夜明けから夜まで 第七十話
ただそれは、今まで見てきた異なる現実とは違い、あまりに凄惨である。
何しろ、世界が滅ぶというのだ。
このわたしが、助け手を見出すことができなければ。
それが現実であるというのであれば、10代の平凡なおんなの子にとってあまりに過酷だ。
わたしは、気分を落ち着けるために談話室へ向かうことにする。
室内靴を履くと部屋の扉を開き、廊下へ出た。
建物全体は閉鎖されているとはいえ、この中は自由に行き来することができる。
廊下は、薄暗い。
夜明だからというのでもなく、いつもそうだ。
照明は鉄製のアールヌーボーを思わせる流麗なラインを持った燭台に、つけられている。
壁や天井、柱にはゴシック調の装飾が施されていた。
所々に、エッチングで描かれた西欧の風景画がかけられている。
知らずに入り込めば、欧州にある古城だと思うかもしれない。
わたしは、貴族に攫われ城に幽閉された姫君になった気分で廊下を歩いていく。
廊下の向こうに、人影が現れる。
東南アジア風の濃い顔と、浅黒い肌を持つおとこが近づいてきた。
顔立ちは整っており精悍であるが、何よりその顔を特徴づけていたのは額にある銀色の三日月形をした刺青だ。
右足が義足で左手が義手であるそのおとこは、作り物の足であることを感じさせない滑らかな歩行でわたしの側までくる。
「おはよう、チャンドラ」
わたしの呼びかけに、義足のおとこは会釈をする。
そして、少し表情を曇らせて問うた。
「どうした? 悪い夢でも見たような顔をしているな」
わたしは、思わず苦笑する。
「気にしないで、いつものことだから」
チャンドラは、頷く。
実際のところ夢の内容で気分が塞ぎ込むのは、いつものことだった。
今回は、特別ダークな気分にさせられてはいるが。
チャンドラは、少しため息をつきながら言った。
「談話室に、アナスタシアがいる。話でもしてみなよ」
わたしは、無理やり笑顔を浮かべるとチャンドラと別れる。
チャンドラは気持ちの優しい、いいおとこだと思う。
ただ、時折頭の中に誰かを殺す命令をインプットされることを除けば。
そうなると、誰の言うことも聞けぬまま戦いつづけるため薬物で昏睡状態にさせられるが、幸い今は暗殺指令を受信していないようだ。
わたしはまた、廊下を進んだ。
真っ直ぐな廊下を突き抜けると、突然広間に出る。
そこが、談話室だ。
学校の講堂みたいに広々として、とても明るい。
右手に煉瓦で出来たアーチで飾られている、ステージがある。
十字架はないが、教会のようでもあり芝居小屋のようでもあった。
その向こう側は、大きな窓がありそこは鉄格子が填っていない。
そこからベランダに出ることができ、さらに向こうは中庭がある。
窓から飛び降りることはできるが、多分その下のネットに落ちるだけで自殺することはできない。
また、中庭に降りることは可能だが、そこから外へ出ることはできなかった。




