夜明けから夜まで 第八十二話
チャンドラは浅黒い肌に精悍な顔立ちをしているが、わたしを見たとたん呆れたように眉を顰める。
額に彫られた銀色の三日月型をした刺青が、眉間によった皺で少し歪む。
「ブラッドローズ、なぜこんな真昼に起きてくるのですか?」
わたしが答えを返さず、夜明けの輝きを宿した金色の瞳で見つめていると、チャンドラは諦めたように服を取りに引き返す。
チャンドラはかつてひととの戦いで片足と片腕を失いそれらは義足と義手になっているはずだが、そんなことを感じさせない滑らかな動作でわたしのドレスをとって戻ってくる。
チャンドラはその星無き夜の闇を切り抜いた漆黒のドレスを手際よくわたしに着せると、困ったような声で問いを発した。
「一体、どういう気まぐれですか、ブラッドローズ。まだ夜が明けて間もないというのに」
わたしは、口を歪めて言う。
「時間が無いの。車の用意をして」
チャンドラは、今度は驚きを隠さなかった。
「冗談じゃない。陽の光を浴びてしまうとあなたの力は、半減する。銃弾を何発も浴びれば死にますよ?」
わたしは、チャンドラの言葉を鼻で笑い飛ばし何も答えなかった。
チャンドラは、仕方なくガレージへと向かう。
わたしは傍らにあるフード付きマントを羽織って、瓦礫が転がる廃墟となった教会の中を出口へ向かって歩く。
正面玄関の、扉を開いた。
残酷な天使の剣となった日光が、マントで身を守るわたしの身体へと襲いかかる。
遮光性の高いマントで身を被っているとはいえ、日光は真冬の風がひとの力を奪うのと同じように、わたしの身体から魔力を奪っていく。
力の無い若いヴァンパイアであれば、その場で倒れたであろう。
しかし、中世ヨーロッパで幾度もの虐殺を繰り返し数百年に渡ってひとの精気を蓄え続けたこのわたしならば、たかが数時間陽の光を浴びたところでどうということはない。
陽の光を浴び少し不機嫌な顔になったわたしの前に、チャンドラが運転するメルセデス・SSKが漆黒の獣が持つ獰猛さを纏って姿を現す。
メルセデスは、野獣が唸る声でエンジンをアイドリングさせていた。
わたしは、ツーシータのナビゲータシートへ滑り込む。
ハンドルを握ったチャンドラは、少し凶悪な笑みを浮かべて言った。
「どういうおつもりか判りませんが、さっさと用事を終わらせましょう。どこへ行きます?」
わたしは、少し考えて答えた。
「ではウェスト・メンフィスの街へ」
チャンドラは、片方の眉をあげて問いを重ねる。
「昼間から街ですか。どこに行くのです?」
「どこでもいい、ひとの集まりそうな盛り場へ」
チャンドラの目が、つり上がった。
「誰かを、お探しですか?」
わたしは、多少不機嫌に答える。
「そうだ」
「誰をです?」
わたしは、苛立ちをのせた瞳でチャンドラを見る。
「知らない、行けば判る」
流石に、言葉を失いチャンドラは何か言おうとしたが、わたしの飢えた獣の眼差しに押されるようにメルセデスのギアを入れアクセルを踏み込む。




