Second Life 35
更新再開遅れました。
ユーリンから連絡があったのは、あの日から三日後のことだった。
俺は夕食を食べ終え、片づけを終えると約束した時間の一時間前にログインした。
一時間も前にログインしたのはマロンとクエストを受ける約束をしているからだ。クエストを終わらせ、そのままユーリンの知り合いの子と会う予定だ。
「ねぇ、ユホ」
「どうした?」
クエストを終え、俺達は街に戻ってきていた。
約束の時間までまだ二十分程の余裕はある。
「今日ユホが会う子僕も会いたいんだけど。ついてっていいかな?」
「あぁ。別にいいんじゃないか?マロンも人脈は拡げたいだろうし」
「ありがと。待ち合わせ場所はどこなの?」
「ハルアさんのお店だよ。席を一つ取っといてくれるらしい」
会うことが決まった日、良かったらお店を話す場所に使ってくれと言われた。
注文もしてくれれば売り上げにもなるし、目の保養にもなると言っていたな。
後半の方は目の保養だけで済むのかが分からないな。まず、女性と決まったわけでもない。
でも、ユーリンのことだ。男性の知り合いは少ない気がするな。大人しいタイプだからなユーリンは。
「時間もいい頃合だしそろそろ行くか」
クエストの報酬確認などをしていたら、既に時間は十分程しか残っていない。
折角会うのだから遅刻はしたくない。
「いらっしゃ~い」
ハルアさんの店に着き、ドアを開けると店内は活気に溢れていた。
毎日とても忙しいらしい。今も数体のNPCが動き回っている。
「ユホちゃん、もう来てるわよ」
「こんばんわハルアさん。どこですか?」
ハルアさんが用意してくれた席は店の一番奥で、仕切りのある個室だった。
個室に入ると、ユーリンとユカほどの幼さの赤髪の少女が座っていた。
「ごめん。待たせたか?」
「いえ、私達が早く来すぎただけですのでお気になさらないで下さい」
「そういってくれると助かるよ。マロンも一緒なんだが大丈夫か?無理なら外してもらうけど」
「大丈夫ですよ。アリアも大丈夫?」
少女の名前はアリアと言うらしい。
「は、はい。大丈夫です」
アリアは緊張しているらしく肩が上がっており、背筋がピンッと伸びきっている。
「そんな緊張しないでくれ。歳はあまり離れていないだろうし」
「わ、分かりました」
口ではこう言っているが緊張は続いている。
一旦、緊張している事は置いといて、俺とマロンは席に着いた。
近くで見てみると、アリアの髪は綺麗だった。長く伸びた赤い髪はライトが当たり、輝きを何倍も増している。
「まず、俺達から自己紹介をしようか。生産職のユホだ。基本的にはポーションなどの回復補助系をメインに作っているが、色々なものに手は延ばしている。よろしく」
俺に続き、マロンが挨拶をする。
「僕はマロン。木工師だよ。木を使う事があったら是非僕に依頼してくれたら満足する物を作るよ。よろしくね」
マロンは持ち前の笑顔を見せアリアと握手を交わす。遅れて、俺もアリアと握手を交わした。
「きょ、今日はお会いできて光栄です!わた、私アリアと申します。補助付与と補助具作成をメインとした生産職してます。よろしくお願いします!」
やはり、緊張しているらしく言葉はかみかみだ。
因みに補助付与と言うのは、装備などに軽い身体強化魔法などを付与する事だ。補助具と言うのは、補助付与などがされている指輪などの小物などの事だ。
「ユホさんのポーション凄いです。尊敬します!」
アリアが俺のポーションを使ってくれているのは本当らしい。
嘘をついているようにも見えない。
「ありがとう。そう言ってくれると励みになるよ」
いくら噂されて良い評判だと聞いても、直接言われるのと間接的に聞くのとでは嬉しさは全然違う。
直接言われると、やる気も全くと言っていいほど変わってくる。
「あの………やっぱ、なんでもないです」
アリアは何か言いかけ、途中でそれを飲み込んでしまった。
「どうかした?何かあるなら言ってくれていいよ」
ポーションに対する改善点だろうか?
改善点に関することなら大歓迎だ。酷く言われすぎると精神的ダメージにはなるが、良い物を作るには必要だ。
「とても申しにくいのですが…………」
「気にせず言ってくれ」
「では……」
アリアは覚悟を決めたらしく、一度閉じた口を開いた。
「私に…回復ポーションの作り方を教えてください!」
「…………え?」
俺は、ポーションの悪い点を言われると思っていたので、間の抜けた声を漏らしてしまった。
「ダメでしょうか?」
「アリアちゃん、流石にそれは無理なんじゃないかな?」
生産職プレイヤーにとって良質なアイテムを作る方法は企業秘密と言ってもいい。
他のプレイヤーとあまり差が無い時は公開をする事もあるが、他のプレイヤーよりも頭一つ抜けて能力値が高い場合は作り方の情報公開はしない。
ユーリンはこの事を知っているのだろう。だから、俺が作り方は教えてくれないと思ったのだろう。
自分で言うのもなんだが、噂で俺の回復ポーションは他の人よりも質が良いと耳にしている。俺もそれなりに自信を持って作っている。
「です……よね」
「なんで、俺なんだ?まず、アリアは補助具作成とかをしているはずだろ。なぜポーションを作るんだ?」
俺の様なポーション作成以外に手を伸ばしているプレイヤーはいない訳ではないが、オススメはされない。理由は単純だ。どのアイテムも中途半端になるからだ。
それを知って色々なスキルに手を伸ばしている俺はバカなんだろうけどな。
「最初は私もポーションを作る生産プレイヤーになろうとしたんです。けど、ポーション作りの難易度は他のものに比べて高いと知っていました。なので、私は諦めたんです。けど、ユホさんのポーションを見てこんなに凄い物を作れる人がいるんだと感激しまして、教わってみたいと思ったんです……」
たしかに自信を持ってポーションは作っているが、そこまで凄い物と言う訳ではない。
俺よりも効果は高いポーションを作るプレイヤーは多くいる。
「俺よりも良いポーションを作る人はいるだろ?」
「たしかにそうです。……けど、他の人は皆βテストから来ている人達です。そんな中でユホさんは正式サービスからのプレイヤーです。初心者にも関わらず、あんな効果の高いポーションを作れるユホさんは凄いです。ユホさんに教われば私も諦めてしまったポーション作り頑張れるかなって、思ったんです……理由…これだけでは不十分でしょうか?」
シンプルな理由だな。
ここまで慕ってくれる子を無下に扱うのもダメな気がするな。
「ちゃんと教えられるかは分からないけど、それでもいいなら教えるよ」
「ほんとですか!?」
「ユホそれ本当に言ってるの?生産職からしたら大事な商売道具をタダで売るようなものだよ?」
「そうですよユホさん!紹介したのは私ですけど、マロンさんの言うとおりだと私も思います」
別に俺は隠す気は無い。
良いポーションが出回るようになればポーションの質は全体的に高くなるはずだ。
それに、俺もタダで教えるほど無欲ではないのである。
「けど、俺からも条件が二つある」
「な、なんでしょうか」
高い報酬を請求されるとでも思われているのだろうか?
アリアは身構えている。
ま、何かを教えてくださいと頼んで条件があるなんて言われたら報酬を考えるか。
たしかに報酬はある意味高いであろう。
「一つ目は俺にも付与具の作成方法を教えて欲しい」
「二つ目はなんでしょうか……?」
一つ目のこの報酬だけでも相当な対価だ。
「二つ目は、俺と……いや俺達とギルドを作らないか?」
俺の本命はこっちだった。
エレナさんの言う条件を全てを満たしているわけではないが、職種としては被っていない。これだけでもアリアを誘うには十分な理由だ。
「条件と言っても絶対ではない。無理なら無理でタダで教えるよ」
俺のこの発言にマロンは、ナイスと親指を立て、ユーリンは驚いている。
マロンのナイスの意味はギルドに関してだろう。ユーリンが驚いているのは、俺の言った条件を断ってしまえば無償で生産者の命の技術を教えてもらえるのだから、当然だろう。
「両方呑ませてもらいます!」
アリアの返事は即答だった。
考える間もなくの返答だった。
「そんなすぐに決めていいのか?」
自分で言っといて戸惑ってしまう。
「はい!全然問題ありません!」
「自分の商売道具を売るんだぞ?いいのか」
「それはユホさんにも言えることですから。タダで教えてもらおうなんて最初から思ってません。二つ目に関しては、そろそろ私もギルドには入らなきゃと思ってたので嬉しい申し出です」
「それなら話は早いな。交渉成立だ」
俺はそっと手を差し出した。
「よろしくおねがいしますっ!」
俺の出した手を慌てて立ったアリアが両手で握り返す。
これで交渉は成立だ。運が良くてどちらかの条件を呑んでくれればと思っていたが、二つとも呑んでくれるとは予想外だった。
「ギルドについては今日でも大丈夫そうか?」
「はい!今すぐでも大丈夫です!」
「良かった。ならエレナさんを呼んで来てから話そう。ポーション作りを教えるのは今週の土日のどっちかでいいかな?」
「分かりました。詳しい事は後でいいですか?」
「そうだね。そうしよう」
今日は良い日だ。
ギルド設立の規定人数にも達し、俺個人としては新しい人脈と、新しい生産スキルを覚える事が出来る。
話もまとまり、少し雑談を交わした後ユーリンはルル達と約束があるとのことでアリアを残し店を後にした。
俺達はエレナさんが来るのを待つ間雑談をして時間を過ごした。
再開したばっかですが少しの間お休みを貰います。
詳しくは活動報告をご覧下さい。




