異世界転生したけど色々失敗したので弟子のヒモになりたい……
ウィザーズクラ○マーとか 大 好 き です(
ちょっとシルバーウィークで、師弟モノとか書きたくなってつい。
「師匠! おはようございいます!」
朝っぱらから、威勢のいい元気な声で挨拶をする少女、マナ。
マナは、俺、ハルバート・ツィーアの弟子だ。何の弟子かって? そりゃ、魔法の弟子だ。
俺はこう見えて、いや、見てくれ通りひょろくて体力は平均以下の、魔法使いなのだ。それも超が付くくらい一流……と言いたいところだが、俺はよくて二流、下手すりゃ三流という、実に落ちこぼれな魔法使いだ。
「今日も稽古付けてください!」
「よーし、それじゃあ今日も魔力循環訓練から行ってみようか」
「はいっ!! すぅぅぅ……はぁぁぁぁ……」
しかし、俺の弟子、マナ。こいつは違う。
――天才。ただその一言で片づければ実に簡単な話だ。
こいつは、俺が長年……つってもまだ今生では20才なんだけど、俺が20年かけて身に着けた魔法をあっという間に習得し、我が物にしてしまう。乾いたスポンジが水を吸い込むがごとく、というが、こいつはスポンジなんて生易しい物とは思えない。吸水性ポリマー。吸水性ポリマーだ。
マナに魔法を教えていると、俺の苦労は何だったのかと思う。マジで。
「じゃ、魔法いってみようか。あの木に向かってエアカッターで。あ、根本の方狙ってね。足を切り払うのは足止めとしても有効だから」
「はいっ! エアカッターいきます!」
シュバッ! と音がした気がした。実際には無音、せいぜいマナが右手を斜めに振り下ろした程度の音。だが、俺が指さした直径30センチほどの木は、指定した通り根本の方でスパッと斜めに斬られて、倒れた。
エアカッター。それも無詠唱。これは俺の編み出した奥義で、実に隠密性に優れた攻撃魔法だった。
……尚、あまりに隠密性が優れすぎていて、戦場で使っても誰も気付いてくれなかったという経緯を持つ。おかげで手柄にならなかった。
あの頃の俺はバカだった。手柄を上げるならもっとわかりやすくド派手な魔法を覚えるべきだったのだ。無詠唱で魔力消費もバカ高いこんな地味魔法、暗殺にしか使えねぇわ。
「んじゃ次は手足を切り落とすように、枝を切り落とせ」
「はいっ! まかせてください師匠!」
ちなみに回復魔法をかけると1年以内に無くなった手足であれば生えてくる。流石に1日かかるけど。
だからこの世界での捕虜は手足を切り落とすのが割とメジャーだ。怖い。
そしてマナは、スパスパと枝を切り落とし、丸太にしていく。これらもすべてエアカッターだ。……俺、これ連続で5発撃ったらブッ倒れるんだけど。マナは良く平気だね? え? 何百発でも撃てるって? ふざっけんなマジで。これで15歳とか、魔力成長期が終わった直後なんだぜ? 将来がマジ楽しみなんですけど?
……俺、この世界に生まれ変わった時ホント大変だったんだからね?
俺は転生者だ。前世の名前は餅蔵尚弥。ま、今はもう使ってない名前だ。今はハルバート・ツィーア。、通称はハル、もしくはハルトって呼ばれてる。
苗字があることからも分かると思うが、貴族だ。三男坊で家を継ぐ必要はないが、そのうち出てけっていう立場で、世界を旅する冒険者になるにはうってつけな身分だ。
そんな俺は、生まれた時から前世の記憶でチートを……とかしようと思ったんだけど、できなかった。
科学チート? 魔法があるから別に……ってなもんでさ。つーか街じゃバスとか普通に走ってるんだぜ? しかも排気ガスの出ないクリーンな魔法動力。ゴーレムエンジンとかあるらしい。
これ絶対他の転生者とかの仕業だろ。俺がやる余地残ってないじゃんか。残しとけよチクショウ。
じゃあ冒険者になるかってんで、でも白兵戦とか怖いし、魔法チートを、と思ってた鍛えたんだが……俺、魔法の才能が無い。……いや、使えるには使えるよ? けど魔力総量っていうの? アレ、全然育ってねぇの。いや、小さいころから使いまくって超回復で魔力総量をアップ……って思うじゃん? 違うの。使わない方が魔力総量上がるの。パンパンに溜め込んで中から拡張する感じらしいよ?
それに気付いたころには魔法的な成長期がほぼ終わってたね、ハッハワロス。ワロス……誰か教えてくれよマジで。周りの子供、みんな割と普通に魔力使ってたから知らなかったよホント。おかしいとは思ってたんだよ、ホントだよ?
気付いてからはもう魔法使わないでため込んだから、多少は今なんとか魔法使いができる程度には魔力があるってくらいだ。当時、率先して手伝ってた風呂の水出し(お風呂に水魔法で水を溜めるお手伝い)を急にやめて、熱でもあるんですかって言われたもんさ。今や懐かしい。
……それでも俺の魔力総量は平均的な魔法使いよりかなり低い。普通は成長期の終わる13歳になるまで魔法を一切使わないんだ、当然だろ。
しかもさ、魔法はイメージ、っていうじゃん? アレさ、アニメ文化で魔法の映像が頭に入っててイメージができる=チートできる……って、そう思ってた時期が俺にもあったよ。
や、うん。アニメなんて話にならない、実物が見れるんだぜ? この世界。どうよ。
そんなわけで、俺は自分では必死に魔法を身に着けているつもりが空回りして、一流になれない魔法使いをやっているってわけだ。
あ、マナは俺が10歳のころに友達になった、近所の平民だ。
いやー、小さい頃から遊んで面倒見てやってたんだけど、子供らしい疑問に答えたり、小学生程度の勉強や俺が失敗したこととか教えてやったてら、いつの間にか師匠になってたよ。つか、今じゃコイツが俺の生命線なんだから人生なにがあるかわからねぇもんだ。
……自分より年下の女の子のヒモになっているのは実に心苦しいが、俺ももう20歳なので家を出なければならない。そうしたらかねてより決めているとおり、冒険者になるわけだが……俺の使える戦闘魔法は、一番使えるのがエアカッター。他は見た目こそ派手だが威力の無い花火や幻みたいなモンだ。戦場で手柄を取られてから派手でかっこいいのを!って急いで覚えたせいで中身が伴ってないんだ。使えねぇ。あ、一応支援魔法も使える。俺が動けなくなる欠点つきだけど。
つまり、俺が冒険者として生きていくには……マナを鍛えに鍛えて、俺の代わりに頑張ってもらうしかないのだ!
「師匠、木の加工できました!」
「うん、じゃあ捕虜輸送の訓練だ。アレを丸太の下に出るように使ってみろ」
「はい! 土魔法、ダイシャ!」
マナが魔法名を叫ぶと、丸太の下の地面から土でできた台車が「にゅぅ」っと生えてくる。あ、これ俺のオリジナルね。攻撃力は無いけどこういう生活に役立つ魔法なら、小さい頃の無駄遣いしてる時にいくつも開発した。お風呂にお湯を張る魔法とかね。
「よし、捕虜を台車に拘束しろ!」
「はい。……木魔法、バインド!」
切り落とした木の枝を使って台車に丸太を固定してもらった。これで運びやすくなったな。
今日の昼飯代確保っと。
「魔力の流れも澱みない、いい調子だなマナ」
「ありがとうございます!」
俺はマナの頭を撫でてやる。……やわらかな触り心地だ、シャンプーとリンスを開発した転生者を褒めてやろう。
しかしこの光景、はたから見たら事案モノだな。マナは目を閉じて「ふにゅー」と嬉しそうに声が漏れてるけど。
「よし、あとは魔力回復呼吸を3セットやったら昼飯を食いに行く。奢ってやるぞ!」
「わぁい♪ 師匠ありがとうございます!」
いやまぁこの丸太売った金で食うから奢りかどうか微妙なところなんだけどね。
……冒険者になったら、頑張って俺を養ってくれ。頼むぞ、我が弟子よ!
*
私が師匠の弟子になったのは、5歳の頃だ。
そもそも私は貴族の坊ちゃんの遊び相手としてあてがわれた平民だった。年は少し離れているけど、他にちょうどいい平民の子供がたまたま居なかったらしい。師匠が三男だったからかなり適当に扱われていた、というのもある。
『魔法使いになりたいなら、今は魔法を使うな。絶対だ! いいか、使うんじゃないぞ!』
師匠は、私にまずそれを強く教えてくれた。
でも翌日、別に魔法を使ってるわけでもないのに叱られた。
『魔力のニオイがする……おい、さては魔法使ったろ』
『使ってません、ぼっちゃま』
『いや、魔力が漏れてる。使ってなかったら俺みたくピタっと止まるはずだ』
でも、私は魔法を使ってないのに。
そう言おうとしたが、師匠はじーっと私を見て、言った。
『そこに草が生えてる、少しむしって手に持ってみろ。……そのまま手を勢いよく振ったらどうなる?』
『こぼれます』
『じゃあ、ぎゅっと握ってみろ。そしたらどうだ?』
『……あんまりこぼれません!』
『同じようにして、魔力をこぼすな。ぎゅっと捕まえてやるんだ、ぎゅっと』
これが、師匠の次の教えだった。
師匠は凄い。いう事を聞いて、ぎゅっとしてみると、魔力はぴたっと止まった。そして、その日から魔力総量が増えていくのが自分でも分かった。
魔力総量が増えていくとたまに抑えきれずに漏れてしまう。けど、そうなると師匠に『魔力のニオイが……』と、言われるのだ。まるで自分が臭いといわれているようで、それが嫌な私は必死に魔力を留めていった。
そんな私の反応も分かっていて、ニオイとか言ってたんだろうと、今ならわかる。
おかげで、今や私の魔力量は普通の魔法使いの何倍、下手すれば何十倍にもなっていた。
師匠に魔法の事を教えてもらったのは魔力成長期の13歳が終わってからだったけど、魔法以外の事でもいろんなことを教えてもらった。
いや、それすらもすべて、魔法の事だったのかもしれない。
文字の読み方、書き方。それだって魔法の本を読んだり、呪文を書いたりするのに必要なことだ。
数の計算……足し算、引き算、掛け算、割り算。魔力があとこれだけで、このくらい魔法が使える、というのを考えるのに必要なことだ。
理科。物事の仕組み。これを理解しているとしていないでは、魔法の効率が全く違った。魔法を使うにはイメージだ。見た目のイメージと、詳細なイメージ。火が何で燃えるか知らずにファイヤーボールを使うのと、火が酸素と燃料によって燃えることを知っていてファイヤーボールを使うのとでは、同じ魔力を注いでも倍以上威力が変わってくる。
師匠は物知りだった。私が『なんでですか?』と尋ねると、なんでも答えてくれた。それも、私にわかるように手近なものを使ったり、例えたり。他の人は『それは火の精霊が燃やしているからです』とか、『神様の目が届かなかったからでしょう』とかこたえるようなことを、『薪は燃えるけど、暖炉は燃えないだろ? 燃えるには燃えるための物が必要なんだ』とか、『光合成ってのがあってな、植物は太陽の光を浴びるのがゴハンなんだ』とか。
師匠に聞けば、なんだって分かった。
これは魔力総量が少ない師匠が一流の魔法使いに劣らない魔法を使える秘訣だと思う。
師匠は、そういう貴重な知識を、惜しげもなく平民の私に教えてくれた。
だから、いつごろからか、私は師匠の事を師匠と呼んでいた。
私は師匠よりかなり魔力総量は高い。けど、師匠に勝てる気は全くしない。
師匠は魔力は少ないのに、いろんな魔法が使える。
私は必死にそれを真似しているだけに過ぎない。師匠は私が使える魔法をすべて知ってるけど、私は師匠が使える魔法を一部しか知らない。
それに、師匠の得意魔法、エアカッター。……私も使えるけど、師匠は手も指も、目線すらも動かさずに突然発動できる。
それでいて射程は150m、弓矢並だ。不可視の刃が何の予備動作もなく飛んでくるとか、敵からすればとんでもない話だ。
師匠が暗殺者なら、目標は師匠が視界に入れるだけで死ぬ。そんなの、勝てるはずがない。
でも……一番勝てないと思うところはそこじゃない。
師匠は、とてもかわいいのだ。私の前だと虚勢を張ってついつい大口を叩いたり、キザなセリフを吐いたり。それでいて私がいない所で頭抱えてじたばたして、でも言ったことを嘘にしないために必死に頑張って。
他にも手料理が美味しかったり、こっそり栄養に気を使ってくれていたり、苦手なものでも食べられるように工夫してくれたり。
寝付けないときは傍でお話を聞かせてくれたり。
やさしく、頭を撫でてくれたり。
うん、勝てない。……私は、師匠の事が大好きなんだから。
師匠の為ならなんだってする。したいのだ。
そのためにも私は師匠に教えを乞い、もっともっと力を付けて強くならなければならない。
――目標としては、功績を立てて貴族である師匠とつりあう身分になって……師匠をお婿さんにもらうことかな?