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星よりきたりしもの  作者: ヒルナギ


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夜明けから夜まで 第九十六話

ハッチから入った飛行船の中は、洞窟の暗さに満たされている。

ヤンがスイッチをいれ、照明がついたが夕暮れの薄闇より尚暗い。

伽藍堂の船室は、荷室のようではあるが一応簡易ベンチが付けられているため乗客が座ることもできる。

何もいわず、百鬼はそのベンチに刀を抱え込んで座った。

荷室と操縦席の間には特に仕切りはなく、船首方向に四つの搭乗員席があるのが見える。

ヤンは、操縦桿がある先頭の席に座ると機器のスイッチを入れ忙しくチェックをはじめた。

計器パネルに灯が灯り、薄闇の中で星の輝きを放つ。

その後ろで散歩するひとのような気楽さでつっ立っているキャプテン・ドラゴンは、物憂げな口調で言った。

「おれは、何をすればいい?」

地鳴りのような音が響き、エンジンが起動したらしいことが判る。

機器の操作で忙しそうなヤンは、面倒くさそうに言った。

「何もしなくていいですけど、コパイロット・シートに座ったらどうですか」

「そうだな」

無造作に腰をおろしたキャプテン・ドラゴンを、ヤンは横目でちらりと見る。

「言っときますが、機関士もレーダー監視員もいない。わたしひとりで、150ノットで巡航っていう無茶な航海するんですから覚悟を決めてくださいね」

「大丈夫だ、問題ない」

キャプテン・ドラゴンは、爽やかな笑みを浮かべた。

「こちらには、夜の眷属がついてる」

ヤンは、少し呆れた顔をした。

「どう考えても、疫病神の仲間でしょ、それは」

「まあ、そうだな」

「ちょっと」

わたしの声は無視され、キャプテン・ドラゴンは穏やかな笑みを浮かべて言った。

「しかし、おれたちだって似たもんだ。おれたちの守護神に、ぴったりじゃあないか」

ヤンは、うんざりした顔で楽しげに笑うキャプテン・ドラゴンを見る。

「まあ、そうですね」

キャプテン・ドラゴンは真顔に戻ると、指示を出した。

「エンベロープ・バルブ、オープン」

ヤンは、復唱し機器を操作する。

「エンベロープ・バルブを開きます」

「バロネット放出、浮力90パーセントで停止」

「バロネット、放出します」

船が少し、揺らぐ。

浮き上がったようだが、まだ完全に浮上するところまでは、いかない。

キャプテン・ドラゴンは、さらに指示を出す。

「両舷、微速前進、ヨーソロー」

「両舷、微速前進します。ヨーソロー」

ヤンが復唱するとともに、エンジン音が轟音まで高まる。

ごとりと船が、前に進み出すのを感じた。

操縦席の前にある窓が、光に満たされる。

その向こうに、ミシシッピの水面が輝いているのが、見えた。

高まってゆくエンジン音に負けないよう、キャプテン・ドラゴンが叫ぶ。

「前部バロネット放出、主翼仰角40度。両舷全速、前進、ヨーソロー」

「前部バロネット放出します」

船が、がくりと傾き船首が上を向く。

エンジン音が、絶叫へと高まる。

ヤンも、叫ぶように言った。

「仰角40度。エンジン出力全開、両舷全速、前進します。ヨーソロー」

がくんと、船が揺れる。

今度は本格的に、空中へ浮揚した感覚があった。

鳴り響くエンジンの轟音に負けないよう、ヤンが叫んだ。

「降着装置、収納します!」

百鬼がわたしの後ろで、怒鳴る。

「あぶないぞ、嬢ちゃん。座っておけ」

せせら笑うつもりで百鬼を振り向こうとしたわたしは、思わずよろめく。

飛行船は、巨人がひっつかんで投げ飛ばしたように加速し、上昇した。

飛行船の、加速ではない。

おそらく、急上昇する飛行機よりも激しい。

前方の窓から、青く輝く空が見えた。

わたしは、百鬼の忠告にしたがって座る。

船は激しく揺れ、エンジンは轟音を響かせていた。

キャプテン・ドラゴンが叫ぶ。

「高度8000まで、上昇する」

「高度8000まで、上昇を続けます」

わたしは肩を巨人に抑え付けられるようなダウンフォースを、感じていた。

飛行船は、青い空へ堕ちていくように上昇する。


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