夜明けから夜まで 第七十七話
一度アナスタシアに話しただけあって、今度は手際よく話すことができた気がした。
そうしてわたしはキエフの砦に夜明けが来て、世界を救う旅にでるところまで語り終える。
そのとき、わたしはふと思った。
もしかすると、助け手というのは師匠のことではないのだろうか。
そう思うと胸が熱くなり、こころが踊った。
師匠にそのことを問うて見ようと思ったその瞬間、師匠が口を開く。
「奇妙だな」
わたしは予想外の言葉に驚いて、目を見開く。
まあ、確かに奇妙といえばわたしの話は奇妙なことだらけではある。
でも、師匠にとっては自分の元居た世界のことのはずだ。
師匠は、わたしの驚いた顔を無視して言葉を重ねる。
「おまえに、記憶はないのだな」
記憶がない? わたしは戸惑った顔をして師匠を見つめる。
師匠はわたしの反応を気にとめた様子もなく、さらに言葉を続けた。
「アルケミアの魔道師がデルファイに来るときには、王国の記憶をそのまま持ってくるはずだ」
え、となったわたしは思ったことを口にする。
「では、わたしはアルケミアの魔道師ではない、ということなのでしょうか」
師匠は表情を変えずに、首を振る。
「その解釈は、合理的とはいえない。おまえは、間違った場所にきてしまったのだ。おそらくは」
わたしは、目の前が昏くなる。
師匠は容赦なく、言葉を重ねた。
「おまえが王国を出るときにわたされたカード、そこに記された座標位置が正確ではなかったのだろう」
わたしの頬を、涙がつたう。
ごく自然に、わたしの瞳から涙が溢れでていた。
こころの中から沸き起こる絶望と哀しみを止めるものは、何もない。
わたしは子供のように声をあげて、泣き出してしまう。
師匠は全く表情を変えず、平然と言い放った。
「何も心配することはない、手違いは正すことができる。このおれの手で」
わたしは驚愕のあまり、目を見開く。
師匠は、少し憮然とした顔で傍らからハンカチを取り上げるとわたしのほうに放った。
わたしは涙をふき、鼻をかむ。
師匠は、変わらぬ調子で言葉を続ける。
「間違った座標位置を渡されただけだ、正しい座標位置で上書きをすればすむ話だな」
わたしは、師匠を見つめる。
「師匠はそれを、持っているのですか?」
師匠は、頷いて見せた。




