Second Life 27
ミカンと俺の勝負の結果は俺の完全敗北だ。
お互いの最後の一撃が当たる直前にミカンのHPが回復した。おそらくミカンのスペシャルスキルの内の一つだろう。
あんな手を隠してるなんて完全に油断してた。
戦いを終え、早々に俺は落ち込む暇も無く、ミカンに元々いた部屋へと連れてこられた。
「今回は私の勝ちね」
ミカンはあまり大きくは無い、どちらかと言うと小さい胸を張りながらドヤ顔でこちらを見てきている。マロンはそんなミカンを見て苦笑している。
「まぁ、あんな奥の手を隠してるなんて誰も分からないよ」
「あれは反則だろ」
「私からしたらあんたのスペシャルスキルのほうが反則よ。いきなり剣が飛んでくるとか冗談じゃないわよ」
「それでもミカンは俺に勝ったんだ」
「そんなの当たり前でしょ?あんたは追い込まれるまで本気で来なかった。最初から本気でやってる私に勝てる訳無いでしょ」
ミカンの言っている事は言われてみれば当然の事だ。
実力がほぼ同じくらいの相手が本気できているのに、本気で相手をしなきゃ勝てるわけが無い。
「まぁ、私が言いたいことは分かったでしょ?」
「まぁな……」
「なら今日戦った意味があるわ」
「見てる僕も熱くなっちゃったよ」
「何落ち込んでるのよ?私の言いたいことが分かったならいつまでも落ち込んでないでよ」
「ごめん……」
「もう!辛気臭いのはやめましょ。狩行くわよ狩り!」
狩りに行く気満々のミカンをマロンが呼び止める。
「何よ?」
「悪いんだけど僕今からは無理なんだ」
「先に約束でもしてるの?」
「約束ではないよ。リアルの方で用事があるんだ」
「ならしょうがないわね。ユホ行きましょ」
「悪いミカン。俺もこれからリアルで用事があるんだ」
「何よ二人とも、リアルでも関係持ったの?」
「違うよミカン。僕はバイトが入ってて、そろそろ落ちないと間に合わないんだよ」
「俺はバイトじゃないけど、出掛ける用事があるんだ」
ミカンはジト目でこちらを疑うように見てくる。
それから、少しして息を吐き出した。
「まぁ、こんな都合よく家同士が近くのわけないわよね」
「普通に考えたらそうだろ」
「だよねー。ミカン変なこと言わないでよ」
「分かったわよ。さっさと行きなさい」
「そうするよ。またなミカン、マロン」
「またねー。って、言っても夜とかにはSLOで会うかもしれないけどね」
「そうね。じゃあね二人とも」
別れを言い、SLOを後にした俺はベットから起き上がり、キッチンへと向かった。
俺の用事と言うのは、近くに仕事に来ている唯姉に皆で食べられるお菓子を差し入れに頼まれたので持って行く予定だ。
今日持っていく予定のお菓子はレアチーズタルトと苺のタルトだ。
生地は昨晩に作ってあり、レアチーズも作り置きしといた。苺もカット済みだ。
後は生地を焼いて盛り付けをして冷蔵庫で冷やせば完成だ。
「このままだとちょっと遅れそうだな」
時計を見てみると思ってた時間に完成しそうに無い。
少しばかりSLOに居過ぎたな。
でも、仕事場についても始まるまで少し時間があるみたいだし、大丈夫だと思うが、個人的に時間には遅れたくないんだよな。
でも、間に合いそうにないし、今日はしょうがないか。
間に合わないのことに少し気を落としていると、階段を下りてくる音が聞こえた。
「良い香りがする~」
下りてきたのは当然と言えば当然だが優花だ。
焼いて終わったばかりでキッチンには香りが残っている。残り香にでもつられたのだろう。
「何作ってるの~?」
「唯姉に差し入れするレアチーズタルトと、苺のタルトだよ」
「お姉ちゃん良いなぁ~」
「ちゃんと優花の分も小さ目だが作ってあるから後で食べてくれ」
「分かった!」
完成するのを優花と共に話をしながら待ち、完成したタルトを軽く包装する。
持って行くからにはちょっとくらいは見た目には気を使わないといけない。
「じゃあ、もう行くからな。お昼は作って冷蔵庫に入れてあるから温めて食べてくれ」
「分かった。唯お姉ちゃんによろしくね」
「了解だ」
家から今回の目的地は歩き、バスで約50分程掛かる。
歩くのは家からバス停までと、あっちについてからの数分だけだ。だから、あまり疲れはしないけど、問題はバスだ。
バスは空いている時は空いているが、混雑している時は物凄い密集率だ。
それに、俺は乗り物酔いが激しいから密集していると辛いんだよな。
その事を考えると、今からでも家に引き返したくなる。
溜息を吐きながらも、バス停に着き、バスが来るのを待つ事数分、すぐにバスがやってきた。
「空いてて良かった……」
バスに乗ってみると、乗客は俺を合わせて5人しかしない。
安堵の溜息を吐きながら席に腰を下ろした。
「う……」
「大丈夫ですか……?」
バスに乗り、20分。俺は見事に酔いの前に瀕死の状態だった。
そんな俺を見て、前に座っていた女性が心配してくれたのだ。
「だ、大丈夫です」
「良かったらこれ飲んでください」
女性は鞄からスポーツドリンクを取り出し差し出してくれる。
「も、貰うなんて出来ないですよ……うっ」
「遠慮しないで下さい」
「だ、大丈夫ですので……」
「大丈夫そうじゃないので飲んでください。それに口はまだつけてないので安心してください」
こんなに心配してくれているのだから、この好意を断るのも悪い。
ここは素直に頂いておこう。
「じゃあ、いただきます」
「はい、どうぞ」
貰ったスポーツドリンクを飲み、少し楽になった所でもう一度お礼をしとこう。
「本当に助かりました」
女性はクス、と笑った。
「大丈夫そうで何よりです」
「ご心配お掛けしました」
「次からは気をつけてね」
「はい。本当に助かりました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。大した事はしてないですよ」
「でも助かったのは事実ですし、何かお礼を……」
「なら、ここに行きたいのですけど分かるなら簡単にで良いので教えてもらえませんか?」
女性が提示してきたのは俺のいく予定の目的地のビルだ。
「ここなら僕も向かう所ですから一緒についていきますよ」
「本当ですか!?」
「はい。こんなので御礼になるかはわからないですけど」
「十分ですよ。道がよくわからなくてどうしようか困ってたんですよ」
「なら、よかったです」
少し会話をしてると目的の近くのバス停にバスが着き、俺と女性は降りた。
「そう言えば、名前聞いて無かったですね。私の名前は、星杜 七恵って言います」
「僕の名前は、織咲雪穂って言います」
「雪穂君ね。よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします星杜さん」
「七恵で良いですよ」
「では、七恵さんって呼ばせてもらいますね」
「はい」
「じゃあ、向かいますか」
「そうですね」
ここからはあまり時間も掛けず、到着する事が出来た。
でも、一つ気になる事があった。なぜか、チラチラとこちらを見てくる人が何人かいた。
どうしてだろうか?
まぁ、今はそんな事気にしなくてもいいか。
「ここです」
「本当にありがとうね雪穂君」
「こちらこそ本当に助かりました七恵さん」
「じゃあ、また会う機会があったらね」
「はい。ご縁がありましたらその時はよろしくお願いします」
七恵さんを見送った後、俺も目的の場所に向かった。




