Intent 2
昨日竜と約束した時間まで後一時間。俺は食器を片していた。
俺は食器を片してから、三十分前だが【IGO】にログインした。長い間やってなかったからアップデートはあったが、それは昨日のうちに終らせてある。早めにログインした理由はどのくらい感覚が鈍ってるかを確認するためだった。
ログインすると目の前には大きなビルが建ち並んでいる。
最後にセーブしたのはRPGで言う始まりの街クロード。俺はログインしてすぐに射撃訓練場へと向かった。
「あまり変わってないみたいだな……」
アップデートがあったといっても街自体は全然変わっていなかった。
最後に見た景色と全然変わらない。自分のもう一つの居場所だった世界。心残りを残して去った世界。
久しぶりの世界に戻ってきた俺は昔のことを思い出しながら歩く。一歩を噛み締めるように歩いているとすぐに射撃訓練場ついた。
訓練場につくとすぐに射撃レーンに入った。
俺は装備しているスナイパーを地面に寝ながら構える。的は距離にして約二キロ。
スコープを覗くと円が視界で四方八方に大きくなったり、小さくなったりと動く。視界に移ってる円は心拍数によって動くスピード、大きさが変わる。弾丸は円の範囲内で飛んでいく。
他にも、十字のターゲットが無造作に動くようなのも存在する。
ターゲットは銃によって変わってくる。だから自分にあったターゲットの武器で、自分のプレイスタイルに合った武器を選ばなければならない。【IGO】の難しい点でもある。
「ふぅ……」
昔のことを思い出すかのように心を落ち着かせていく。
………バンッ!
響きのいい音が鳴り響いた。弾丸はターゲットのど真ん中に命中している。
「問題はないな」
数年単位でやってなかったとは言え、元ゲーマーの感覚は忘れてないみたいだ。心の中で「ほっ」と息を吐く。
俺はこの後確認のために十分程射撃を続けた。
これで感覚は大体取り戻せたと思う。時間を確認すると約束の時間の十分前。俺は装備を仕舞い約束の場所に向かう。
約束している場所はクロードの中でも最も大きな建物前。行ってみるともうそこには竜と思われる五人組がいた。
「待たせた」
「いや俺達も今来たとこだ」
竜のプレイヤーネームはリューク。
御坂はミカン、漆原はルル、島原はシクルド、夕崎はユーリンとなっている。
「あ、あのこの女性は誰なんですかリュークさん」
夕崎は俺だと分からないらしい。
それも当然と言えば当然。なぜなら俺のアバターは女性アバターだからだ。肩に掛かるか掛からないくらいの長さの白髪が特徴的なアバターとなっている。
本来ネカマなど出来ないようになっているのだが俺の顔は女性より、中性みたな感じになっている。最初始めた時は驚いたが、機械の自動補正が掛かったと分かりなんどもやり直したが男性アバターになることはなかった。だから諦めて見た目は女性アバターでプレイしていた。
「俺は雪穂だよ」
「「「「え?」」」」
やっぱ皆驚きのようだ。見た目だけではなく声も少し高くなっているから男だといってもすぐには信じられない。
「本当に雪穂君なの!?」
「おい、ミカンリアルネームを出すな」
御坂は「あっ!」と口を塞ぐ。
「本当にユキ君なんだね」
俺の名前は安易に名前の頭文字を取っただけとなっている。
「まぁ見た目は女性アバターだから信じられないのも分かるぞ」
「可愛らしい顔立ちだと思ってましたけど機械にも女性と認識されるなんて凄いですねユキちゃん」
黒歴史……この顔立ちのせいでなんど女装をさせられたことか。最近では少しは羞恥心を捨てることができるようになってきたけど。
「でもこのアバターを見るのも最後だけどな」
「今はその話はやめないか?折角の楽しいゲームなんだぜ?」
「それもそうか…」
「ユキ、フレンドにだけなっとこうぜ」
竜とのフレンド登録を済ませると丁度ゾロゾロ集団が近づいてくる。
「あいつらか……」
「あぁ……」
竜だけではなく皆が一気に緊張をした顔になる。
集団が俺らの前で止まると先頭にいたやつが話を始める。
「助っ人はそこの可愛い子ちゃんか?」
こんなダル絡みはもう慣れている。
俺は笑顔を作り少女を演じる。
「そうですよ。宜しくお願いしますね」
俺はお辞儀をする。
「礼儀がなってるじゃねーか、そいつも条件に追加しな」
突然の条件追加に竜は反論をする。
「それは無理だ。最初に決めてないから」
俺は竜の言葉を途中で遮る。
「いいですよ。分かりました。けどこちらも一ついいですか?」
竜が小声で焦るように心配してくる。
「いいのか?」
俺は「大丈夫」とだけ答えた。
「その条件はなんだ?」
「おじさん達の全財産を下さい」
男達は一瞬だけ驚きながらも落ち着いて答えた。
「いいぜこれで勝負始めるぞ。モードはデスマッチだ」
デスマッチは一度死んだら復活はできない。どちらかが全滅するまで続くゲームモード。
「リュークいいのかこれで?」
「あぁもちろんだ」
「開始は十分後だ」
俺達は作戦を立てている。
俺には関係のないことだけど。
「作戦には参加しないがお前達の武器だけ教えてもらっていいか?」
「俺はアサルトライフルとハンドガンだ。」
「私はサブマシンガンを2つよ」
「私はスナイパーとオートハンドガンです」
「俺はアサルトだけで機動力重視にしている」
「私はミカンさんと同じです」
アサルトが二人に、サブマシンガン二人、スナイパーが一人か、テンプレ通りのいいPT構成だ。
「武器LVはどのくらいだ?」
【IGO】にはプレイヤーのレベルだけじゃなく、スキルレベル、武器レベルとある。
武器レベルはキルしたり、ダメージを与えることによって経験値が貯まりレベルが上がっていく。武器レベルが上がると弾道補正が掛かる。レベルが高くなるにつれて補正がよく掛かっていく。
武器レベルは最大で100だが、40からいきなり経験値量が増え、レベルが上がりずらくなってる。
「皆今言った武器は50前後だ」
そこまで育てているということは相当努力したのだろう。これでアカウントを消しますなんて出来るわけがない。
「ユキの装備はどうなってるんだ?」
「スナイパーのサイレント」
「「「「「…………」」」」」
皆固まった。こうなることは予想していた。【IGO】でのサイレンとは不人気No.1アタッチメント。理由は銃の火力が半分以下になり絶対に撃ち合いに勝てないからだ。スナイパーともなれば二発を上半身に当てて殺せればラッキーと言われるほどに銃の火力を下げる。
「おい!お前」
島原は俺に文句があるみたいだ。当然だろう。あんな意気込んで使う武器が撃ち合いに絶対に勝てない武器なのだから。
だが俺は島村の言葉を遮る。
「文句は言わせないぞ。俺は単独で動くとも言ったしな、俺の装備を聞かずに頼んだのはそっちだ」
島村は怒りを押さえ込みながら黙り込む。
俺は竜達から離れてフィールドに転移されるまで待つことにした。
俺の視界の上にはカウントダウンが始まっている。
後一分もしないでバトルフィールドに転移される。
「この感覚久しぶりだな……」
集中力を高めるために目を瞑り時間が来るのを待つ。
ふわったとした感覚が訪れる。これはフィールドに転移される感覚だ。
この感覚も懐かしいな……
目を開けると目の前には廃ビルが建ち並んでいる。マップを確認すると今いる場所はマップの中心、周りはごつごつとした岩山に囲まれている。
「じゃあ俺は単独で動くぞ」
俺は竜達に手を振り、今居る場所を後にした。
島原以外は心配するような目で雪穂を見送り、島原は睨みつけるように後姿を見ていた。