Intent 24
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ルルの勝ちで終わった俺とルルの勝負。
ルルに敗北した俺は、メインタワーの片隅に座っていた。今は、まだ決勝の真っ最中だ。残りはまだ八人程残っていて、その中にはルルとリュークがまだ残っていて、優勝を目指して戦っている。
だが、今俺はその戦いに対して興味が全くと言っていいほど湧いてこない。
ルルは俺との戦いで左手首を無くしているが、腕が半分以上残っていればルルには何の支障も無いだろう。それに、リュークを含めたルル以外の残りのプレイヤーは皆中距離から近距離戦闘の装備をしている。ルルは間合いを詰めて来るのを待っていれば勝てる。
この状況から考えて、ルルの勝ちは決まったようなものだ。
こんな分かりきった勝負よりも、完全に油断して負けた自分が情けなさすぎて、悔しさを隠し切れない。
「お姉ちゃん。完全に油断してたね」
「ユカか……」
ユカは、いつものような笑顔ではなく、少しばかり哀れな目をしてきている。
「前のお姉ちゃんなら、あんな結果にはならなかったと思うよ」
「あぁ……その通りだよ。完全に弾切れだと思って油断した」
「でも、あれは昔のお姉ちゃんじゃない限り誰でも勝てないと思うな。普通、弾補充が出来ない状況でただでさせ弾数の少ないスナイパーの弾を捨てるなんて出来ないもん。油断するのも分かるよ」
「でも……昔ならあそこで油断は……」
「もう諦めなよお姉ちゃん。今のお姉ちゃんはもう昔のようにはなれないんだよ」
ユカの言っている事はもっともだ。でも……分かっていても吹っ切る事ができない。
「お姉ちゃんはさ、このまま負けたままでいいの?」
「いいわけ……ないだろ…」
「なら、そんな落ち込んでいないでどうやったら勝てるか考えるのが先なんじゃないの?それにさ、ルルさんと勝負できるのはIGOだけじゃないんだよ。もうすぐSLOだってサービス開始なんだよ?悔しいなら何でもいいからまず勝ちにいきなよ」
「俺が負けたのは、狙撃手の意地を賭けた因縁の戦いなんだよ。他のゲームで勝ってもこの悔しさは勝たない限り拭い去れないんだよ」
「そうかな?これから永遠と勝っていけば良いんじゃないかな?しかもIGOの大会ははまだまだこれから続くだろうし、その時にリベンジすればいいじゃん!いつまでもそんなうじうじしてないでよ。昔みたいに負けたら次は勝つくらいの思いを示してよ」
「………」
「はぁ……結局のところお姉ちゃんはもう昔みたいにはなれなくて、今は負け犬なんだね」
俺が負け犬?
どこがだよ。負けて悔しいのは当たり前なのに、なんでこれだけで負け犬なんだよ……
ユカの言葉に対して、ムカついて、今にもキレそうなのに、言い返す言葉が上手く紡げない。
「俺は……」
「お姉ちゃんは強いんだから一回くらい負けたくらいでそんな落ち込まないで良いと思うよ私は。それにお姉ちゃんにはブランクもあったんだからさ、完全な状態、それ以上になってからもう一度真剣勝負をすればいいんじゃないかな?」
「そうか……もう一度戦えばいいのか……」
「そうですよ。待ってますから昔以上に強くなってからもう一回やりましょう」
「「えっ……」」
俺とユカの驚きを無視して、俺の座っている横長のイスに一間隔空けて座るルル。
「お前なんで……決勝はどうしたんだ?」
「今ここにいるって事は、一つしかないですよ?」
「お前が負けたのか?」
「それ以外理由はありませんよ。いやーリュークは強いですね」
「リュークに負けたのか。お前なら問題は無いと思ったんだけどな」
「FPSでの勝負は時に運も関わってきますからね。絶対なんて無いんですよ。それに、今回優勝できても心の底から喜べなかったと思います」
「理由を聞いてもいいか?」
「理由は、ユカちゃんが言った事と一緒ですよ。昔よりも弱いユキを倒してもユキに勝ったって気にはなれないんです。ユキにやった作戦は昔に一度使った事があったんですよ?その時は完全にかわされて負けたんですよ」
「ごめん。覚えてない」
「謝るなら、いつか昔のよりも強くなったときに私と戦ってください」
「そんなこと、俺のほうからお願いしたいくらいだよ」
「そうですか。なら約束ですよ?」
「あぁ約束だ」
「そろそろ私も話に混ざっていい?」
「あっ、ごめんなさい」
「もうスッキリしたから、大丈夫だ。また迷惑を掛けたなユカ」
「私はお兄ちゃんに色々とお世話になってるからこれくらいならいくらでも掛けてくれていいよ」
「助かるよ」
「じゃあそろそろ、ミカンさんの方へ行きますか?」
「そうだな」
「そうですね」
イスから立ち上がり、ミカン達の観戦しているテーブルへと向かう。
テーブルには、未だに生き残っているリューク以外のいつものメンバーが集まっており、リュークを応援していた。
「二人ともお疲れ様。残念だったわね」
「俺は早々にルルに負けたけどな」
「見てる方からしたら、今大会で一番興奮する戦いだったわよ」
「それなら良かったよ」
「私も見てて興奮しちゃいましたよ」
「ありがとうございます。頑張った甲斐があります」
「ユキお姉さん凄かったですよ」
「私にはあんな回避能力ありませんよ。そんな落ち込まないでください」
「安心してくれ、もう落ち込んでないから。それにいつまでもうじうじしてられないからな。SLOでは俺はトッププレイヤーになるからな」
「ユキ。あんたは現時点で十分IGOではトッププレイヤーよ」
「それは私も同感です」
「ルルもあれを見せられちゃうとトッププレイヤーとしか言えないわ」
「ありがたく受け取っときますね」
『ウォォォォォッッッッッーーーー!!!』
試合のほうを完全に見てなかったため、急な周りのプレイヤーの歓声に俺達は全員肩をぶるっと振る上がらせる。
試合の結果が映し出されている方を見ると、そこには右腕を高らかに上げているリュークが映し出されていた。
「あいつの優勝する瞬間見逃したな……」
「そうですね……」
「完全に忘れてたわ……」
「ごめんなさい。先輩」
この後、なんとも言えない空気で優勝者のリュークを祝った。




