夜から夜明けまで 第九十九話
わたしは、眠りから目覚める。
おそらく、4時間近くの時間を夢の中で過ごしたであろう感覚があった。
目が覚めたわたしは、飛行船の中にただならぬ緊張感が満ちていることを感じる。
わたしは、操縦席の後ろに立つとキャプテン・ドラゴンに問いかけた。
「一体、どうしたというの」
「シュヴァルベに見つかったようだ」
キャプテン・ドラゴンはいつものように、甘い口調で返す。
わたしは、眉間に皺をよせた。
「シュヴァルベ(ツバメ)ですって? それがどうしたって、いうのよ」
キャプテン・ドラゴンは、わたしのほうを見ると恋人に投げるような甘い笑みを見せる。
「シュヴァルベ、つまりメッサーシュミット Me262だ。ニューヨークを警備している連中がおれたちに気がついたらしい」
わたしは、息をのむ。
レーダーには、感知されなかったはずだ。
では、地上から目視されたということなのだろうか。
「運が悪かったんでしょうね」
ヤンが、少し投げやりな口調で言った。
「高度は下げてましたが、まだ地上から目視できる距離じゃない。何かの偶然で、巡回飛行中のシュヴァルベに行き当たったんですよ」
背後から、百鬼が声をかけてくる。
「上昇して、やりすごすか?」
キャプテン・ドラゴンは、首をふる。
「もう時間が無い。降下をやめると日没に間に合わない。このまま、降下は続ける」
わたしは、唸る。
「じゃあ、どうするのよ」
「残念ながら、シュヴァルベの30ミリ機関砲はおれたちの船が持つ装甲を貫くだろうな」
気楽な口調で、キャプテン・ドラゴンは言う。
「ニューヨーク・プリズンは目の前だ。あんたらは、高度5千まで下ったらそのまま降下しろ」
わたしは、目を丸くした。
「それじゃあ、わたしたちも撃ち落とされるんじゃあないの」
ヤンは、肩を竦めた。
「不幸中の幸いというか、シュヴァルベは一機だけです。なんとか、刺し違えてみますよ」
レーダーを見ながら、ヤンが言葉を重ねる。
「多分、向こうはこちらをまだ完全に確認できていないと思います」
「どういうこと?」
わたしの問いに、ヤンが答える。
「多分、レーダーに映らない飛行船を理解できていないのでしょうね。極秘任務を遂行中の、新兵器と考えているかもしれない。戦闘速度で接近しているわけではありませんので」
百鬼は、落ち着いた声で言った。
「いいだろう。おれたちは、予定どおり高度5千でニューヨーク・プリズンへ突入する」
キャプテン・ドラゴンは、パーティーを楽しむような笑顔を見せて言った。
「まあ、所詮はシュヴァルベだ。一線を退いたロートル戦闘機だからな。なんとかするさ」
本当なの、と言いたかったがわたしは言葉をのみこむ。
ロートルといっても、ジェット・エンジンを装備している戦闘機なはずだ。
排気タービンの空輸用飛行船で、なんとかなる相手ではないと思う。
わたしのこころの中に、フレイニールが語りかけてくる。
(心配するな、アルケミアの魔道師よ。我が風を操る)
キャプテン・ドラゴンは、ウィンクをよこしてきた。
「な、相棒もああ言ってるし、心配するな」
どうやら、キャプテン・ドラゴンはフレイニールとこころを通わせているようだ。
わたしは、頷くことにする。
「いいわ、まかせた」




