夜明けから夜まで 第八十三話
直列6気筒7リッターのエンジンが野獣の唸りをあげ、巨大なホイールが回転し土煙を上げる。
金属でできた漆黒の獣は、獲物を見つけた猟犬の勢いで走り出した。
陽の光を浴びて気分がすぐれないわたしは、左右を飛び去ってゆく景色には一瞥もくれずただ目的地に着くのを目を閉じて待つ。
チャンドラは225馬力の鋼鉄でできた心臓に悲鳴をあげさせながら、限界を超えた速度でメルセデスを駆る。
彼は、鋼鉄の獣を自身の手足がごとくに操り、郊外の教会から街までをほんの僅かな時間で移動した。
「着きましたよ」
チャンドラは、そっけない口調でわたしに言った。
わたしはそれには答えず、ナビゲータシートに身を沈めたままだ。
まだ、昼というには少しばかりはやい時間である。
明るい陽光の下に引きずり出された夜の怪物である漆黒のメルセデスは、どこか苛立たしそうにアイドリング音を響かせていた。
驚くほど、人通りはすくない。
昼間の街を歩いたことはなかったので、普段からこんなものであるかはわたしには判らない。
ただ、わたしたちがふり撒いている真昼に出現した妖怪の不吉さに、街のひとびとが近づかなかったというのはあるだろう。
わたしは押さえようとしても、瘴気が街の中へと流れ出ていくのを止めることができない。
わたしは気配を絶つような余裕が、全く無かった。
わたしは自分の意識を、街の隅々まで染み渡らせていく。
夜であれば造作もない作業であったが、昼間に行うと精神を集中させることにもの凄くエネルギーを使う。
それでもわたしの探索は、静かな水面を揺らす波紋となり街の隅々まで広がっていった。
ようやく、わたしはその異物をみつける。
反応が定かではない、ひとでも獣でもない得体の知れぬ存在に気がついた。
その反応はとても微弱なものであったため、位置を特定するのにとても苦労する。
昼間では出力が限られる魔力をふり絞り、ようやくそれの位置を見いだす。
わたしは何も言わずに、前を指差した。
チャンドラは、今度はゆっくりとメルセデスを走らせる。
わたしたちは裏路地を通り抜け、スラムのような街外れへとたどり着いた。
最終的にわたしが指差したその酒場は、廃屋のようにも見えたがどうやら店を営業しているようだ。




