Second Life 8
ブクマ評価感謝です。
通常のゴブリンより3倍程大きいゴブリンは俺に向かって一直線に突っ込んでくる。
通常のゴブリンの大きさは120~160cm程だ。けど、今俺に向かって突っ込んでくるゴブリンは3mを越している。3mを越えていると今までのゴブリンとは圧力が全然違う。
地震のような地鳴りがして、気を緩めたら体勢を崩してしまいそうになるくらいだ。
巨大なゴブリンは体の大きさだけではなく、持っている棍棒も違う。
今まで倒してきたゴブリンは木のみで作られた棍棒だったが、今俺に突っ込んでくる巨大なゴブリンは素材は木だが、部分的に金属部があり今までのとは違って重量感がある。
「グゴアァァァァッッッッ!」
ゴブリンは俺との距離が5m程の所で急停止し、棍棒を振り下ろしてくる。
振り下ろしを後ろに飛び、なんとかかわす。
「こんなのありかよ……」
今の装備、ステータスじゃこいつには勝てない。
まず、ゴブリンと俺とのLv差は丁度20。
俺のLvが8でゴブリンのLvが28だ。
次にゴブリンの名前は、ゴブリンバース。
現時点でこいつに勝てない。
Lvが離れすぎている。少しくらいの差なら無理して突っ込んで攻撃をしていってダメージを蓄積していけば勝てる可能性がある。けどLvが20も離れていて、初期Lvのステータスが低い状態でこの戦法は使えない。一撃でもくらえばご臨終だろうな。運良く生きれても、すぐにやられてしまうだろうな。
次に装備的問題だ。
今俺の装備しているのは初期武器の《鉄の剣》だ。攻撃力が低いこの武器でバースに大きなダメージを与えられるとは思えない。与えられるとしても1か2程度。
そして最後に体格差だ。
先程も言ったが、ステータスが高ければ無理して突っ込んで攻撃は出来るが、ステータスが低すぎるため無理は出来ない。隙をついて懐に入り込もうとしても俺の攻撃の出来る間合いに詰め寄るまでにバースの攻撃が飛んできてしまうだろうな。
逃げるにしても歩幅の違いすぎてすぐに追いつかれてしまう。
つまり、この状況を簡潔に説明しよう。
……詰んだ、だ。
この言葉がこれほど相応しい状況は早々ない。
あれこれ考えていると、バースさんは次の攻撃をしようと向かってきていた。
「悪いけど簡単に殺される気はない!」
俺は全力でバースを背に走り出す。
バースは俺を潰そうと棍棒を振り払ったりして攻撃を挟みながら、俺を追ってくる。
バースは、攻撃をする時一瞬停止してから攻撃をしてくるため、今はギリギリ逃げれている状況だ。けど、ジワジワと距離が縮まっている。
「……諦めるか」
ゴブリンバースから逃げるのやめ、ゴブリンバースに向かい合う。
ゴブリンバースは停止した俺に棍棒を振り下ろす。
棍棒を横に飛びかわす。
「見られたらドンマイだぞ俺。行くぞ!天星の領域!」
俺を中心に円が広がる。
俺の視界には半透明のスターカンナが浮いている。
ゴブリンバースは何も気付かず、棍棒を振り下ろしてくる。
棍棒が振り下ろされる前に棍棒を持つ手へとスターカンナを飛ばす。
「ゴガァァ!」
棍棒を持つ手は横へと飛び、バースの巨体をも引っ張っていく。
ゴブリンバースは何本も木をなぎ倒して転がる。
ゴブリンバースが吹っ飛ばされて、体を起こすまでに装備を開き、エイルスを星域に加える。
エイルスはスターカンナと一緒に半透明となって俺の視界に現れる。
「覚悟しろよ。俺には優花の作る飯を回避すると言う大事な使命があるんだよ。お前なんかに構っている暇はないんだ。さっさと逝け」
エイルスを正面から飛ばし、スターカンナを背後から飛ばす。
バースは背後から狙われている事を知らずに、正面から飛んでくるエイルスをガードする体勢をとる。エイルスのスピードはガードがギリギリできるスピードで飛ばす。
エイルスはバースの太い腕に突き刺さり、バースを押し込む。
その瞬間背後から目に視認できないほどのスピードでスターカンナが突き刺さる。
「ざまぁ見やがれ」
ゴブリンバースはデータ片となって消え去っていく。
《天星の領域》を実際にモンスターに使ってみて再確認できた。
これは強力すぎる。Lvが離れているのにこの圧倒的な結果だ。
使えるのは控えていこう。
「急がなきゃな」
経験値がどのくらい貰えたかはとても気になるが、確認は夕食後だ。
それよりも今は優花が俺の代わりに夕食を作るのも阻止するために、一刻も早くログアウトしなければならない。
森の出口に向かって森を駆け抜ける。
右や左からとゴブリンが追ってきているが今は無視をして出口を目指す。
森を出て、ログアウトが出来る町の建物まで休まず走り続ける。
「ハァ…ハァ…やっとついた」
ゴブリンバースとの戦闘を終え、ここまで休まず走ってきたため呼吸が荒れており、顔を上げる事が出来ない。早くログアウトしないといけないの、休憩をしなければもう体が動く気がしない。
5分ほど石造りのベンチで休みを取り、ログアウトをした。
目を開けると、数時間前まで見ていた見慣れた自分の部屋の天井が視界に入ってくる。
「……疲れた」
初めてのプレイは楽しかったかが、こんな始めたばっかの状態であんなのと戦いたくなかった。
楽しさの反面、疲労感が一気に込み上げてきた。
このまま、ぼーとしていたいが、早く起き上がって夕食の準備をしなければいけない。
体をベットから起こし、階段を下り、リビングに入る。
リビングに入り、キッチンの方に視線を向ける。
キッチンには既に悪魔が降り立っていた。
ピンクの可愛らしいエプロンをしながら。
キッチンを見た瞬間体が自然に動き始めた。
「優花待て!俺が作る!」
「あっ、お兄ちゃん遅かったね。そんな焦らなくても怪我しないから大丈夫だよ。心配しないで」
「怪我の心配なんか一切してないから大丈夫だ。俺が心配しているのは料理だ。優花お前はソファにでも座っていてくれ」
「何その言い方。お兄ちゃんがすぐにくるって言ったのに、遅いから私が準備しようと思ったのに」
「その事は謝る。だから休んでいてくれ」
「なんで遅くなったか説明して。じゃなきゃ嫌だ」
「分かった。夕食の時に説明するから。だから俺に任せてくれ」
「……わかった」
優花は頬を膨らませながら渋々ソファに座る。
その事を確認して、ほっと安堵の溜息がこぼれる。
これで今日生死の境を彷徨うのは回避する事で出来た。これだけで今日は達成感に満ち溢れている。
優花の殺人兵器はこれだけ危険と言う事だ。普通の人が一口でも食べれば、永遠のトラウマとなる。これを美味しいと思える人間は存在しないだろうな。
出ている食材を見る限り優花が作ろうとしていたのは親子丼のようだ。
これなら普通に作れると思えるだろうが、それは普通の料理スキルの持ち主がやればの話だ。優花の料理スキルは常軌を逸脱している。
「親子丼なら残っても弁当に入れられるな」
優花は作ろうとするチョイスは悪くない。
なんども言うが、料理がしっかりと出来ればの話だが。
夕食のメインである親子丼を作り終え、優花の待つテーブルに親子丼を置く。
親子丼以外にも、小松菜の和え物にネギと油揚げの味噌汁を作った。
「わぁ、美味しそう」
「さ、食べるぞ」
「うん!」
◇◆◇◆◇◆
夕食も食べ終え、デザートのプリンを2人で食べながらなぜログアウトが遅くなったかを優花に説明している。
「ゴブリンバースはどうしたの?逃げてきたの?それとも死に戻り?」
「いや、どっちでもないな」
「じゃあ、どうなったの?」
「倒した」
「………またまた~お兄ちゃんは嘘が下手だな~」
なぜここで嘘をつかなければいけないのだ。
優花が「嘘だ」と言う言葉を待っているようにも見なくないが、嘘はついていないから「嘘だ」とは言えない。
「本当に言っているの?」
喋らない俺を見て、本当の事を言っていると理解したようだ。
「嘘つく意味がないだろ」
「普通嘘だと思うよ!ゴブリンバースはサービス初日で倒せるようなモンスターじゃないんだよ?あれは最低でもLvが15以上ないとろくにダメージが与えられないで、一撃でもくらったら即死するんだよ?そんなのにどうやって勝つの!?」
やっぱあいつは初期じゃ勝てない相手だったのか。
予想通り攻撃もくらったら即死だったか。まともに戦わなくて良かった。
「星月の姫のスキルを使ったんだよ。詳しい事は言えないけどな」
「本当だったんだね。星月の姫を手に入れたってこと」
「信じてなかったのか」
「どれだけ強力なのか気になるよ」
「詳しい事は教える気はない。それに今回使ったのも予定外だ。普段は使う気ない」
「なんでよ!気になるじゃん」
「もう詮索するな。さっさと食べろ。片付けられないだろ」
「ぶー」
優花は渋々といった感じでプリンを食べ終え、部屋に戻っていった。
俺も、食器を洗ってからすぐに部屋に戻った。
部屋に戻りベットに身を沈める。
そして、本日二度目のSLOの世界へと旅立った。




