夜明けから夜まで 第七十四話
鴉の姿は仮の姿であり、元々はアジア東部に存在した古代王朝である夏の国に住み魔道師を生業にしていたと本人は主張する。
フェイフゥーは、魔法の力で鴉の姿に変身し現代に蘇ったらしい。
彼は、わたしとわたしの養父と共に新宿の街で暮らしていた。
わたしの養父、別宮六指もまた魔道を扱うひとであり、フェイフゥーは彼の相棒ともいえる存在であった。
やがて別宮六指は、世界が破滅するのを幻視して自殺するのだがフェイフゥーはそれを気にしたふうでもなく、わたしの周りに出没する。
そもそも、しゃべる鴉というのがわたしの妄想が生んだ幻覚ではないという保証があるのかという話なのだが。
フェイフゥーの言葉は、わたしにしか聞こえない。
マンガやアニメであるように頭の中へ直接話かけるやつではなく、わたしには聞こえる声がふつうのひとには聞こえないようだ。
一度、ICレコーダーにその声を録音してみたことがある。
それは、ひとの可聴域を越えた高周波で語られる言葉であった。
なぜ、わたしはそんな高周波を聞き取ることができるのか。
なぜ、フェイフゥーは鴉のくせにひとの言葉を高周波で語るのか。
全ては謎であり、納得のいく説明をわたしは持っていない。
もちろん、全てが手の込んだわたしの妄想である可能性は残っているし、その可能性は高いと思う。
わたしははたから見れば奇異に見られるのは承知の上で(もちろん、そんなことを気にしてもしょうがないけれど)、フェイフゥーに話かける。
「あなた、デルファイという街に聞き覚えがあるかしら」
フェイフゥーは、もし笑うことができれば笑ったであろうが、鴉であるため漆黒の瞳を綺羅綺羅輝かせただけである。
「何を、言ってるのね」
フェイフゥーは、少し馬鹿にした調子を含ませて語る。
「ローズ、あんたの師匠はこの街のことをデルファイと呼んでいたのね」
わたしのこころに、灯がともる。
驚いた、確かに馬鹿にされてもしかたがない、なぜ忘れていたのだろうかと不思議に思う。
多分、わたしは真っ先に師匠のところへ行くべきだったのだ。
師匠、ブラックソウル、もしくはリュウ・ジャック・デリダは確かにことの街をデルファイと呼んでいた。
そして、自分は王国からやってきたと語っていたのだ。
わたしは、多分満面の笑みを浮かべていたと思う。
フェイフゥーは、そんなわたしを怪訝そうに見ている。
わたしはそんなことにお構いなしに、叫ぶように言った。
「ありがとう、フェイフゥー」
わたしは、師匠の病室へ向かった。




