言った。
「会社からの帰り道に小さな森があったよ。隣にはお墓。死体を隠すには持ってこいだ」
家に帰った山本は、罪の意識に耐えられず、悩み、自殺した。
自分の将来を想像して、決して明るい未来が来ないことを悟ったのかもしれない。
人間はすぐに不幸な未来を想像し、苦しみ、そして勝手に死んでいく。
傲慢にさえ思える。誰も未来のことなどわかりはしないのに。
人間が持ってるのは生きる権利じゃなくて義務のはずなのにね、と太郎がポツリと呟いた。
もしかしたら、と私は思った。
陽子はあの雑誌の愛読者だったのかもしれない。
「浮気をしている人が疑われない方法は探偵を雇うことだ」
そう思うと、本当の犯人はあの雑誌の編集者のような気もしてくる。
山本は私を優秀な探偵と信じ、私の言葉を信じた。
逆に、陽子は私を落ちこぼれの探偵とし、私の言葉を信じなかった。
「ハロー効果か?」私は太郎に尋ねた。
「何だっけ、それ」すっかり忘れているようだ。
理由の要らないものには神様は理由を用意しない。
ならば、きっと、それは誰かにとって必要な理由だったんだろう。
「でもさ」早朝の散歩中、太郎がふいにつぶやいた。私は振り返って尋ねる。「何だ?」
「二人とも、本当にお互いを愛してたんだねぇ」太郎が空を見上げる。「死んじゃうぐらい」
愚かな生き物だな。そう続けようとしたが、太郎の顔を見て気が変わった。
「いいなぁ」
そんな人間たちを羨む者もいる。ここは不思議な世界だ。
太陽が昇っていく。すべてが光に照らされる。
「こんにちは、お日様さん」太郎が眩しそうにしながら、言った。
また今日が始まる。
私も、太郎も、人間たちも、誰もが、
決して思い通りにはならない道を、それでも歩き続けるのだ。