夜明けから夜まで 第六十九話
いつものように、眠りという深い海の底から浮上し目覚めにたどり着く。
それは藍色の闇から、青い輝きの中へと解放される感覚をもたらす。
目を開いた瞬間、真っ白な天井が目に飛び込んでくる。
わたしは、暫く頭がはっきりせず微睡みの中を漂う。
完全な目覚めは、雷撃のようにいきなり訪れた。
わたしは、ベッドの上に上半身を起こす。
そして、全力疾走を終えたランナーの喘ぎをもらした。
とてつもない、夢を見たような気がする。
わたしはそれを、夢として片付けることができなかった。
あまりに全てが、わたしに臨場感を持って迫りすぎる。
わたしは、部屋の中で立ち上がった。
黒い素肌が、薄闇の中で淡い輝きを放つ。
多分、わたしのダークブラウンの瞳は、闇の中で金色にも似た輝きを宿しているはずだ。
わたしは、部屋の窓を見上げる。
その窓は随分高いところにあり、かつ鉄格子もはまっているが空を見ることはできた。
窓は、西向けにつけられている。
そこから見える空は、深い藍色をしていた。
けれど、その藍は奥深いところから湧き上がってくる輝きに満たされつつある。
東の空は、おそらく朝焼けで真紅に燃え盛っているだろう。
ちょうど、わたしが夢の中で眠りについた時間ということだ。
わたしは、サイドボードに置いていた白衣をとって身につけながらぼんやりと考える。
あれは、夢だったのだろうか。
判らない。
わたしは、ひとつ奇妙な確信がある。
それは、魔法が使えるということだ。
ひとによっては狂っていると思うだろうし、現にこんな病院に入院しているのだからそれを否定するつもりもないのだが、わたしは魔法を使えると思っている。
ただ、使うという言い方には少し語弊があり、正確にいうとわたしの中で魔法が働くことがあるという確信を持ってるということだ。
つまり、その魔法はわたし自身でコントロールできるものではない。
魔法が働くと何がおこるかというと、わたしは世界を移動することになる。
夢の中でわたしは、平行して存在しているのであろう別の世界へと移動するのだ。
どのような世界に行くかを、コントロールすることはできない。
そして大体において、移動する先の世界と元の世界の間に大きな差異が存在することは無かった。
それはちよっとした違和感、あったはずの大きな建物が消えていたり、歴史上の事件が記憶とことなっていたりそういったことによって、わたしは世界を移動していたことを知る。
多分、妄想として片付けられることなのだろう。
しかし、わたしにとってそれは、確かな現実であった。
そして、さっきの夢もわたしにとって間違いなく現実なのだ。




