Intent 15
ブクマ評価感謝です。
βテストも残り一週間週間となり、制作会社の方からもβテスト終了の三日前から大会を開くことが通達された。大会への参加は強制ではないが、正式プレイが始まったら絶対に手に入らない武器を優勝賞品にすとの通達もあり、初期にスナイパーを選んでしまった者達も参加はする者が多いらしい。
大会の形式は、大会参加者を三グループに分け、その中で各グループごとに優勝者を出すという感じだ。この大会での今後一切手に入らない予定の武器は、正式プレイが始まった時の引継ぎが出来る唯一の物だ。だから、どんなに優勝の確率が低くとも手に入れたいと言う訳だ。貰える武器は一つで、アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパー、ショットガンの四種の中から選ぶ。俺の狙いはもちろんスナイパーだ。公開情報で見た限り、性能がずば抜けていた。『弾道補正』、『照準安定』、撃ってから数秒以内でもう一度撃つと威力が上がる『連続射撃』、弾道予測線の表示を遅らせる『不可視の弾丸』などが武器スキルとして付いていた。これは四種類の中では圧倒的に良いスキルだった。
このスナイパーを手に入れるためにやるのなんて後は、軽くLvを上げることと、スナイパーの照準を今よりも少しでも早く合わせられるようにするくらいだ。今のままでも多分問題は無いが、今現在俺と同じくらい有名になっている奴が同じグループに居なければ余裕で優勝は狙える。
βテスト中の【IGO】で今有名な人物は何人かいるが、その中でも有名な人物が三人いる。
一人目は俺だ。なんで有名なのかって言うと、この女の子アバターで男だと言うのも面倒なので女のフリを、いわゆるネカマをしながらおっさん達の相手や、アイテムの卸をしていたら【IGO】の女神などと言われる様になっており、有名人物入りを果たしてしまった。
二人目も俺だ。面倒なおっさん達を片っ端から暗殺を繰り返していたら、手配書まで貼られるレベルで恨まれる存在へとなってしまった。名前はバレていないが、変装時の顔を偶々見られてしまい、今まで俺が殺してきた男達に情報が回ってしまった。
三人目は俺と同じスナイパーを使う少女だ。一度しか見たことはないが俺と同じか同等以上の射撃をする人物。名前はアウル。射撃をする時とてつもないくらい冷たい目をする。そしてその後はうっとりとした目をする。このアウルって人は俺と同じく、敵を撃ちぬくのが好きなんだと思う。だから照準を合わせるときは冷たい目をするし、それが着弾して敵を倒せればそ快感にうっとりとするのだろう。この情報からアウルと言う少女は、現実での外面的は優しい人だが、本性はドSだと思う。とゆうか絶対そうだと思う。なんか見た目がそんな感じだもん。これを進化させたら多分、女王様と言う存在が誕生するだろう。
アウルについては思うことは色々あるが、実力は本物だ。こいつと同じグループだと優勝を逃す可能性だってある。勝負をしてみたいとも思うが、今回ばかりは戦いたいとは思わない。そんなことより、正式プレイが始まった時にスタートダッシュを掛けれるようにしとく方が大事だ。
「あ、あのー」
「ん?」
声がする方を向くと、少し長めの黒髪が目立つ少女がおどおどしていた。
今の声はこの子から発せられたものだろう。
俺はこの子をよく知っている。会うのは初めてだが、よく知っている少女だ。
「私に何か御用ですか?アウラさん」
「えっ……」
「何驚いてるの?貴女を知らない人は少ないと思いますけど?」
「そ、そうですか……ユキさんにまで知られてるとは思いませんでした」
「逆になんで貴女は私のことを知っているかが不思議ですよ」
「いやいや。そんな謙遜しないでくださいよ。ユキさんも男性陣からは人気なんですよ?知らないんですか?」
もちろんそんな事は知っている。何度ナンパされたか分からないからな。その度に何度おっさんやら、チャラ男を撃ち抜いた事か分からない。この二ヶ月ちょいで百人以上のホモ野郎に出会っているぞ。
「そ、そうなんですか……知らなかったですよ。それよりも何か用があって私に声を掛けてくれたんですよね?」
「あっ、そうでした。すいません」
「いえいえ大丈夫ですよ。それでどんな御用でしょうか?」
「私と一緒に無影の少年を探して欲しいんです」
「………」
「どうしたんですか?凄い汗ですよ?」
無影の少年……俺の事だ。誰がこんな恥ずかしい名前を付けたのやら分からないが、この名前は恥ずかしすぎるだろ……
名前の由来は、まず俺がおっさん達に仕返しをする時に出来るだけ見た目を男にしたこと。誰がそれをやったのか殆ど情報が無いことから付いたと酒場でおっさん達に絡まれたときに聞いた。
無影の少年を探して欲しい?無理だろ。だって今貴女の目の前にいるのが無影の少年なんだもん。
アウラに言われたとおり、今の俺は物凄い量の汗を掻いている。どーやって話を逸らし、この話を終結に導けるかを全力で思考している。そして、なぜアウラが俺を探しているのかと言う理由を考えているため、凄い量の汗を掻いている。
「な、なんで無影の少年を探しているの?」
「依頼されたからです」
「だ、誰に?」
「無影の少年にやられた人達からです」
……俺こんな恨まれてたのね。知らなかったよ。
「そ、そうなんだー」
自然に発する言葉が棒になってしまう。
「なんでアウラはその人達の依頼を受けたの?」
「それは、天狗になっているであろう無影の少年を撃ち抜いたら気持ち良さそうじゃないですか!」
「へ、へぇー」
アウラはにっこりしている。その表情を簡単に言い表すのなら、死神とでも言えばいいのだろうか。とてつもないくらいどす黒い笑顔をしている。
めちゃめちゃ怖い。大嫌いなホラーを見ているかのような感覚だ。
「嘘ですよ……ただ単純に私が戦ってみたいからですよ」
「え?」
今のどす黒い笑顔が嘘だと?冗談じゃない。嘘であんな顔を見せないで貰いたい。
「あっ、でも撃ち抜いたら気持ち良さそうってのは本当ですよ」
はい。分かってましたよ。分かってますからその怖い笑顔を俺に振りまかないで下さい。お願いします。
「なんで私に協力を求めてきたのか理由を聞いてもいいですか?」
「それは、今まで大勢の人が関わってきたのにも関わらず一度しか顔を見れてない人物を、一人で探すなんて無理だと思うからです」
「それなら諦めてもいいんじゃないかな?私は出来るだけ関わりたいとは思わないの」
「そうですか。無理に誘って申し訳ございませんでした。でも諦める気はありませんよ」
「それなら、応援くらいはしますね。頑張って下さい」
「ありがとうございます。時間を取らせてしまってすいませんでした。私はこれで失礼させて頂きますね」
「うん。じゃあね」
アウラはおっとりとした感じを振りまきながら去っていく。
手を振ってくるアウラに手を振り返しながら見送る。その途中で急に止まって、こちらを向いてアウラは最後にこう言い放った。
「大会、同じグループなので宜しくお願いしますね」
この日、この瞬間天使の顔をした悪魔と戦うことが判明した。




