夜明けから夜まで 第九十七話
操縦席の前にある窓から見える空は、次第に青さを増してゆく。
真冬の湖が持つ深みがあり少し灰色がかった青が、窓の外に見えた。
白い塊となった雲が、窓の向こうを時折飛びすぎていく。
エンジン音はもはや悲鳴となっており、船は分解するのではないかと思われるほど揺さぶられる。
おそらく、乱気流を貫いて上昇していってるのだろう。
ふと、わたしは不思議な感覚に捕らわれる。
それは懐かしいような、夢の記憶を思わせる奇妙な感覚であった。
そんなわたしの想いに関係なく、飛行船は急上昇をしていく。
唐突にその急激な上昇は、終わりを告げた。
エンジンは、変わらず轟音をあげてはいるがその調子は穏やかなものに変わる。
船は揺さぶられる感じではなく、水上をいく船の揺れと同じレベルの穏やかさになった。
ヤンが、声をあげる。
「高度8000、上昇を終了します」
キャプテン・ドラゴンは頷くと指示を出す。
「主翼を水平に戻し、1時の方向へ面舵をとれ。進路を北北東へ」
「主翼を戻し、一時の方向へ面舵」
まだ高速で航行しているため、揺れもエンジンの叫びも続いてはいたが概ね落ち着きつつある。
わたしたちのほうを向いて、キャプテン・ドラゴンは言った。
「このまま偏西風を捕まえて、風に乗って東に向かう。風に乗れば160ノットくらいで巡航できる」
青い目の若者は、夢見るように呟く。
「5時間程度の航海になるだろう。到着は16時の予定だ」
百鬼は、頷いた。
「ありがたい、礼を言う」
キャプテン・ドラゴンは、肩を竦めた。
「そいつは、到着するまでとっておくことだ。まだ何があるかは、判らない」
百鬼は、頷く。
窓の外は、凄みのある青となっておりおそらくかなり寒いはずだ。
しかし、この船室は空調装置がついているらしく、温度は地上とそう変わらない。
ここはおそらく成層圏の底より少し下ったあたりで、対流圏の上端より少し下ったところだ。
大気はとても穏やかなように、思える。
眼下には真綿の海を思わせる雲が広がっていた。
ヤンとキャプテン・ドラゴンは進路を偏西風に合わせて調整しながら、東に船を向かわせていく。
わたしはそれを眺めながら、自分自身の想いに沈んでいった。
さっきの、奇妙な感覚がなんであったかを探る。
わたしは、こころの中で驚きの声をあげた。
この船は、何かに憑依されている。
そして憑依している存在は、どうやら竜族のようだ。
竜族の精霊は、わたしのこころに直接語りかけてきた。
(驚いたな、こんなところでアルケミアの魔道師に会うとはな)




