夜明けから夜まで 第八十一話
重くのしかかる闇を押しのけるように、わたしは眠りから抜け出す。
目覚めは、雷撃となってわたしの意識を真っ白に照らした。
わたしは、彗星となって夜の闇となった眠りを切り裂き、覚醒を得る。
目を開くと、そこは闇の中であった。
わたしは、重くて頑丈な棺桶の蓋を押しのけると身を起こす。
夜の眷属でありヴァンパイアと呼ばれる種族であるわたしは、慣例に従って昼間は棺桶で眠る。
わたしは立ち上がり、高い所にある天窓から差し込む微かな光に身を晒した。
夜の闇を凝縮させた漆黒の肌が、闇の中で薄く光る。
夜明けの太陽が持つ黄金の輝きを宿した髪が、闇の中でふわりと舞った。
わたしの眠っていた棺桶は、地下室に置かれている。
今はまだ昼間であるから、本来であればヴァンパイアは活動を停止している時間帯だ。
しかし、わたしには時間が無い。
わたしは、やり場のない怒りを感じ奥歯を強く噛み締めた。
随分無駄な時間を、使ってしまったようだ。
本来、デルファイにアルケミアの魔道師がきた場合は、夜の眷属となりアルケミアでの記憶と魔道を操る力を手にして目覚めるはずだった。
しかし、新宿の病院でわたしは無駄な時間を過ごしてしまっている。
その悔しさは怒りとなって、胸の中に紅蓮の炎を巻き起こしていた。
なんにせよ、これ以上無駄な時間を過ごすわけにはいかない。
わたしは、頭上を見上げる。
地下室への入り口となる扉は、4メートルほど上にあった。
かつてそこに至るために取り付けられていた階段や梯子は、全て取り外されている。
もしひとがこの地下室に入り込もうとすれば飛び降りるしかないし、飛び降りたとしても出ることはできない。
わたしは、4メートルの空間を一瞬で跳躍し、扉の中へ入る。
ヴァンパイアであるわたしの身体能力は、昼間は低下するとはいえこの程度のことは楽にこなせた。
さらにそこから竪穴を昇り、床の蓋をあける。
わたしは、地上に出た。
そこはかつてカトリックの教会であったようだが、今は廃墟となっている。
おそらく十字架が置かれていたはずの聖壇は、今は空になっていた。
神を祀る場所に、魔物と呼ばれるわたしが住むのはたちの悪い冗談みたいなものだ。
わたしは、薄暗いとはいえ廃墟に差し込むわずかな陽の光を浴びる。
映画に出てくるヴァンパイアのように灰になったりはしないが、太陽の光はわたしの身体に悪寒をもたらす。
わたしは、叫んだ。
「チャンドラ!」
わたしの下僕である、人狼のチャンドラが姿を現した。
人狼はやはり夜の活動を好むが、ヴァンパイアと違い陽の光を浴びたからといって能力が低下するわけではない。
だから、多くのヴァンパイアは人狼と契約し、昼間の警護にあてていた。




