Intent 14
投稿が随分と遅くなってしまいました。申し訳ございません。
ブクマ評価感謝します。
【IGO】のβプレイが始まり二週間ほどでプレイヤーのLvに差が開き始めた。なぜこんな短期間でLVが離れたかというと、初期に選んだ武器が原因だ。手堅くアサルトライフルやサブマシンガンを選んだプレイヤーは順調にLvを上げていくことができたが、スナイパーを選んだプレイヤーは初期のLvから殆どLvを上げることが出来なかった。武器を変えればいいのでは?となると思うが、β版の【IGO】では正式プレイよりも金が手に入らず、中々武器を変えることが出来なかった。こんなことがあって、【IGO】の武器ランキングでスナイパーは最下位に陥ったのだ。そして、スナイパーを使うプレイヤーは全体の一割にも満たなくなった。
こんな状況でも物好きなのか、スナイパーに執着があったのか分からないがスナイパーを使い続けるプレイヤーはいた。その一人が俺だった。
今俺は酒場のような場所にいるのだが、帰ろうとしたタイミングでおっさんに絡まれてしまった。正直言って暴言吐いて逃走もありなのだが、βプレイはまだ始まったばっかなわけで、友好関係は広げておきたいと思っている。なのでおっさんの話に付き合っているのだが、これで四人目だぞ?それに皆同じ話ばっかしてくるのでいやになってきている。
「穣ちゃんまだスナイパー使い続けてるのか?」
「まぁね。正式プレイが始まって不人気のスナイパーで上位に食い込めたらカッコいいでしょ?」
この言葉も今日だけで四回も言っている。せめて違う話題をしてほしいものだ。俺のアバターが【IGO】では珍しい女性アバターってのは分かるが、毎日毎日ナンパばかりされて正直言ってうんざりしている。男が男からナンパなんかされて嬉しい訳がない。俺からしたら皆ホモとしか思えない。
そして、四人目のおっさんの話も十五分程経過した。なんで毎日毎日来る日も来る日もおっさんと一時間近く話さなきゃいけないんだよ……
「あ、あの私もう落ちる時間なのでお話はここまででいいですか?」
「すまんな。もうそんな時間か。無駄に話しに付き合ってもらっちゃってすまんな」
そんな事を言うなら最初から話なんて掛けてくるなよな。
おっさんを睨んでやりたい気持ちを抑えて、笑顔を貼り付ける。
「いえいえ大丈夫ですよ。おじさんもゲームのやり過ぎは注意ですよ?」
「お、おう。気を付けるよ」
なぜかデレているおっさんを俺を無視して、ログアウトをするふりをして近くのポータルへと移動をする。
今日話しかけてきたおっさん達は皆気付かなかったようだが、ログアウトする時は頭から消えていき、ポータブル移動などの時は、足から消えていく。これに気付いているプレイヤーはまだβプレイが始まったばかりのため殆どいない。まぁ、そのお陰でナンパをしてくるおっさん達を撒く事ができるのだから感謝はしている。
おっさんから分かれてから、移動した場所から少し移動した場所にはフリーフィールドの入り口がありそこからフィールドへと入ると、少し高い場所にある岩場に登りスナイパーを構える。
「おー、いたいた」
スコープ越しには昨日、酒場で無駄にダル絡みをしてきた三人の姿が見える。
昨日の予定がこの三人のせいで狂ってしまったため、復讐の意味での狙撃をするつもりでいる。
β版のプレイはたったの三ヶ月しかなく、最終日にはテストを兼ねた、大会が行われる予定となっている。そのためにレベルを上げたかったのに邪魔をされたのだ。たった三ヶ月を無駄に過ごしたくはないのに馬鹿の一つ覚えのようにナンパをしてくるおっさん達に呆れない方が可笑しいだろ?これはもう復讐以外でうっぷんは晴らせないよな。
男達には今俺のいる岩場の近くでアイテムの取引をしようと伝えてあるため、すぐに居場所が分かった。
油断しているのだろうか。武器をしまったまま移動をしている。フリーフィールドで武器仕舞うとか所詮まだ初心者って感じだな。
男達を心の中で小ばかにしながら射程圏内に入るのを集中しながら待つ。スコープの照準は、三つの三角形が小さくなったり、大きくなりながら、度々交じり合う。この三つの三角形が綺麗に揃った時に引き金を引けばシステム上では命中するのだ。でも、この照準は、唯でさえ難しいスナイパーの中でも、上位に入るくらい難しい照準だ。なんでそんなの使っているんだって言われると、金がない!からだ。
金がなく、いい武器が買えなくとも弱いわけではない。ただ使いづらいだけだ。使いづらいなら慣れればそれは強くなるってことだ。
「ふぅ……ふぅ………しねい!」
照準がピッタリと合わさった瞬間引き金を引く。銃弾は後ろにいる重武装っぽい男に直撃する。着弾した男はパラパラとダメージエフェクトのデータ片が上空に消えながら消え去っていく。
うん。【IGO】を始めてから、不意打ちで狙った奴を倒して、この光景を見るのが止められない。にやにやが止まらない。俺はこのためだけにスナイパーを使っていると言っても過言ではない。
「二手に分かれたか」
男達は焦ってはいるようだが、状況を何とか理解して、二手に分かれながら狙撃が合った俺の場所を目指して走ってくる。男達がとった行動ははずれではないが、俺の今いる場所からは移動しているのがバレバレだし、中央から回りこめてしまう。もう少しフィールドの把握をした方がいいと思う。まぁ、そんなこと言う気は無いけど。
「一人はここから対応して、もう一人は回り込めばいいかな」
やることを決めて、動きの遅い右側の男に照準を合わせる。慎重になってるのかは分からないが、たらたら歩きすぎだろ。
バンッ!
響きのいい音がなり、たらたらと歩いている男に一直線に向かっていき、男の顔を吹き飛ばす。
いい感じにグロ映像が完成したな。威力の高いスナイパーでプレイヤーの顔を撃つと、吹き飛んでいってしまう。俺は、FPSなんかやっているが、グロいものはあまり得意ではなく、VRMMOで血が噴出し、肉片なんかが飛び散った日には、毎回吐いてしまうだろう。だから、データ片で良かったと思っている。
吹っ飛んだ男を気にも留めず、走って回ってきている男を見ると、全速力でこちらへ向かってきている。男の位置を確認してから、今いる岩場を降り、堂々と真ん中を突っ切り男を後ろから追い駆ける。男はすぐ後ろにいる俺に気付かず俺のいた場所を目指している。
男の後ろを取れたのはいいが、これからどうしたらいいものだろうか?考えるのを忘れてたよ。今俺の持っている武器スナイパーとハンドガンだけだよ?スナイパーはこんな走りながら撃てるような物ではないし、ハンドガンも今の俺と男の距離では勝てるわけが無い。このまま追い駆けて近づいてから倒すのもありだが、バレる確率が高すぎる。馬鹿すぎるよ俺……ここまではカッコ良く決まってたのにさ。誰も見てないけども。自己満足だとしても最後までカッコ良くきめて終わりにしたい。
ここ数ヶ月で一番今頭を使っている。どうやったら、できるだけ安全にカッコ良く決められるかを。
「考えろ……早くしなきゃもういないことがバレる……」
もう一分もしないで元々俺のいた岩場に男が辿り着いてしまう。
「くそっ……一か八かやってみるしかないか」
男の事を追い駆けるのを止め、急いでスナイパーを寝そべりながら構える。
呼吸が荒れていて、狙いが定まらないが、無理矢理落ち着かせる。その間にも男との距離はどんどん離れていく。そのせいで、焦りが出ているのか照準が全く合わない。
「くっそっ…はぁ…はぁ…」
バンッ!
先程と同じように響きの良い銃声が荒野に鳴り響く。
銃弾は綺麗に飛んでいくが、引き金を引いた瞬間に分かった。男に銃弾は飛んでいくように見えるが、ギリギリこの銃弾は外れる。
後ろかの銃声にこちらに体を向けた男の顔を銃弾が掠めていき、後ろの岩にめり込む。
「ラストチャンスッ!」
外したことに焦りながらも、もう一度照準を合わせる。これを外したら距離的にもう逃げることも出来ず、一方的に撃たれて終わってしまう。さっきのように照準は荒れているが、徐々に落ち着いていくように思える。めちゃめちゃ焦ってはいるが、考えてみればまだこれはβテストだ。これでこの襲撃が俺とバレれば正式プレイの時に見た目を出来るだけ変えれば良い。今までバレなかったのは《偽装》でプレイヤー名の一時的な偽装、《偽装》スキルの拡張能力である《変装》を使っていたからだ。それがここでやられればバレてしまう。まぁ、まず正式プレイが始まるまで俺のことを覚えているなんて確率的には低すぎる。だからこそ、開き直ることができている。
いつもよりは興奮していてまだいつものようにはいかないが、これなら半々くらいの確率で当たる。ぶっちゃけもう運に頼るしかない。運に任せるのもゲームの醍醐味だしな。開き直ってしまえば楽なものだな。
三つの大小になる三角形の照準が合わさった瞬間二度目の射撃をする。
銃弾はこちらに銃を構えていた男の腹部に直撃した。けどギリギリ削りきれていない。でもそんなのは想定内のことだ。三つの照準が乱れなおす前に三度目の射撃に移る。初期装備のスナイパーは射撃後数秒は照準が撃ったときのまま固定される。それを利用して次の射撃を開始する。男への二度目の射撃はもう一度男の腹部へ着弾する。男はさっきの男と同じようにデータ片となって消えていく。
「か、かてた……」




