Intent 17
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「まさか、あんたが女神だったなんてね……」
「す、すごいです……」
昔の話を終え、目の前にあるカップにの紅茶を啜っている。
元々俺の事を知っていた竜は平然とした顔でいる。漆原もいつもと変わらない笑顔でいるが、「凄いですね」とだけ感想を述べる。御坂と夕崎は何かぶつぶつと呟いている。
「俺の黒歴史を話したのは、万が一俺の事を未だに覚えているプレイヤーが居た時何も知らないフリをして貰いたいんだ。ついでに庇ってくれると嬉しいんだが」
「そんな事なら言わなくても分かってるから安心しろ」
「わ、わかりました」
「任せてください」
「そんなことならそんな真剣な顔しなくてもいいのに」
「そんなだと……?甘く見るなよ御坂。黒歴史を自白するだけでも恥ずかしいんだぞ?それを蒸し返される辛さなんて考えただけでも恥ずかしさで死にそうになる」
俺は黒歴史を自白した辛さと、昔の事を思い出させられる辛さを分からない御坂に詰め寄る。
「わ、わかったわ。だからそんな必死にならないでよ」
「分かったならいいんだ」
「まぁ、雪穂は女装してた時誘拐された事あるしな」
「「「え………」」」
漆原、夕崎、御坂の「え………」に対して俺こそがその言葉を言いたい。
竜は俺にとって最も辛く、女装を避ける理由となった事をさらっと言いやがった。
「お譲ちゃん可愛いね。おじさんと一緒に来てくれるかい?」
俺に対して優しい笑顔を向けてくる少し細身の男性。この人は俺が男と言うのを分かっておらず、この言葉を発して直に俺は連れ去られた。
俺をさらったこのおっさんは、ロリコンだったらしく、まだ中学になったばかりの俺を見掛けて、欲求が抑えられずさらうに到ったらしい。その時女装をしていた俺も悪いのだが、誘拐されるなんて思ってもいなかった訳で、これを境に俺は女装は極力避けてきた。とゆうか、まず俺は自分からしたことはない。無理矢理着せられたことしかない。
一番知られたくない黒歴史をさり気なく暴露され、恥ずかしさで顔を手で覆っている俺を見ながら竜は最初「あっ」とか言いながら今は爆笑している。
漆原、夕崎、御坂は信じられないらしく声を発せずにいる。声は発せずにいるが、手で顔を隠して入るが、顔を見なくても分かってしまう、俺に向けられている哀れみの視線を向けているのが。
恥ずかしさを押し殺し、俺は立ち上がり、竜に静かに近づき、竜の前で止まった。
「なぁ……言い残すことはあるか?」
「お、おい落ち着けよ雪穂。口が滑っただけだ」
「その滑って出てきた言葉が悪すぎなんだよ!」
俺は抑えきれない恥ずかしさと、怒りを竜に対してぶつける。弁解の言葉を発する暇を与えず、文句を言い放ち続ける。
俺の、文句の嵐を止めたのは、漆原、夕崎、御坂達ではなく、スマホの着信音だった。
スマホの着信がきた事により、竜への文句の嵐を中断し、一度深呼吸をしてから、電話に出る。電話の相手は丁度イベントに行っている優花からだった。
優花の周りからは賑やかな声が聞こえる。イベントの真っ最中なのだろう。
「何か用か?」
『うん!お兄ちゃん落ち着いて聞いてね!?』
「落ち着くのはお前の方だろ。何があったんだ」
『あのねっ、Second Life Onlineの正式プレイが来月から開始されることが決定したの!』
「そっか」
『あれ?素っ気ないねお兄ちゃん。もっと驚くかと思ったんだけど』
「いや、驚いていない訳じゃないんだけどな。なんてゆうか、そろそろ始まるって噂もあったし」
『なら家に帰ったらもっと詳しく説明した上げるよ』
「そうか。頼んだぞ。遅くはなるなよ」
『は~い』
電話越しに優花の嬉しさに溢れた声を聞き終え、竜への文句の嵐のを再開しようとする。
「それでだ、文句の続きなんだがな―――」
「ちょっと待ってよ雪穂。今のは優花ちゃんからの電話だよな?それなら【SLO】のことだよな?」
優花と竜は昔はそんな話すわけでも無かったが、優花がゲームを始め、俺や竜と同じゲーマーになったことからよく話すようになり、【SLO】のβテスト中にはよく情報交換をしていたのを覚えている。今でも時々電話で話しているのを聞くことがある。
「そうだけど、俺がお前に文句を垂れるのを中断させられてる意味が分からないんだが」
「待って。それは私も話を詳しく聞きたいわ」
「私も聞きたいです」
「私もです」
「な?皆聞きたいんだよ。ここにいるのは【SLO】を体験してきた奴らだからな」
漆原を除いてだろうな。そんな漆原も【SLO】には興味があるらしく、話を聞きたそうにしているため、しょうがなく文句を垂れるのを止める。
「なんか正式プレイが始まるらしいぞ」
「「「「……………」」」」
正式プレイの開始がこんなにも衝撃なのか。昔なら俺もこんな反応をしていたのかもしれないが、こいつらのような感覚は今では薄れすぎていてついていけそうに無い。
「ほ、本当なのか雪穂?今のこと」
「らしいぞ。 急だとは思うが来月って言ってたな」
「よし!今すぐ予約しに行くぞ!」
「ちょっと待て。漆原達もいるんだぞ?」
「何言ってるのよ!今すぐ行くに決まってるじゃない!」
「私も行きたいです!」
「私も待ち望んでいましたし、今すぐに行きたいです」
え……想像以上にこいつら脳内がゲームの事でいっぱいだ。竜は分かっていたが、女性陣三人までもが竜と同等のゲーム脳だとは思っていなかった。
だが、こいつらは興奮のしすぎで気にも留めていないのだろうけど、確実に抽選販売だ。
「なぁ、急いでも意味無いんじゃないのか?どうせ抽選販売なんだし」
「それがどうしたんだよ!それでも予約しにいくのには変わりないだろ」
もう止められないみたいだ。竜以外の三人も同じような感じだ。
プルルルル……プルルルル……
突然、さっきと同じ着信音が流れる。
電話の相手はまた優花だ。
『あ、お兄ちゃん?おのさ、イベントに来ている人限定で一人三つまで予約出来るんだけど竜輝さんいるか聞いてもらえる?お兄ちゃんのもちゃんと予約しとくからね』
「本当か!?助かる」
これを伝えれば竜はは止まってくれる。
「竜、優花がお前のまでは予約してくれたみたいだぞ」
「本当か!?やったぜ!」
「竜の分も頼んだ」
『分かった。じゃあまた後でね』
「待ってくれ。あのさ、後三つどうにかならないか?」
さすがに、この状況で竜と俺のだけが絶対に手に入り、他の三人が手に入らない可能性があるのは可哀想過ぎる。聞くだけでも聞いてみた方がいいと思う。俺の命のためにも……他三名が怖すぎるからな。
『なんで?』
「今クラスの奴らといるんだけどな、そいつら全員βテスターだったらしんだよ。だから手に入るなら頼みたいんだよ」
『本当にお兄ちゃんは優しいな~。将来結婚する人が羨ましいよ。……あっ!私と結婚してくれてもいいんだよ!?』
「バカな事言ってないで、どうなんだよ」
『ごめんごめん。用意できるよ。私ミサちゃん達とと運良くイベント抽選当選できてこれてるから頼んでみるよ。ちょっと待っててね』
このミサって子は優花の学校のクラスメイトらしく、同じゲーマー仲間らしい。度々家に来る事がある。優花とは違って大人しい子だ。
「あぁ助かるよ」
数十秒後携帯からは優花の声が聞こえる。
『二人ともしてくれるっよ。でも一つ条件があるんだけどいい?』
「条件?なんでもってわけじゃないけど、俺ができる事ならなんでもするぞ」
『お兄ちゃん特製のメロンパンが食べたいらしいです!』
「そんなことか?別に構わないぞ。作るのは明日で大丈夫か?」
『うん。大丈夫みたい』
「そっか。なら明日取りに来るように伝えてくれ。後ありがとうって伝えてくれ」
『伝えておくよ。じゃあね』
「あぁ」
優花との通話を切り、御坂達を見ると、こちらをガン見している。
「予約しといてくれるみたいだぞ」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」
「本当にありがとう!」
「ありがとうございます」
「お礼は俺にじゃなくて優花達に言ってくれ」
「優花って、織咲の妹さん?」
「そうだぞ」
「なら明日メロンパン買ってからお礼言いに行くわ」
「私もです」
「私もそうさせていただきます」
「そうか。わかたっよ」
「なぁ、一つ提案なんだがいいか?」
「ん?どうしたんだ」
「今月の末に、第9回大会が行われる予定だ。その大会皆で出てみないか?【SLO】が始まれば当分の間【IGO】にはログインはしないと思う。だから記念で皆で出ないか?」
「別にいいが、勝つのは俺だぞ?」
「何言ってるのよ。私よ」
「私も頑張ります」
「雪穂君とはやってみたかったんですよね」
「決まりだな」
「だな」
この後、テンションが上がった漆原を含めた四名は【IGO】と、これから始まる予定の【SLO】について一時間以上語っていた。
もちろん。俺も混ざった。




