Intent 25
ブクマ評価感謝です。
更新が遅れてしまい申し訳ございません。
壮絶な戦いが行われた決勝トーナメントの翌日の学校の日。俺は新たに誕生したIGO最強のプレイヤーである竜に祝福の言葉を掛けていた。
「優勝おめでとう」
「あぁ。今でも信じられないよ。俺が優勝なんて……」
「今回の優勝者はシャキッとしないな」
「だって……あのIGOで優勝なんだぞ……?それがどれだけ凄い事か分かってるのか?」
「それは十分に分かっているよ。勝利は絶対じゃないからな……本当に悔しいよ…」
「わ、わるい」
「いやいや気にするなって。負けたことなんて今まで何回もあるから。今回負けたのは俺の実力不足だからな」
「そうね。もう負けた話はしない事にしましょ」
「二人ともおはようございます」
「二人ともおはよう」
「おはよう。御坂は今日はいつもより早いんだな」
「今日くらいはいつもより早く来て岸原を祝福してあげようと思ってね」
「でも昨日も祝ってくれただろ」
「こうゆうのはね、仮想世界で言うのと現実で言うのは全然違うわ」
昨日は竜の優勝が決まって、皆で竜に祝福の言葉を掛けてから、大会の終了時間も遅かったためすぐにログアウトをした。話す時間が少なかったという事もあり、ゆっくりと祝えなかったから今日改めて祝っている。それに、御坂の言うとおり仮想世界で言われるのと現実で言われるのとでは違う嬉しさがあるのだ。
「岸原君、優勝した気分はどうですか?」
「う~ん、やっぱまだ信じられないな。嬉しいんだけど、実感が湧いてこないんだ」
「そんなのはすぐに湧いてくるぞ。少し経ったらな」
「そうですね。優勝したばっかの時は皆そんなものではないでしょうか」
「その言い方だと藍月はIGOで優勝した事があるの?」
「えぇ……何度か。言ってませんでしたっけ?」
「言ってないわよ!初めて聞いたわ。いつの話なの?」
「それは俺も聞きたいな」
「え、えーと、第二回と第五回ですけど……」
「「二、二回も!?」」
「漆原二人には言ってなかったのか?」
「ま、まぁ。話す機会も今までありませんでしたし」
「雪穂は漆原が優勝した事知ってたのか?」
「一応聞いたな。とゆうか、俺と漆原は仮想世界では中学のときからの知り合いだな」
「「え!?」」
「今まで隠してたみたいだけど、俺と漆原は昔パーティーを組んでいた時期があってな、初めて会ったのはβ版の時だったな」
「なんで今までそんなこと黙っていたんだよ」
「俺も最近知った事だからな」
「なんで、藍月も隠してたのよ」
「恥ずかしいじゃないですか。昔からガンガンのゲーマーだったなんて」
「そんな事気にしないでいいじゃない。ここにいるのは皆ゲーマーなんだから」
「すいません。これからは隠し事はなしにします」
「約束よ?」
「はい」
「二人の話も纏まった事だし、放課後の話でもするか」
「そうね」
「そうですね」
昨夜に、祝福と共に翌日に竜の優勝記念でどこかに行こうと話しになっていたのだ。
「俺は別にそこまではしてくれなくていいぞ」
「折角の優勝なんだから俺らの好意に甘えろよな」
「そうよ岸原。人からの好意は素直に受け取るものよ」
「私も岸原君の事を祝って上げたいです」
「そ、そっか?皆がそんな言うならその行為に甘えるよ」
竜は少しばかり照れくさそうに顔を赤らめる。
いつもなら絶対に見せない顔のだったから、少し珍しいものが見えただけでも竜を祝う事に意味がある。
「じゃあ近場の喫茶店でお祝いでもするか」
「そうしてくれると助かる。派手にやられても恥ずかしいからな」
「それじゃあ、また放課後に集まりましょう。二人ともちゃっかり帰ったりしないでよね?」
「気をつけてくださいね」
「「わかってるよ」」
話も早々に纏まり、御坂が夕崎に放課後に竜のお祝いをすると言うことだけを伝え、各自放課後まで自分達のすることをして過ごした。
各自で過ごすといっても、俺達は皆同じクラスな訳で、話さないわけではないが、クラスの俺、竜以外は御坂と漆原がゲームをやっていることは知らず、あまり多くの人に知られたくはないらしく、クラス内では出来る限り他の人に話を聞かれそうに無いとき以外は話す事は控えている。
けど、俺と竜は別に誰に聞かれようがなんともならないので、最近の休み時間はゲームの話ばっかりをしている。少し前までなら俺がゲームから離れていたため、竜は無理をして極力ゲームの話をしないようにしてくれていた。けど、今はそんなことを気にしなくてもよくなり、竜は度々今まで以上の楽しそうな笑顔を見せる。これが、IGOでの優勝に繋がったのではないかとも思えてしまう。
「林檎ちゃん遅いですね」
「もうすぐ来るだろ」
授業も終わり、今は夕崎を待っている最中だ。
「せんぱーい!」
「来たみたいだぞ」
髪を乱しながら、全力でこちらに向かって走ってくる夕崎の姿が見える。
こちらについた時には、「ハァ…ハァ…ハァ…」と息を切らせていた。
「そんなに急がなくてもよかったんだけどな林檎ちゃん」
「い、いえ。ただでさせ待たせているのに……更に待たせるなんて……ハァ…できませんよ」
「全然待ってないから大丈夫よ。それに、林檎の家の喫茶店で祝うんだから」
今日の事を御坂達が夕崎に伝えると、夕崎の実家が喫茶店を経営しているらしくそこで竜のお祝いをしてもいいと言ってくれたため、夕崎の実家の喫茶店でお祝いをすることが決定したのだ。
「私の家は、ここから徒歩十五分くらいのとこにあります」
「なら早速行きましょ」
「そうですね」
学校から雑談をしながら歩く事約十五分で、落ち着いた雰囲気の喫茶店に着いた。
「ここが林檎の家ね」
「落ち着いた外観ですね」
「あ、ありがとうございます」
「こんな所に喫茶店があるのも知らなかったな」
「ま、まぁ他の店のほうが雑誌などで取材されてますけど、私の家はそんなの来ませんからそんな知られていないんですよ」
「ご、ごめんな」
「いえいえ、気にしないでください先輩。逆に人があまりいないからリラックスが出来て良いって言ってくれるお客さんもいるんですよ。だから気にしないでください。さ、行きましょうか」
「そうですね」
「さっ、祝うわよ!」
「そうだな。雪穂もそんな所で立ってないで早く行こうぜ」
「………」
「「「「????」」」」
「どうしたんですか?」
「私の家じゃダメですか?」
「い、いやなんかじゃない。まさか……夕崎が…ここの娘なんて……」
「雪穂ここ知ってるのか?」
「逆に聞くが、なんでお前らはここを知らないんだよ」
「今まで気付かなかったからだけど」
「ここはな……低価格で最高のメロンパンを出す店なんだよ!」
「先輩知ってたんですね。折角驚かせようと思っていたんですけど。殆どのお客さんは知らないんですよ家のメロンパン」
「織咲、なんでそんな事知ってるのよ」
「常識だろ」
「今林檎の話聞いてなかったの?殆どの人は知らないのよ?」
「はぁ……そんなんだからダメなんだよ」
「意味分からないわよ!」
「二人とも喧嘩してないで早く行きましょう。今日は岸原君のお祝いで来たんですよ?」
「そうだったな」
「ごめんね岸原」
「気にしてないから大丈夫だ」
店に入ると、店に使われている木のほのかな香りがし、外観と同じく店内も落ち着いた雰囲気の内装をしている。お客さんは、夕崎の父親の気遣いで今日は閉店してくれて、一人もいない状態となっている。
「いい雰囲気ね」
「ありがとうございます。今お父さんとお母さん呼んできますね」
夕崎が父親と、母親を呼びに行ってから五分ほどで、やってきた。
俺らの前にやってきた夕崎の父親と母親は、二人とも優しい顔をしており、父親のほうは老けており、シワが顔中に見られるが、それでも優しさの中にカッコ良さをがある。
母親のほうは、シワなど一切無く、とてつもないくらいの美人だ。
「今日はよく来てくれたね。林檎が自分の趣味を共有できる友達が出来て本当に嬉しいよ」
「皆さんこれからも林檎と仲良くして上げてね」
「「「はい」」」
「今日は、お祝いと聞いたから、特別にケーキを作ったんだ。良かったら食べてくれ。それに今日は安くしとくから、ゆっくりしていってくれ」
「ご迷惑お掛けします」
「いいんだよ。折角のお祝い事だからね」
「ありがとうございます」
「じゃあ、飲み物もある事ですし、乾杯と行きますか」
「そうね」
「よければ、林檎ちゃんのお父さんとお母さんもどうですか?」
「私達関係ないのにいいの?」
「えぇ。お店を貸切にしてくれていますし、ぜひ一緒に」
「ならお言葉に甘えるわ」
「皆飲み物は行き渡ったかしら?」
司会は御坂が担当している。
俺達には各自リンゴジュースや、オレンジジュース、コーラなどのソフトドリンクが配られ、夕崎のお父さんとお母さんはなぜか、ワイングラスに白ワインを注いで持っている。
「待ってもらってもいいか?」
「何よ織咲」
「お前らは疑問が浮かばないのか?なんでこんな夕方からワイン飲もうとしているんですか?」
「そんなのもう仕事が無いからに決まってるじゃないか」
「仕事終わりのお酒は最高よ?大人になれば分かるわ」
「先輩気にしないでください。家の親はいつもこんな感じなので」
「そうよ織咲。気にしないのが楽しむ秘訣よ」
「すまん」
「じゃあ、仕切りなおしていくわよ!岸原の優勝を祝して……」
「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」
竜の優勝祝いが始まってから、既に一時間近くが経過した。
今俺の前には酔っ払っているクラスメイトが二人と、後輩が一人いる。ついでに、大人が二名。
「漆原これどうしたらいいと思う?」
「これは止めようがないですね」
今、俺の前で酔っ払っているのは漆原以外の全員。夕崎の父親がちゃっかり、ジュースと言いながら微量にアルコールを混ぜたものをちょくちょく出していたら、いつのまにかこんな状態になっていた。そんな父親に夕崎の母親はつい先程までお説教をしていた。夕崎の母親はほろ酔い程度で、顔を少しばかり赤らめている。
そんな、夕崎の母親は俺に近寄ってきて、肩に腕を掛けるくる。
「ねぇ……雪穂君。この中で本命は誰なの?」
「何のことですか……?」
「とぼけてもダメよ。誰を狙ってるのかしら?」
酔っているかなのか、大人の色気と言われるやつが、ぷんぷんと醸し出されている。
質問に答えず、沈黙をしていると、肩をグイッと引き寄せられる。
夕崎のお母さんの顔がすぐ近く来る。
「ねぇ……誰なの?それとも、あっちの方?」
「い、いえ俺は普通に女性が好きですよ」
「じゃあ、誰なのよ」
「御坂や夕崎は今まで関わりも少なかったですし、そういう目では見ていなかったと言うか……」
「あら残念。この中にはいないのね」
「すいません」
「いいのよ。その内見る目が変わるわ」
「は、はぁ…」
「もっと楽しんでね」
大人の色気を醸し出した夕崎の母親は次の絡むターゲットを御坂に決めたらしく、御坂の方へと一直線に向かっていく。
その入れ替わりで顔を赤らめている、夕崎がこちらに来た。
「大丈夫なのか夕崎」
「はぁぃ。だいじょうれすぅよ」
「これじゃあダメだな。夕崎少しそこで休むか?」
「だいじょうぶれすぅよ」
「良いからこっちで休むぞ。ほら、支えてやるから」
「はぃ」
夕崎に手を貸しながら近くのテーブルのイスに寝かせる。
「水でも持ってくるから少し待っててくれ」
「はひぃ」
氷水と自分の飲みかけの飲み物を持って、夕崎を寝かせているイスへと戻ってくる。
「ほら、水だ」
「ありがとうごじゃいます」
夕崎の寝ている体を起こすのを手伝い、水を渡す。
「おいひいです」
「夕崎の親はいつもこうなのか?」
「そうれふね」
いつもこんな感じなのに、夕崎はなんの警戒もせず、ジュースを飲んで、見事に酔っ払ったのか。
「しぇんぱい」
「ん?どうかしたのか?」
「おにゃがいがありましゅ」
「なんだって?」
「おーねーがーいーがーありゅんでしゅ」
呂律が回っていないため、聞き取りずらいが、ギリギリ聞き取れる。
「お願いか。なんだ?」
「ゆうしゃきじゃなくて、にゃまえでよんでくだしゃい」
「い、いきなりどうしたんだ?」
「にゃまえでよんでほしいんでしゅ」
「べ、別にいいけど」
「しゃっそくよんでください」
「り、りんご…?」
「ひゃい。きょんどからはりんごってよんでくだしゃいね」
「あぁ……わかった」
この後、すぐに林檎は寝てしまい、林檎が起きるまで待ち、皆の酔いも醒めたところで、竜の優勝祝いと題した、大人への小さな一歩を踏み出してしまった祝福会は終わりを告げた。
後日聞いた話では、酔いが醒めた後、林檎のお父さんはお母さんにこっぴどく改めて怒られたらしい。




