夜明けから夜まで 第七十九話
わたしは廊下を歩きながら、複雑な感情に捕らわれる。
まるで酩酊しているかのような気分で、わたしは自分の部屋へ向かった。
なぜか記憶が曖昧になってしまうほどに、わたしの捕らわれた感情は激しくこころを揺るがす。
それは奇妙な高揚感と、ひりつくような孤独感、そして燃え盛るような哀しさ。
それらが渾然一体となってわたしのこころを、強く揺さぶっている。
それでもわたしは再び病院を半周して、自分の部屋へとたどり着けたようだ。
しかも、途中で事務所によって、情報ディスクを再生するための視聴覚端末を借りるということまでやってのけていた。
わたしは薄暗い自分の部屋で、自分をとりもどす。
ベッドの上に腰をおろし、目の前に端末を設置する。
薄暗い部屋の中で、端末のディスプレイが夕闇が持つ仄かな輝きを放った。
わたしは、こころ落ち着かせようとするが、それを裏切って心臓が勢いよく鼓動を打つ。
緊張で口の中が干上がるのを感じながら、少し震える手で端末にディスクを差し込んだ。
数回、ディスクのヘッダをシークする音が響いた後、自動的に映像の再生がはじまる。
それは、全く予想もしなかったような映像だ。
どうやらそれは、ニュース映像らしい。
モノクロームで、画質が相当悪いことからかなり昔のニュース映像であることが想像つく。
わたしは、少し拍子抜けしたような感覚を味わう。
それはどちらかといえば、地味で退屈な映像のように思える。
一体、ブラックソウルはこの映像が、なぜわたしの行き先を示すと思ったのだろう。
全ては、彼の妄想だったのだろうか。
わたしは、彼の妄想に取り込まれ精神を混乱させているだけなのだと、思えてくる。
わたしは首を振ってそんな思いを追い払い、モノクロームのニュース画像に神経を集中させた。
それは、半世紀以上昔の映像のようだ。
主に、戦争のニュースを寄せ集めたものらしい。
レシプロエンジンでプロペラを駆動する戦闘機が、古めかしい鋼鉄の塊である空母から飛び立つ映像が表示される。
あるいは巨大で洋上に浮かぶ鉄の城である戦艦が、灰色の海を切り裂いて進む映像が表示されたりした。
わたしは軍隊の歴史にそれほど詳しくはないが、この極東にある島国を支配していた帝国軍に所属していた艦船だと思える。
そのニュース映像を見ているうちに、こころの片隅がひび割れてきたような違和感をわたしは感じ始める。
具体的に何がどうおかしいのかを言葉にすることはできなかったが、このニュース映像はどこかおかしかった。
やがて決定的に、奇妙な報道がはじまった。
それは熱核反応弾が、使用されたニュースである。
わたしの記憶では反応弾は、この島国にあるふたつの街におとされたはずだ。
しかし、ブラックソウルにわたされたニュースは、史実とは異なる報道を行っている。
反応弾が爆発した場所を、アナウンサーが世界地図の上で示していた。
それは三個所であり、ニューヨークとロンドンとエルサレムだ。
その反応弾を大陸弾道弾に乗せて発射した軍隊も、ニュース画像に登場する。
その軍隊は、黒い十字を兵器に印していた。




