Second Life 32
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エレナさんの言い放った言葉を聞いて思考が停止し、固まっていた俺達三人の中で最初に硬直から戻ったのはハルアさんだった。
「いきなりどうしたのぉ?」
ハルアさんに問い質されるエレナさんはニヤニヤと活き活きしながら答えた。
「理由はいくつかあるけど、大きな理由は二つかな」
「二つですか?」
「まず一つ目は、予想はついてるだろうけどイベントが近いからってのがあるわ」
これは予想はついていた。
ここ最近でギルドの数は増えた。知り合いのパーティー同士でギルドを設立したり、イベントに向けて攻略を最前線で進める人達で組み設立する人達が多い。
このことに関しては、最初にエレナさんがギルドを作ろうと言った時には頭の隅に出てきた。
それに、つい最近美香さんに誘われたばっかりだ。
「二つ目はなに?」
マロンはイベントのために態々ギルドを作る意味はないとこの前言っていた。理由は、ギルド設立にはそれなりにお金が掛かるし、ギルドの所有地を買ってギルドの本部を作る必要がある。それに、ギルドを設立して初期にいたメンバーが他のギルドの勧誘を受け、ギルドをそのまま解散したり、ギルド長を押し付けたりする事が稀にあると言っていた。
こんななら、作らないでどっかのギルドにイベントの時にお世話になったり、パーティーでやった方がいいと言っていた。
それは俺も納得する所があった。
無駄にお金を使う必要はないし、何より生産職プレイヤーなら消費するお金はなるべく素材購入や、道具の新調などにお金は当てたい。
それに今俺は買いたいものもあるからなるべく節約しながらやっていきたいと思ってる。
「まぁ、こんな理由だとマロンやハルア、ユホ君ですら納得するとは思ってないよ。これを言ったのはあくまでイベントが近いから言っただけで、一番の理由は二つ目よ」
エレナさんは先程のニヤニヤとした表情ではなく、真剣な顔だ。
「私がこのメンバーでギルドを作りたいと思っている理由は、私達は生産職で、それぞれ違う分野に手を伸ばしているわ。なら、それぞれの得意な分野で互いを補助しながら素材の円滑な循環取引を私達だけでも出来るし、互いの生産職プレイヤーを繋げて更に幅広い取引も出来る。生産職同士が繋がれば欲しい情報も場合によっては攻略組よりも早く品質の高いものが手に入る可能性だってあるわ。だから私はこの関係を持っているこのメンバーでギルドを作りたいわ」
エレナさんの言ったことを頭の中で何度も反復させ、言いたい事を纏める。
エレナさんのギルドを作る理由にも十分なくらいだ。俺はこの理由があるなら是非作るのにも賛成だし、協力していきたいと思う。
けど、ギルドを作るにあたり、とても大事な問題をエレナさんはまだ言っていない。
それに気付いているハルアさんは言葉を発した。
「人数はいるの?」
そう、ギルドを作るのに絶対必須条件はギルド設立のための資金、ギルドの拠点となる場所、そして最低五人のプレイヤーが必要となる。
拠点となる場所は後で聞くとして、資金は恐らく三人はβテスターだから出し合えば余裕で足りるだろう。けど人数はどうだろうか。エレナさんは中々の頻度で会い、仲の良いこのメンバーでギルドを作りたいと言った。そのため見ず知らずの人を勧誘しての設立は論外だろう。しかし、もう一人いないとギルドは作れない。
これに対してのエレナさんの反応はと言うと……
「忘れてた!!」
これだ。
ハルアさんとマロンは薄々気付いてたらしく呆れている。今エレナさんの自白によって気付いた俺でも呆れるのは同然だろう。
設立理由は完璧すぎるくらいだ。
けど大事な人数を忘れるのはどうかと思う。
「どうするのぉ~?」
「エレナの思いは分かったし僕もこのメンバーなら仲良く出来てるしギルドを作るのに反対は無いけどさ、人の事は忘れちゃダメでしょ」
「それに、エレナさんの言っている事を全て受け入れると、もう一人友好的な関係の生産職プレイヤーが必要ですよね?俺正直言ってエレナさん達以外仲の良い生産職プレイヤー知りませんよ?」
「う………」
エレナさんは俺達三人の言葉に言葉を詰まらせた。
さらに、ハルアさんとマロンの攻撃は続いた。
「知り合いはいてもぉ~皆と仲良いかは別だしぃ、私の場合ジャンルが武器と防具の生産者の知り合いが殆どよぉ~?」
ハルアさんはいつもと変わらない口調だが確実にギルドに入れる人はいないと言っていた。
「僕の場合、癖が強い生産スキルだから同じような人は少ないし、それ以外の人はハルアとかの方が多いだろうね」
マロンもハルアさんと同じ意見。
確実に誘う人がいない事が判明した瞬間、エレナさんは砂のように散っていくような雰囲気を醸し出し始めた。
「ユホ君~誰か仲の良いリア友に生産職いない~?」
もうヤケクソのも思えるな。
さっきまでこの四人と接点があり、生産職でもジャンルの違うプレイヤーがって言っていたはずなのにもう意見が変わってしまったのだろうか?
「エレナさっきと言っている事変わってるわよぉ~」
「だって~」
エレナさんは下手な泣き真似をしながらハルアさんに抱きつきに行った。
ハルアさんはよしよしと頭を摩りながらこれからどうするかと切り出した。
「俺に生産職プレイヤーのリア友なんていませんよ。一人妹の友達が生産スキルをいくつか取ってるみたいですけど、確実に妹と同じパーティーで行動をともにしてるのでその子も無理ですし」
まだ諦めたくないとハルアさんから離れ、エレナさんは腕を組みながら唸りながら考え始めた。
それを始めた瞬間、ハルアさんとマロンは「はぁ」と溜息をつき席を離れ、隣の席へと座った。目だけで二人を追っていた俺にマロンが小さな声で「こっち」と手招きした。
「なぁ、なんで席離れたんだ?」
「エレナがあの状態になると当分あのままだから邪魔しないようにと思ってね」
ハルアさんはいつの間にか飲み物とお菓子を奥から持ってきてテーブルに置いた。
「まぁ、エレナが戻るまでお茶しよぉ~」
「そうですね」
「でもさ、あのまんまずっと放置って訳にもいかないよね」
「そうなんだよねぇ~。この後防具のための素材取引があるんだけどなぁ~」
「僕も当分このままなら素材取りに行きたいんだけどなー」
「俺は夕食前にやりたい事全て終わったからな。やりたい事もないな」
「ならなら~、新メニューのアイディアを一緒に考えてよぉ~」
「良いですよ」
「それ面白そう!僕も考える」
エレナさんが当分考え続けるとのことなので三人で新メニューの考えを出し、まとめた。
話し合いを30分程してから、休憩を入れ、ついでにエレナさんを見るとまださっきと同じ状態だった。
「今日長いなー」
「そうなのか?」
「いつもなら15分くらいで諦めるか、なんか案を出すんだけど今日は粘ってると。こんなことあんまりないよ」
俺はこの状態のエレナさんを見るのは初めてだからいつもは分からないが、βテスターの時からの知り合いのマロンが言うなら本当なのだろう。
「ねぇねぇ、取引ここでやってもいいかなぁ?」
「俺達に確認なんか取らなくてもいいですよハルアさん」
「そうだよ。ここはハルアのお店なんだからさ」
お店を借りてるのはこっちなのに、店主のハルアさんの言う事に反論するなんて出来るわけがない。
「分かったわぁ。今から呼ぶから、来たら隅行くねぇ」
そう言ってハルアさんは取引相手に連絡を入れていた。
「取引する人二人なんですか?」
「うん~。欲しい素材が二つあるんだけどぉ、元々取引をしようとしてた人が片方しか持って無くて~、そしたら紹介って事でもう片方の素材を持ってる子を紹介してくれたのぉ~」
ハルアさんは嬉しそうに語っている。
「それにそれに~、紹介してくれた子がとっっっても可愛いのぉ~」
嬉しそうにしてるのはこっちがあるからだろう。
こんな事を思うのはダメかもしれないけど、ハルアさんならありえそうだから怖い。
こんな事を頭の隅で思いながら、再開した新メニューの考案をしてる最中に店のドアがノックされた。この音にもエレナさんは気付く気配がない。
「は~い」と緩い感じでノックに答え、ドアを開けた。
「今日はよろしくねハルア」
「本日はよろしくお願いします!」
「よろしく~」
と、ハルアさんと取引相手である二つの女性の声が聞こえ、チラッと目線をそちらに向けた。
「……ユーリンに七恵さん?」
面識のある人達がドアの所にはいた。
次回は久しぶりの林檎ちゃんと、やっと登場させる事ができる七恵さんも加えた話です!!




