夜明けから夜まで 第八十話
ニューヨークを壊滅させた後、黒十字の軍隊は北米大陸を支配下に置いたようだ。
かつてこの島国を支配した帝国軍は、太平洋とインド洋で黒十字の軍隊と対峙し戦争を行っている。
わたしの知る史実とは、違う。
このニュース映像は、架空の世界で報道されたものという前提で作られたのだろうか。
それならば、とてもよくできているように思う。
けれど、それが本物であるという証拠は当然どこにもない。
CGの技術を使えば、現実のニュース映像を加工してこれくらいの映像を作り出すのはそう難しい話ではないように思う。
まあ、そんなことをする意味を問われると、答えに窮することにはなるが。
やがて、映像は黒十字の軍隊を支配する独裁者を映し出す。
昏い情熱を内に溜め込んだその独裁者が演説する様は、黒い炎が燃え上がる情景を連想させた。
独裁者の周りを固める軍服姿のおとこたちは、ゲルマン人らしく金髪碧眼の偉丈夫である。
わたしは、ふと違和感を覚え映像を止めた。
美しい野獣である黒十字の軍人たちの中に、ひとりの少女が混ざっている。
とても奇妙なことに、その少女は白い肌に黒髪であったにも関わらず、わたしは自分がそこに映っているかのような気持ちになった。
さらに、もうひとつ奇妙なことがある。
その少女が持つ、本に見覚えがあった。
それは頑丈そうな皮の表紙を持つ、重厚な佇まいを纏った本である。
表紙には、金色の文字が印刷されているようだ。
その本は、とてもよく似ているように思う。
わたしの養父である、別宮六指が持っていた本に。
その時、少女は笑みを浮かべた気がした。
わたしは、心臓を氷の剣で貫かれたようにぞっとして喘ぎ声を漏らす。
映像は止まっているのに、その少女はわたしのほうを見つめわたしに微笑みかけたような気がしたのだ。
少女はまるで時間と空間を超え、わたしに向かってメッセージを送ってきたように思える。
わたしは、恐怖にかられ端末を閉じた。
わたしの部屋に、闇と静寂が降りてくる。
その時、わたしは確認した。
これは夢の中でアナスタシアにカードを渡されたときにおこったことが、今まさにもう一度おこったのだ。
ブラックソウルの言葉を借りれば、わたしの中にあった座標位置は上書きされた。
夢が、わたしの中で嵐のように巻き起こりつつある。
わたしは、再び旅立つのだ。
本来、わたしがゆくはずであった場所へ。
わたしは、巨大な渦に巻き込まれてゆくような眩惑を感じながら、全てを飲み込んでゆく夢の中へと落ちていく。
わたしの意識は、闇にのまれた。




