Second Life 28
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遅くなりました。申し訳ございません。
七恵さんと別れた後、俺は受付で許可証を貰い、唯姉に言われた階に向かった。
エレベーターから降りると、扉が等間隔で並んでいる階に出た。
俺が向かう先は、奥から二番目にある部屋だ。
扉には、『恋を呼びし魔女と僕ドラマCD収録』と書かれた張り紙が貼ってある。
今、この扉の向こうでは唯姉が出演した『恋を呼びし魔女と僕』のメインキャラクターの三人の魔女役の声優と、主人公である、良城蓮太郎の声優がドラマCDの収録をしているはずだ。
唯姉は、エレヴィと言う大人の雰囲気を纏った魔女役で出演している。
あまり、音を立てないようにゆっくりと扉を開ける。
「し、失礼しま~す」
緊張しながら入室すると、早々にこちらに一人の40代くらいの男性が声を掛けて来た。
「やぁ、雪穂君。久しぶり」
「お久しぶりです加藤さん」
声を掛けてきたのは、俺も面識のある人だ。
今回のドラマCDを収録にするに当たっての、総合担当の人だ。つまり、監督と言えばいいのだろうか。
「収録はどうですか?」
「それが、今始まったばかりなんだよ」
「そうなんですか?唯姉から聞いていた予定だと、1時間前には始まっている予定だと思うんですけど」
「その予定だったんだけど、出演予定の一人が遅刻しちゃってね、今さっき始まったばっかなんだよ」
加藤さんに言われて、収録している方を見ると、唯姉以外に女性が二人、男性が一人がマイクに向かって台本らしき物を見ながら喋っているのが見えた。
出演している人達は皆人気声優の人達だ。四人ともほぼ同期で、声優業界ではプライベートでもとても仲が良いと言う噂もある。
『恋を呼びし魔女と僕』は出演している声優の豪華さで注目を集めていたアニメだ。
アニメの人気は高く、アニメ放送終了後も人気の高さからドラマCDも今までで4本出している。今回で5本目となる。
「ファンの方達なら是非とも見たい光景ですよね」
「そうだね~。僕からしたら新人の時から見てきている四人だからね。見慣れた光景だよ」
「そんな事言えるのは加藤監督くらいですよ」
「そうか?雪穂君の方が四人の普段見れないとこを見たことがあるんじゃないのかな?」
四人が仲が良いのは噂ではなく、本当の事だ。
四人が売れる前は、数ヶ月に一度のペースで実家である我が家に連れて帰ってくる事も何度かあった。
四人で来ること自体はあまり多くなく、女性三人で来る事の方が多い。
三人の方が話も盛り上がるし、話せる事が多いかららしい。酔ったときの三人はとっても凄い。色々な意味で……
「知らない方が幸せな事もありますよ」
「高校生でその事に気付くとはな!」
ハッハッハッ!と笑う加藤さん。
完全に酔いに落ちた姿を見た側からすると笑えない話だ。
「久しぶりに加藤監督とも話せてよかったです。僕はもう帰りますね」
「もう帰っちゃうのかい?」
「はい。頼まれたのはお菓子を差入れる事だけですから」
「そんな事言わずに少し待ってるといいよ。もうすぐで一旦休憩を入れる予定だから、一緒に食べていくといい」
「いえ、迷惑は掛けられませんから」
「リューマルタのメロンパンご馳走するからさ」
「………ご馳走になります」
「それでこそ雪穂君だ!そこに座って待っててくれ」
「分かりました」
30分後収録は一旦休憩が入った。
「お疲れ~四人とも。雪穂君が差し入れ持ってきてくれたよ~」
「わぁ~ゆきの手作りだ!」
「ほんとだー。やった!」
「雪穂差し入れサンキューな」
「久地さんの好きな苺のタルト作ってきましたよ」
「おぉ!分かってるな雪穂は!」
久地 克汰さん。良城蓮太郎の声優だ。
初めて会ったときからフレンドリーに話しかけてきてくれて、今では仲の良い人だ。兄的立ち位置なのだろうけど、性格が少しまだ子供みたいで、友達感覚の方が強いかもしれない。
「私チーズタルトが食べたい~」
この人は、三人の魔女、レイナルア役の薬代灯さん。
灯さんは優花ととても仲が良く、家に来た時はゲームでよく対決していた。
「ありがとうねゆき」
この人は、三崎 美鈴さん。
俺からしたら、三人の中で唯姉と一番仲が良いのはこの人だ。よく、二人で来る時もある。
美鈴さんは、俺の作る料理やお菓子をとても美味しそうに食べてくれる良い人だ。
「いつ食っても本当に美味いな」
「そうですよね~。雪穂君パティシエになれるんじゃない?」
「僕の場合少し出来るだけで、プロの人と比べるなんて失礼ですから」
「ゆきは本当に謙虚」
「もっと自信持って良いのよゆきちゃん」
皆はこうやって言ってくれるが、プロを目指すのは流石に無理がある。
俺の場合は、友人や唯姉の知り合いに喜んでもらえる物を作れればそれだけで趣味でやってるにしても、達成感はあるし、美味いと言われると嬉しい。
「じゃあ、そろそろ僕は帰りますね」
「あ、待ってゆきちゃん」
「何?」
「明日の夜時間空いてる?」
「ごめん空いてない」
「何か用事でもあるの?」
「いや、夕飯を作らなきゃいけないし、夕食後はSLOにログインしなきゃいけないから時間がないんだ」
「もう!ゲームをまたやり始めたのはいいけど、やり過ぎはダメなんだよ?分かってる?」
唯姉は頬を膨らませながらこちらに迫ってくる。
「わ、分かってるけど……」
「明日の夕食は母さんがいるらしいから大丈夫。SLOの方も、そこまで遅くなる用事じゃないから問題なし!OK?」
「わ、わかった」
唯姉にこうやって迫られると断る事は出来ない。
まず、こんな感じで迫ってくる唯姉のお願いを断ると、絶対に昔の黒歴史を掘り返され、最悪その黒歴史が暴露される可能性がある。
もうあんな恥ずかしい思いはしたくない。
「じゃあ、後で時間と場所連絡するからね」
「う、うん」
「差し入れありがとうな雪穂」
「ゆきまたね~」
「雪穂君ご馳走様」
「はい。四人も仕事頑張って下さいね。加藤監督も頑張って下さい」
「あぁ、いつでも来てくれ」
皆に見送られながら俺はビルを後にした。
帰りに、食材を買って家に帰ると、見慣れない靴が二つ。
二つとも女の子物だ。
見慣れない靴で、女の子物って事は、恐らくあの二人だろう。
リビングの扉を開けると、予想通り、優花の友達であるミサちゃんと絵実ちゃんが来ていた。
「いらっしゃい二人とも」
「お邪魔してますお兄さん」
「お邪魔してます」
「おかえりお兄ちゃん」
三人は優花のために多めに作ったタルトを食べていた。
「ご馳走になってます!」
「とっても美味しいです」
二人ともとても美味しそうに食べてくれている。
元は唯姉に頼まれて作ったけど、結果的に「美味しい」と言ってくれると作った甲斐がある。
「お口にあったなら良かったよ」
さてと、夕食の準備をぼちぼち始めようかな。
今日使わない物は冷蔵庫に仕舞い込み、夕食のメニューを考えよう。
「う~ん……」
何も決まらないな。
こういう時は、優花に聞くのが一番だ。
「なぁ、優花今日何食べたい?」
「私はお兄ちゃんが作るならなんでも大丈夫だよ!」
聞いたのは俺だが、こう言う返事が一番困るな。
「ミサちゃんと、絵実ちゃんは何か食べたい物ある?」
「い、いえ私は泊めてもらう側ですから」
「そ、そうだよ優花」
「二人とも今日は泊まるの?」
「言ってなかったっけ?今日は二人ともお泊りだから!」
優花はいつもこうだ。何の前触れも無く大事な事を言う。
夕食の材料だってあまり多くは買ってきてない。四人分を父さんと母さんの分も作ると考えると、色々な物を作らないと絶対に足らない。
「それならどうしようか」
「パーティーしようよパーティー!」
「パーティーと言っても、今からケーキとかは作れないぞ?」
「もうデザートは十分堪能したよ!だからご飯さえあれば大丈夫だよ!二人ともそれでいい?」
「大丈夫なんですかお兄さん?」
「うん。二人がこれでいいなら問題ないよ」
「で、でも雪穂さんに全部任せるなんて」
「ならお兄さんのお手伝いしますよ!」
「そうですね」
「よしお兄ちゃん頑張ろう!!」
「「「優花は座ってろ(て)」」」
と、言う事で優花を除いた三人で夕食作りをすることになった。
「もうお兄ちゃんも、二人とも知らない!」
「そう怒るな優花。優花にはメニューの案を出してもらおうと思ってるんだ。重要な役目だぞ」
機嫌が悪くなっている優花を戻すために、ちゃっかりと役目を与えてやる。
正直言って優花はちょろい。
「メニュー考えるのも三人ですればいいでしょ」
今日はそう簡単にはいかなかったみたいだ。
こういう時は、二人にも手伝ってもらう方が早そうだ。
二人にはアイコンタクトで合図を送る。二人は、アイコンタクトの意図に気付き、軽く「うん」と頷いた。
「優花メニューを考えるのってとっても大事なんだよ?私達は作るので手一杯だからそこまで出来ないよ」
「そ、そうだよ優花ちゃん。優花ちゃんが言ったものを作る方がやる気も変わって来るんだよ。メニューを考えられるのは優花ちゃん以外に適任はいないよ」
「ほんと?」
優花は伺うようにこちらを見てくる。
俺達は何も言わずに、優花をじっとみた .
「………わかった」
(((よし!)))
俺達三人は絶望を回避した事に、心の中でガッツポーズをした。
「それじゃあ、優花何が食べたい?」
「唐揚げ!それとオムライスに、ハンバーグ、おでん、餃子、肉じゃが、ミートスパゲティ、ローストビーフに」
「ちょっと待て!」
「なに?」
「そんなに多くは無理だ。材料にも限りはあるし、食べ合わせが悪いだろう」
「えー」
「優花ちゃんもう少しジャンルを絞ってくれないかな?」
「例えばさ、スパゲティとローストビーフとか、肉じゃがと煮物とかジャンルを統一しないと。多くても二つにしなきゃ」
「じゃー」
長く考えた結果、優花が出したリクエストは唐揚げと、オムライスだった。
正直もう少し違う選択肢もあったんじゃないかと思っている。
でも、今さら却下なんて出来ないから、俺とミサちゃん、絵実ちゃんは苦笑いしながらも準備に取り掛かった。
調理している間優花は暇になりそうだったので、風呂を頼んどいた。優花は、料理こそ壊滅的だが、それ以外の家事はある程度出来る。風呂掃除などは気が済むまでやるので、時々掃除をやらせるととても綺麗になるので便利だ。
「よし、始めるか」
「そうですね。じゃあ私は唐揚げの下ごしらえをします」
「なら、私はお兄さんのお手伝いしようかな」
「ミサちゃんが唐揚げを担当してくれるなら俺と絵実ちゃんは必然的にオムライスか。個別で四つ作るか、それとも大きなのを一つで皆で取れるようにするかだけど、どうする?」
「優花ちゃんのことを考えると大きいほうがいいと思います」
「そうですね。その方がいいと思います」
「なら、大きいのを作ろうか」
「はい!」
料理は順調に進み、後は仕上げをするだけとなった。
二人とも料理の腕は相当なものだった。
絵実ちゃんは米を炒める事に関してはとても上手だった。ミサちゃんは鶏肉にしっかりと下味をつけられており、揚げるのもとても上手だった。
絵実ちゃんとミサちゃんが二人で作ったスープは絶妙な味加減で驚いた。
正直、俺は必要なかったくらいだ。
俺がしたことなんて、食材を切ったのと、これからするチキンライスにかけるたまごを作る事くらいだ。
「じゃあ、二人とも食器の準備してくれ。それで、どっちかは優花を呼んできてくれ」
「「わかりました」」
さ、俺の方も仕上げくらいはしっかりとしなきゃな。
「こんなもんかな」
優花も部屋からこちらに来て、皆揃った。
「よし食べるか!」
「美味しそう!!」
優花の反応は上場だ。
俺から見ても今回は上手く出来たと思っている。
「「「「いただきます!!」」」」
「お、美味しいよミサ!」
「こっちも美味しいよ絵実ちゃん!」
二人はお互いが作った物を食べ賞賛しあっている。優花は、いつものようにニコニコしながら口に料理を運んでいる。
「美味しく出来て良かった……」
「失敗してたらどうしようかと思いました」
二人は安堵の溜息をはいた。
「上手くできてよかったね」
「お兄さんがサポートしてくれたからですよ」
「雪穂さんありがとうございます」
「二人が上手だからだよ」
「褒めてもらえると嬉しいです」
「ありがとうございます」
「もう、二人ともお礼ばっかしてないで食べなよ。こんなに美味しいのに冷めちゃ損だよ」
「そうですね」
「食べようか」
今回のパーティーとは言えない食事は成功に終わった。
全て食べ終わり、食器を片付けて終わった後、順番に入浴し終わった後、俺達はSLOにログインした。
泊まりに持ってきているのは驚きだったが、今となると普通の事らしい。
俺はそのゲーマー精神に苦笑しながらも納得したのであった。




